第6話



「ゴブラルが貪の間のドアノブを捻った瞬間に消えた、ですか。」

「俺が見ていたのはそれだけだ。」

「やはりこの魔御堂には術の類が施されているのでしょう。」

「そんなん言うとる場合か!消えよったんやで!死んどるかもしれへんやろ!」

「かといって訳のわからないところへ飛び込む気ですか?会って1週も経っていないというのに?」


グリモイドの冷静な言葉にフラストレーションを貯めるムライ。ムライもムライで優しさと大人さが自分の内心でせめぎ合って落ち着くに至る。


魔御堂の荘厳さがさらにプレッシャーとして圧を加え、重みのある静かさが空間を包む。


その静けさを破るように、ドアノブがガチャという音を立てたかと思うとゴブラルが現れる。


「……なるほど。空間の術か。」

「ゴブラル、おま!」

「……どうした?」

「どうしたもこうしたも急に消えよって。」

「…探すなら部屋を探す必要があるだろう。」

「そりゃそうやけど!」


あくまでいつもと態度を変えないゴブラルを見て心配して損したというムライ。あれだけ思いっきり心配できるなんて、きっとムライはいいスライムなのだろう。

続いてグリモイドが貪の間のドアノブを捻り、消える。そしてちょっとしたら現れる。


「ゴブラルさんの言うようにおそらく空間の術が施されているのでしょう。部屋は一般的な応接間といったようで特に階段のヒントになりそうなものはありませんでした。」


「落胆しすぎて本当に肩を落としちゃった!スケルトンだから!」とかこの陰鬱とした空気を変えるためにもやってみようか?と思うも、スケルトンの骨ボケは安直なのではないかと思って心の奥に閉じ込める。

マイコニドなんて考えすぎてふらついてしまっている。キノコは食べた人間を錯乱させるのが常識だというのにキノコ自体が錯乱してるじゃねえかと笑そうになってしまう。


ふらついたマイコニドは階段から落下しそうになるが、なんとか耐えて壁に激突する。

それとともに消えてしまった。


「へっ?!」

「今度はどうしたんやネイホン。」

「マイコニドが…。」

「え、マイコちゃんが?」

「壁にぶつかったと思ったら、消えた。」

「はぁぁぁぁ?!またかよ!」


そういって、今度はムライはマイコニドが消えた壁に体当たりするとムライも消えて、壁のおくから叫び声が聞こえる。

グリモイド、ゴブラル、そして俺で恐る恐る中をのぞいてみると壁の裏には階段があり、そこでマイコニドとムライがべちゃべちゃになっていた。


「階段、こんなところにあったのかよ。」

「謎解き要素の少しもありませんでしたね。」

「見た目のために空間の術を使うだなんて贅沢やなぁ。」


一同で階段を登る。階段の先にはドアが一つあり、そこには「制の間」と書かれている。


「まだありますか。」

「もうええ加減終わりでええよ。」


この後また「詳の間」を探さなければならないのだ。

だが、もう俺の中では当てがある。


「俺はもうわかったぞ。」


グリモイドも分かったかのような顔をしていたが、先ほどの意趣返しなのか先に俺に語らせるみたいだ。


「貪の間の前が制の間だったんだ。ここには関係性がありそうに思えないか?」

「つまり、どう言うことや?」

「詳の逆っぽい部屋の前の壁が詳の間に繋がる入り口という訳だ。」

「じゃあ、逆っちゅうのは?」

「俺の予想だと、隠の間だ。」

「何度も登るよかええか。直ぐ近くやし行ってみようや。」


グリモイドも同じ考えだったのか指摘はしてこなかった。心なしか大股で歩いている。

入り口を挟んで反対側なのですぐについた。


「この壁を登れば詳の間があるはずだ。」


皆して階段を登る。緊張感があるのは俺だけのようだ。グリモイドあたりは失敗しろとまで思っているかもしれない。

階段を登ると、そこには「詳の間」があった。止まらないドヤ顔。しかし骨なので表に出ない。グリモイドは悔しそうな反応をしている。

中に入るためにドアノブをひねる。すると、空間転移したように瞬時に周りの景色が部屋となる。

部屋の中には大きな姿見のようなものが置かれていた。


「これが属性を見られる分析鏡です。」

「……なるほどな。」


グリモイドの所有知識の中にこの鏡のことがあって助かった。使い方がわからなかったら困るところだった。


「じゃあ、早速属性見てみようや。どうやってみるんや?グリモイド。」

「そうですねぇ。わからないです。」

「わからないんかい。」


困った。


「……色々やればよかろう。」


全員固まってたらゴブラルが仕方ないと言わんばかりにため息を吐き、鏡に近づく。


「いやいや、そんな適当に触ったら壊れるです。」


グリモイドの静止も虚しくゴブラルが鏡に触れる。鏡には良くみるとここに触れろと言わんばかりに薄く輪が描かれている。

ゴブラルはその輪ではないところばかり触り、あーでもないこうでもないとしている。

止めた身としては助言をするのも憚られるのでじっとみている。グリモイドもおそらく同じ心情なのか、人間の体が明滅している。


「……ここか。」


意外とわかりやすく描かれていた輪を見逃していたことに気がついたゴブラルはいつもの太々しさが消えて慎ましやかに輪に手を合わせる。

ゴブラルの姿の周りにはさまざまな情報が浮かび上がってくる。




【ゴブラル】

種族:ゴブリン

位階:幼

属性:増

術:斬武、突武、指揮




「……これだけか。」

「意外とそういうものなんだろうな。」

「増属性というのは?」

「増えるんでしょうね。」

「増えるんやろうな。」

「・・・ふえる。」

「……何がだ。」


皆、目を逸らした。空気を入れ替えるかのようにグリモイドがここぞとばかりに属性に対する知識を披露する。


「属性というのは術とは別の能力で、大きくエレメント系と特異系の二種類にわけられます。属性の力というのは概念的なものであり、術のように系統立てられていません。つまり属性にまつわることであればなんでも引き起こすことができます。」

「……つまり?」

「増えるんでしょうね。」

「……何がだ。」



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