第7話

「じゃあ次に見よかな」


ムライが名乗りを上げて鏡の前に転がり込む。

スライムの駆け足は跳ねるで、歩くは転がるなのか。今気がついた。


【ムライ】

種族:スライム

位階:幼

属性:嵩

術:水


「嵩って、なんやこれ。」

「とりあえずみていこうよ。」


【マイコ】

種族:マイコニド

位階:幼

属性:蝕

術:樹、水


「ううぅ……。」

「蝕て、溶かしたりするんかねぇ。」


穏やかな様子とは裏腹に凶暴な属性のようだ。

うちに秘めるものがあったりするのだろうか。


【グリモイド】

種族:グリモア

位階:幼

属性:知

術:風、水、土、樹、金


「知属性ですか。私に相応しいです。」

「なにできるかわからんなぁ。」


きっとこの知属性というのは彼の取り込んだ本をそのまま知識として活かすことができるその力のことを指しているのだろう。知を司る魔人ということに違いない。


「ネイホンのもみてみよか」

「そうですね。」


最後になるが自分の番が巡ってきた。鏡のまえに立って鏡面にある枠に手を当てる。


【ネイホン】

種族:スケルトン

位階:幼

属性:合

術:剣武


「合ですか。」

「スケルトンっちゃスケルトンっぽいんやないか?骨が集合して動いとるっちゅうわけやし。」

「さいですか。」


自分としては合というのがいまいちピンとこない。他のものと合体するというのは独り者であった自分からすると違和感がある。剣武術を身につけていると書かれているが、まだ身につけているとは思えない。なんせ同階生にあれだけボロボロにされているのだ。力の差が習得している術の数に現れているのだろうか。ここに書かれている術が習得したものが書かれているのか、それとも習得に向いている才能みたいなものが書かれているのか。それは分からないが、とりあえずは剣の道を進んでいけばいいのかもしれない。


「とりあえず皆確認できましたね。」

「確認できたからどうってわけやなさそうやけど。」

「でも、特殊属性を持っていることが確認できた。そのおかげでひっくり返せる可能性が少しでもある、魔人であるということが証明できたわけだよ。」

「……やられっぱなしで終わるわけにはいかないからな。」

「ま、直ぐにひっくり返せるわけやないからな。どうにかせんといかんのは変わらずあるわけや。」

「ううぅ……」


現状一歩進んだだけであるが、それでも一週で進展が見れたのはいい傾向なのかもしれない。これはグリモイドの知の力が導いたもの。彼の近くにいればその恩恵は受けられるだろう。



翌日、休日であったが、じぶんでも属性への理解を深めなくてはならないと思い、図書室に出向く。

寮を出るところで自分を呼ぶ声がした。


「ネイホンやないか。休日にどこに行くん?」

「図書館。」

「あーん、属性について調べるんか?たしかに知においてグリモイドを頼り続けると、あいつより上にはいけへんもんなぁ。」

「そんなところかな。」


ムライはぽよぽよとついてきた。一緒にくるつもりか。

休日の学校は人気がなくとても静かである。自分の骨の足音が反響して廊下中に響き渡るくらいだ。ムライは吸音機能に優れているのか音を立てない。

図書室は校舎の中央塔二階と三階にある。中央塔入り口にて改札に自分の学生証をかざすとゲートが開く。学園関係者以外の人間がほとんどいないこの街においてこんなセキュリティーをする意味があるのだろうかと考えたが、特に答えも見つからず、見つかったとてと思い考えを消す。無駄なことを考えすぎてしまう癖だ。

図書館に入るとそれなりに人かげが見える。線の細い魔人たちが集まるかと思いきや、体格のいい魔人もちらほらと見える。この学園は自分の思っているよりも学びに成長に貪欲なものが集まっているらしい。

目当ての本を探しにうろついていると魔人学の棚に属性に関する書籍がいくつか散見された。

何冊か見繕い、閲覧用に配置された机に重ねて、椅子に腰掛ける。


属性については横聞の形ではあったが、ゲンナロとグリモイドの会話から少し知識を得ている。

だが、属性は何によるもので育成するにはどうすればいいのかは不明のままだ。

ムライと共に積んだ本を消化していく。


「閉館時間です。皆さまご退室ください。」


アナウンスがなるまで気が付かなかった。それほどまでに集中していたということだろう。

帰りもムライとともに寮へ帰る。


「何か収穫あったか?」

「なんや、あんさんの方から聞いてくるんか。まあ寮で話そうや。」


寮に戻り、情報のすり合わせを行う。談話室だと他の学生に邪魔される可能性があるので何かいい場所はないかと聞いたら、「あんさんの部屋でええやん。」と返事がかえってくる。

当然拒否したが、情報を聞き出そうと切り出したのは自分であったと悔やみ、頭を抱えて了承する。


「おもろうない部屋やの。」

「買うものもエーテルもないからな。」

「エーテルの使い先は自己強化のみか?」

「バレるから部屋に入れたくなかったんだ。」


部屋をジロジロと見るムライは少し嬉しそうである。仕方ないといすに腰掛けると、ムライも飛び跳ねて机の上にのる。


情報を擦り合わせた結果は上々。属性は魔神の権能の一部を分け与えられている。権能は概念そのものであり、その要素にまつわる能力であれば何であれ習得できる。能力の発動にはエーテルを使う。エーテルを操る力が属性能力を鍛える力に繋がる。


「と、こんなもんやろか。エーテル操作が鍵になりそうやな。」

「エーテルの操作については術が近いか?」

「術を鍛えとったら突然できるようになりましたーってもんかいな。」

「グリモイドは修行期間なく習得してたぞ。」

「なにがや。」

「本を取り込んだらそのまま知識として使えるという力。あれは知に属する能力のはずだ。」

「知っとったちゅうことか?あんなフリしとって?」

「知略に優れているんだろうよ。」


ほぉーと声を漏らして考え込むムライ。


「一段階目の能力は意外とすぐ使えるようになるんかもな。」

「エーテル操作をしつつ、属性に準じたことを色々試してみるというのが今やるべきことかもな。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る