第5話

「属性、ねぇ。」


ゲンナロが去った後、教室で互いを見合う3人。

ネイホンとしては非常に気まずい状態である。他二人はどのように考えているのかとちらっと一瞬だけ視線を送ってみると、

さも裏切ってしまったかのような気まずさである。もしかしたら自分を裏切った人たちもこんな思いだったのかなと思いながら話を繰り出す。


「魔人ごとに振り分けられる能力、みたいなものか?」

「大分簡単にいうとそうですね。」


グリモイドが属性について説明をしてくれるかと期待したが何も言わない。ゴブラルは腕を組んで目を瞑り俯いている。理解しているみたいな面をしているが本当のところはわからない。

ここは勇気を出して聞いてみる。


「属性というのはどうやったらわかるのか?」

「ふむ、魔御堂2階の詳の間にある鏡にてわかるようだな。」

「なんで知ってるの?」

「学校案内の際に地図を食しましたから。」

「では、行くか。」


ゴブラルが目を開いてむくりと立ち上がる。そうですねと言ってグリモイドもそれに後ろからついてゆく。

俺も遅れをとるまいと二人の後に続く。


校舎を出ると魔御堂までは一本道である。学校を出てしばらく歩くと街が見えてくる、これは港町ゼムラである。学校で必要な備品を販売していたり、武器や防具などの装備品の製作販売をする工房、その他学生が商売や活動をする店が多く立ち並んでいる。

ナイデス文具という老舗の文具店の前を通り過ぎると大交差点があり、ここを左に曲がると街の中心地があり、その奥には港がある。島と外の間は定期便が行き来しており、物資や就軍活動をしている四階生が利用している。一階生に船を利用することはないので基本的に港に立ち寄ることはない。

右に曲がると魔王たちがこの島に来た時に接待するための迎賓館がある。先日の我々の誕生儀式では多くの魔王がやってきてここを利用したそうだ。といっても立ち寄った程度で、大体の魔王は儀式が終わり次第自分の領地へとすぐに帰っていったとのこと。残った魔王はここでも四階生の勧誘や面接をしていたという話だ。


大交差点を通り過ぎてモスカバー工房をすぎると景色は打って変わって草原と森といった自然豊かなものになる。と今度は右手に寮が見えてくる。いつも暮らしている寮「階段寮」だ。階段を横倒しにしたような見た目をしており、横にした時の一段目に当たる部分に生まれたばかりの魔人が割り当てられる。そこから一階生、二階生と呼ばれるようになった。


寮を通り過ぎようとするところでグリモイドが立ち止まり、発言する。


「あ、そうでした。君ら以外にも属性が気になる魔人がいるんです。」

「我ら以外にもか。」


先ほど話に上がっていた極端に弱いとされる魔人に当たるのがスライムとマイコニドだ。

完全に名前は出していなかったが、きっとそうであろうというあたりでしかないが。

グリモイドは寮の中に入っていく。グリモイドはどの部屋に誰が住んでいるかも頭に入っているのだろうか。本当になんでも知っているのか。


「お待たせしたです。」

「え、なんやなんや?ゴブラルやんとスケルトンの骨さん?名前知らんもんで、すまんなぁ。」

「・・・・・・。」


連れてきたのはスライムとマイコニド。大正解だ。

スライムはやかましいのだが、反対にマイコニドは無口だ。


「俺の名前はネイホンだ。」

「ネイホンさんかぁ!スケルトンの魔人で間違いないんよなぁ?うちはスライムのムライや。よろしくなぁ!」


雫形の体から触手を伸ばして握手を求めてくる。骨ゆえに液体にぶつかることができなかったのか、手がスライムの触手の中に入ってしまった。


「なんやこれププッ!仲良うなった証かね?プププ!」


意外と愉快な奴のようだ。攻撃的な皮肉で俺を排除しようとのかと思ったら、本当に名前を知らなかったみたいだ。まだ名乗ったことが無かったことに気が付いていなかった。第一、学校も始まったばかりだから知らなくて当然だろう。

いや、待て。ゴブラルのことは知っていたぞ。それとグリモイドともある程度親しげに話している。これは、出遅れたということか?マイコニドと比べればまだしゃべっている。大丈夫だろう。


メンバーは5人に増えた状態でまた魔御堂を目指して歩いてゆく。


「いやーネイホンはあれやろ、実技の時間もボッコボコにされとったな。」

「的にはちょうどいいんだろうな。」

「的で言ったらゴブラルはんの方が肉がある分殴りがいがありそうやけど、ゴブラルはんは動きがいいのと体格的にちいさいから当てるのが大変なんやろな。そこで鈍くてそこそこ背丈のあるネイホンっちゅうわけなんやな。納得やわー。納得されても困るかープププッ!」


