第15話 『魔王』、理(ことわり)を説く
誰もいないと思われていた場所―――だからこそ僕達は白チャットで会話をしていた、それも…僕達自身の言葉で。
普段の生活をしているなら『僕達自身の言葉』で会話をすると言うのは違和しか感じないだろう、けれどここは仮想の世界…オンライン・ゲームの世界―――
この仮想の世界では誰しもが自分を作っている…『男(女)が女(男)』に、『成人男(女)性が幼女(男児)』に、『ギャルが淑女』に、『いじめられっ子が悪人』に―――等と例を挙げると限がない。
『自分を作る』と言うのはネットの用語で『
そしてこの時も…『誰もいないと思って』いた―――その前提条件が間違っていたのだ。
そう、そこには一体いつからいたのか、不敵な感じのする男性キャラがいたのだ。
しかも僕達の痴態の一部始終を見ていたものとみえ、僕だけに
しかしこの時、僕はあるひとつの違和を覚えていた。 それというのも配信者等は自分が知っている情報を拡散させ1人でも多くの『
「なるほどな、貴様の言いたい事は概ね判った、それで何を要求する」
「『要求』? 生憎金には何ひとつ不自由なんぞしていなくてね、あると言うなら『シゲキ』―――かなあ」
「『シゲキ』…なるほどな、貴様も我輩と同じく強者を追い求めるか」
「ま、そう言った処さ 最近中々に退屈していてねえーーーあんたなら、させてくれないんだるぉお~?『退屈』―――」
「それに応じてやるのも
「何が言いたい―――」
「これまでの言動を解するに、貴様が配信者ではない事は判った…あ奴らは自らの手柄を誇張する為に他人の“秘密”を不必要にバラ撒きおるからな」
「そこんところは相変わらず―――ってなワケか…何の進歩もしてねえのな こう言った技術ばかりが進んでも人間の“ココロ”や“感情”と言った様なモノは進歩するどころか退化する一方だと嘆いていたもんさ“オレ”の雇い主はな」
「貴様に、『雇い主』だと?」
「ああーーーそうさ、今の“オレ”は雇われの身でね早い話し『プレイヤー』ですらない」
ここでひとつ判った事がある、未だに自分の事を名乗らないこの男性キャラは、このオンライン・ゲームにログインしているものの実際にプレイをする『プレイヤー』等ではなく、ゲーム上にある不具合や不正の実態を暴くために運営側に雇われたと言っていたのだ、すると三橋さんは……
「ちょ…待ってよ、それってどう言う事?『
「さあーてね…“オレ”の『雇い主』があんたの事をどう思ってるかは知らないが、“オレ”は『雇い主』が感じてる事を
三橋さんは、外部から提供されたこのオンライン・ゲーム『プログレッシブ・オンライン』の運営・管理を『委託された』と言っていた。 三橋さんの実家である『トリプルブリッヂ・コーポレーション』は後発ながらも画期的なシステムを導入したプログラムを世に出し、メキメキと頭角を現しつつあったIT企業だ、しかし世の
まあそれはそれとして、三橋さんが頼みとしていた外部協力者が、三橋さんに相談もなく何らかの対案を講じてきていた―――?
