第8話

翌朝、目覚めたネイホンはエーテル操作を身につける訓練を始める。

毎朝支給される生きるために最低限の量が入ったエーテル瓶を寮入り口にて受け取り、部屋へと戻る。

普段はグビっと飲み込んでいたが、今日は違う使い方をしてみようと机の上に置き、棚にあった大瓶のエーテルも取り出す。少々飲んでしまったが、まだ3分の2ほど余っている。


エーテルを操る必要があるなら、まずは体内のエーテルを感じる必要があるはずだ。

この点について調べ物をせずとも修行に入れたのはひとえに前世の記憶があったからだ。

前世では勇者だったネイホンは剣を中心に扱う戦士だった。直接戦闘を行うには気術という肉体活性法を学ばねばならなかった。気術というのは自分の中にある活性エネルギーを過剰に出力し操作する技術だ。この説明からしても、エーテルとエーテル操作、属性の関係に似ていると思った。

気術の修練方法を真似して、まずは体内エーテルの存在を細かく認知するところから始める。

気術は師匠となる人から少しずつ気を流してもらい、その違和感から存在を覚える。だが、エーテルは自分で摂取することができるので一人で挑戦できる。


エーテルの小瓶を開けて一気に呑まずに少しずつ少しづつ飲み込む。自分の存在がちょろちょろと大きくなるのを感じる。どこから大きくなる。どこをエーテルが流れている。静かな空間の中で自分を省みる瞑想を深く深く行なっていく。


骨格には肉付きのようにエーテルが流れていると考えていた。仮にも人間の骨格の魔人。人間の血のようにエーテルが流れていく。そういうものだと考えていた。しかしそれは人間の思考。魔人としてのスケルトンは人間を基にした生物ではなく、スケルトンという生物なのだ。核となる部分が頭蓋骨の内部に埋まっており、そこから直接各パーツをエーテルが走り繋げる。人間のようで人間ではないどちらかといえばマリオネットのようなしくみであることを知る。


「これなら、一つ戦えるかもしれない。」


自分のエーテルを把握したことによって一つ戦法が思い浮かんだ。その力を使って虐めてきた奴らに報いてやろう。



翌週の最初の格闘の授業。


「せいれーぇつ!!!気をつけぇ!!」


講師のウルヘルトが大声でがなる。生徒たちは駆け足でウルヘルトの前に並び、各々の種族で体の構造の違いはあるものの、敬意を込めただらしのなくない姿勢をとる。スライムは種族としてだらしなさが目立つのに、どのように気をつけをしているのかがとても気になるが、視線を動かしてしまうとウルヘルトからの叱責が飛んでくるのでみることができない。

もうすでに礼儀や姿勢については一週のうちに叩き込まれている。


「各々好きな相手と二人組になれぃ。組み手から始めぇ!」


ウルヘルトの戦闘授業は組み手を行い、歩法、技、裁き方などの技術を教え、もう一度組み手を行うという繰り返し。

組み手がはじまると、我ら弱い魔物たちは意地汚い奴らに狙い撃ちで拉致されて無理やり組まされる。


「ぶぇへへ!!今日は俺がスケルトンをもらうだで!」


本日はオークと組むことになった。

「初めッ!」の合図で組み手が始まる。

オークは初っ端から突っ込んでくる。肩幅が広く、ガタイの良いオークであるが、体格からは想像できないスピードで突進してくるタックルが脅威である。タックルで肘や膝、蹄をぶつけられた日には吹き飛ぶだけでなく粉々にすりつぶされてしまう。


彼が繰り出してきたのは蹄による張り手。全身で回避するには瞬発力を生み出す筋肉が足りない。骨のみのまま、エーテル操作だけでは間に合わない。

そこで編み出した技を使用する。

今までの訓練では骨を折られないように崩すことで回避していたが、一回きり。仕切り直しのある組み手であるからそれは許されていたが、実際の戦闘になったらバラバラになったあと粉々になって、頭蓋骨砕かれてエーテル吸われておしまい。継戦能力、もしくは逃げるための足がある必要がある。それを解決したのが新しい戦法「骨ずらし」。


「なに?」


蹄張り手をスカしたことに驚愕したオークは姿勢を崩してしまう。

「骨ずらし」は人間の骨格通りに動くわけではないという特性を活用した回避技。攻撃されそうになった対象となる骨の位置をエーテル操作で独立して移動させて流動的に攻撃を避けるという技である。まだ極めたわけではないので、集中が必要かつ大量の骨を大幅に動かすことができるわけではないので油断はできない。

回避を続ければ、そのうち反撃できるような隙が生まれるはずだ。


「ぶふぅ、なんだお前。変な避け方するだ。」


オークは少し動揺しつつも、もう一度攻勢に出ようとする。右足を強く踏み込み、突進してくる。拳の着弾地点を予想して骨をずらす。しかし、オークも同じ手を2度も喰らわない。蹄は肋骨の間をすりぬけたが、オークはそこで、腕を折り曲げて上へと振り上げる。

その速さにネイホンは避け切れることができず、もろにくらってしまう。


「そこの組みやめ。勝者クオクー。」


新たな技術を身につけようと、基礎が劣っていたら勝ち目がない。戦闘経験もクオクーの方が一枚上手であったということなのだろう。

その後も授業を受けるが、自分の新たな技が二手目で破られたことに落胆するネイホンであった。

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転生コミュ障スケルトンは魔王になる ミートB @anoaitsu

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