スライムが大分おしゃべりで先ほどまでの気まずさが嘘のようだ。会話をぶん回している。

寮の先は森が続いていき、島の端まで歩く。


「ここがマグルゼム島の端です。そこにかかっている橋を渡れば魔御堂に行けるのですが。」


橋の袂のあたりには警備員が突っ立っている。こちらを一瞥し、また元の視点に戻した。


「魔御堂に行くには許可取りが必要なんでっか?」

「そうです。」

「……許可取った覚えはないが?」

「ダメやないの。」

「行けばなんとかなります。」


そう言ってグリモイドは橋の袂にいるガーゴイル種だと思われる警備の魔人の声をかけに行く。

グリモイドは警備魔人と少し話した上で戻ってくる。少し肩を落とした落胆した様子で戻ってくる。


「大丈夫でした。」

「大丈夫なんかい。」


ここばかりはスライムのツッコミに完全同意である。


「じゃあなんでそんなしょげとったん。」

「私たちは許可をとっていないのですが、ゲンナロ氏が許可をとっていたようです。指導している学生おそらく5名がやってくると。先手を取られていたことに情けなく思って肩を落としていたのです。」

「じゃあ許可とってない段階で情けなく思えや。」


なんでも知っているとても賢い魔人であるとグリモイドのことを評価していたが少し変更が必要そうだ。感性がなんていうか、こう、ズレてる。


皆で橋の警備魔人に軽く会釈をして渡っていく。

橋の全長はおよそ400メートルほどだろうか。かなりの長さになるというのに、荘厳で立派な石造りである。橋の下にはアーチ状になっており、遮るものがなく見晴らしはいいが、水面からの高さもそれなりにあるので怖さも同時に感じる。下に落ちたら流石に粉々になるだろうとカコカコと音を立てて身震いをする。


数分歩いてようやく対岸へと渡ることができた。すると威厳のある魔御堂が出迎えてくれる。

入り方がわからないものだから大きな門を押し開けようとするが開かない。どうしようかと相談していると、横にある守衛所からまた警備の魔人がやってくる。


「君たち、式典や儀式以外の平時の入り口はこっちだよ。」


またグリモイドの知識への信頼度が下がる。彼も産まれたばかりだから仕方がないのか。

案内された通り、守衛所にやってくる。所持していた学生証と照会し、確認が取れたとのことで小さな入り口に通される。

魔御堂の中はシックな黒を基調とした漆仕上げの木材で、ところどころに朱色と金箔が施されている。威厳と豪奢さを感じる。


「ここの二階の詳の間にあるそうです。」

「で、二階への階段はどこなんや?」

「探してみないとわからないです。」


守衛の魔人たちは中を案内してくれるわけではなかった。

二階へ登る階段と詳の間を自力て探さなければならない。


門から入って正面は壁。少し進むと左右には大きめの回廊がある。


「とりあえず右回りで見てみるです。」


グリモイドに続いて皆右周りに回廊を歩く。回廊の外側には部屋が配置されている。貪の間、蕩の間、傲の間、怠の間、妬の間、怒の間、嘆の間、隠の間そして入り口。

回廊の中央側は各間の前には壁があるが、壁と壁の間には中央へと降る階段がある。ここを下ると誕生の儀式が行われた空間になっており、部屋があるようには見えない。


「一周してみたものの、登り階段のようなものは見えへんかったな。」

「一筋縄では行かなそうだな。」

「・・・。」


マイコニドも肩を落として落ち込んでいる。喋りはしないが、感情は豊かなようだ。


「左回りをしてみます。」


またグリモイドが音頭を取り左回りに回廊を進む。隠の間、嘆の間、怒の間、妬の間、怠の間、傲の間、蕩の間、貪の間、そして入り口。


「何も変わらなかったな。」

「ネイホンあんまそんなん言ったらあかんで。強力せな。」

「いや、別にグリモイドを攻めようとしていったわけじゃ。」

「しかしこれでわかったことが一つ。現在階段は普通に見当たるわけじゃない。そして、回転方法が関わっているわけじゃない。なんらかの仕組みと謎を解かなければ正解に辿り着くことができないということです。」


皆頭を抱える。スライムのムライは頭という概念が体全体のようで、体の下部を擦っていた。


現状、希望への可能性を断つ情報だけがしっかりと集まった上でヒントが全くないという投げ出したくなる情報しかない。だが、外から見た通り二階はしっかり存在しており、答えが存在することは確かである。なんて難儀な。


ふと顔を上げるとゴブラルが貪の間の扉を開こうとしていた。

ドアノブに手をかけて捻るといなくなった。


「へ?」

「どうしましたネイホン。」

「ゴブラルが。」

「どこか行ったんか?」

「消えた。」





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