三橋さんも彼女の内部では対等な関係であろうと思われたのが、実はそんなに信用されていなかった―――その事を知ると途端に意気消沈するところとなり……
「あれれ~?さっきまで
「お前ぇ…なにしてくれてんだぁ!」
「待て、マクドガル―――そいつは
マクドガルである高坂瑠偉は僕の幼馴染みでもあり、また幼少期には同じ町内にあった『剣道倶楽部』に通う
因みに剣道の有段者でもある瑠偉ちゃんは剣道の所作を反映させる事が出来る―――つまり今の“
だから―――
「なっッ―――オレ様の剣が…空を切った?だ、と」
力強い踏み込みからの素早い接近、そこから絶妙なタイミングと言えるまでの抜刀の術に『捉えた』―――と、思ったのだが、なぜだかマクドガルの剣は虚しく空を切っただけ…
僕もタイミング的には瑠偉ちゃんが放った剣閃は謎な男の身体を捉えたものと視ていたが、当たる瞬間なにか―――…
「ふひょひょひょひょ、危ねぇ危ねぇ、久々なもんだったから当たっちまうところだったわ」
「貴様―――今、何と言った?」
「ん~?『久々だったからぁ、油断こいちまってつい当たっちまうところだった』と言ったんだよ」
「何だその言い方…まるでなにかをしたから当たらなくなったと言っている様なモノではないか」
「あれ?そう言ってねえ? まああのままなにもしなかったなら当たっちまっていたって事にはなるわなぁ」
“ナニカ”…何かがあの男には働いている―――そう直感した僕は証明する為にその男に
私は剣道の有段者だ、だから私の剣が―――どう言った踏み込みで、どう言った接近をして、どう言った風に剣を振るったら相手の身体に当たるかが判っている。
先程放った剣も、必ず
すると私の敵討ちと言わんばかりに健くんが謎な男と剣撃を交わしていた、そしてやはり…
「ふふん…やーっぱ強えぇわ“現役”は、この“オレ”も現役の時には相当腕を鳴らしていたもんだったが、5年ものブランクがあっちゃあなあ?」
「ねえ健くん、あいつやっぱり…」
「ああ、すり抜けているな―――我輩たちの攻撃のほとんどが」
そう、そう言う事だ、何故かこの謎な男に攻撃が当たる―――と思ったその瞬間、その謎な男の周囲だけ画像がぼやけ、その結果として謎な男はダメージを負っていないと言う事になるのだ。
これはいわゆる不正行為なのではないか―――と疑いたくなるのだが、ある事実がその衝撃性を伴って謎な男から告白されたのだ。
「おお、気付いたか そこは褒めてやらなくもないが、惜しいかな…そいつは『すり抜け』なんてチンケなモノじゃねえ、“オレ”が持っているのはなあ…」
僕は、その“噂”は知っていた―――その“噂”だけは知っていた。
この謎な男が現役から引退をした“5年前”、ある1人のプレイヤーが話題となっていた、なんでもそのプレイヤーはとあるゲームのエリア・ボスである『魔王』を1万回討伐した事により、その『魔王』が持っている畏るべきスキルの1つを奪ったとされていた。
1つのゲームやシナリオ等で最終盤に登場して来るボス・キャラ『魔王』、当然構成・構築されているスキルなどは規格外のものが多く、初見では実に多くの新規プレイヤーが心折られたとか。
けれどそうした強キャラを飽くことなく1万回も
しかもそのプレイヤーは以降を
だが、いま気にするべきはそんな事じゃない―――問題なのはそのプレイヤーが『魔王』から奪ったスキルにあるのだ。
では、その畏るべきスキルとは……
「―――『
「ほぉ、知っていたか、5年もありゃ知られていないもんだと思っていたがなあ」
「なるほどな…つまり貴様が『人中の魔王』と讃えられた―――」
「
「それはおかしいではないか、ならばなぜ貴様は“今”―――」
「あれ?“オレ”言ったはずなんだけどなぁ、以前お世話になってた『雇い主』から『どうしても』とせがまれてなあ、急遽新しく作り直したもんよ―――このキャラ『インコグニート』を」
「【誰でもない者】だ、と?」
「気が利いてるだろう? もうオレはプレイヤーじゃない、オンライン・ゲームとは
その謎だった男が『インコグニート』と言うキャラを新たに作り直した経緯は判明した―――が、まだひとつ解明されていないモノがあった
それは―――
「それは判った、判った事にしておく だけど判らない事がある、確かあんた言ってたよね『5年前のキャラはあんた自身の手で消した』と だとしたら『
「ま、信じて貰えるとは思っちゃいないがな “スキル”なんてゲーム上だけのモノがゲーム上だけじゃなくなった―――てとこかな」
「そんな―――バカなこと…」
「そいつはオレ自身も思った事さ、けどなあオレの『雇い主』様である“おこばあちゃま”はそうじゃあなかったらしい」
「『“おこばあちゃま”』?」
「それより、“聖女キャラ”のあんた、オレからの質問だ あんたんところの会社を救ってくれた『外部提供者』の事、覚えてるか」
そう、キャラのデリートをしたならその時点まで身に付けていた装備やスキルまでも消されてしまう、だから皆キャラのデリートをする際には価値のある装備を外したりするものだ、ただスキルに関してはその限りではない、スキルは装備みたいに一度身に付けたら取り外しが出来ない為、いいスキルはお気に入りのキャラにつけたりするものだ。 だけど『インコグニート』は言っていた、『5年前に使っていたキャラは自分自身の手で消した』と、その言葉の意味するところは例の『
そこは三橋さん自身も驚いたものだったけど、まだ更に衝撃的な事実は続いた、それが『“おこばあちゃま”』なる存在、しかも三橋さんもその存在の事を問われると…
「え…た、確か見かけは幼い女の子の様にも見えたけれど、提示されるモノが素晴らしくてさ―――それに藁にも
「なあーるほどねぇ~クックック―――
「ね、ねえ…あの人、私を見限ったりしないよね? 見棄てたりなんか―――」
「そいつは知らねえ、と言うよりオレ如きじゃなんとも言えねえよ、だってオレは“おこばあちゃま”自身じゃないしな」
「だ、だったら私達の
気が付くと、いつのまにか
なんだ、そう言う処って僕達と案外変わんないもんなんなんだな―――
そうと判れば僕達も手助けするのは
「ああ゛? 知らねえよそんな事 これだから金持ちって言うのは困る、自分
「自尊心もプライドも同じ意味だと思ったんだけど―――」
「う、うるせえ! おいそこの“ガチムチ髭面中年男”―――手前ぇさっきからキャラ崩壊しっぱなしなんだよ! ロールプレイするんだったら最後までやり通せよ、そこのヤベえヤツみたいにな」
この人異常だ―――仲間だった人達にもお金持ちってだけで容赦しないなんて…(けれどこれはこれで作中の設定としては使えるわね)
それに私もつい我を忘れちゃって自分でキャラ建てしてた事を忘れてしまっていた、まあ確かにそう言った処はこの人が言っていた事の方が正しい。
私もこのゲーム『プログレッシブ・オンライン』に関しては健くんと同じくらいの時間をプレイしている。 そうした事が判ったのは、私と健くんのリアルが判った時点でプレイし始めたのはいつの頃か聞き合ったのだ。 そうした事もありプレイ開始時間はやや健くんの方が早かったみたいだったけれど、ほぼ同じ時間を費やしている―――健くんのメインキャラである『トラビアータ』とはお互いのリアルが判るまでに何度か組んだ事がある、それも頻繁に…そうだったとしても私は『トラビアータ』が健くんだった事は知らなかった、それだけ健くんが幼女キャラの
そこは私も―――だったんだけれど、気になる
それにしても今―――インコグニートは妙な事を言わなかった? あちらもあちらで私達の攻撃が掠りもしないヤバい奴だと思うのに、そのヤバい奴をして健くんの『ダレイオス』がヤバいって…
「オレはよ、オレ自身が言うのも何だが“クズ”な野郎だって事は判っている やれ『オタク』だの『ニート』だの『引き篭もり』だの言われてたしなあ、だけどそんなオレでも取り柄の一つと言うのもあったものさ それがゲームだ…オンライン・ゲームの世界だ、そこはここにいる手前ぇ達も同じことが言えただろう 例えばの話しだ、自分が期待していた…あるいは待ち焦がれた新作ゲームがあったとする、発売する数ヶ月も前からTVやネットで
「えっ、控え目に言ってなにそのクソゲー」
「て言うか本編始まらないのに“
けれどその
「ああーそう思うだろう、全くもってその通りだ それによ、やっぱ一番楽しいのは休みの前だとは思わないか? まだ来もしない
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