第4話
1日目の授業は格闘の授業であった。毎日1教科を夕方まで行い、格闘、魔術、魔術、格闘、格闘、魔術、魔王史という順で7日間で1週である。
「格闘の訓練を始める。二人一組になって戦え。何使ってもいい。はい、スタート。」
「おいスケルトン、俺とやろぉーぜぇ…!」
獣人や夜魔といった狡猾な種族たちに狙われて組み合って、ボコボコにされる。ただやられるというのも癪に障るので攻撃に対して脱骨を行い、実質的なダメージはないように練習する。こちとらこれでも勇者だったのだ。戦闘ができないわけではない!と、言い切りたいところだが、実際は防戦一方。戦いになっていない。いかにダメージを減らして負けるかという敗戦の練習にしかなっていない。
2日目は魔術の授業。
「魔術の発動にはエーテルを使用します。しかしエーテルをそのまま出すだけでは死に近づくだけです。ではどのようにして魔術へと変換するのか。次のページをご覧ください。エーテルを変換式に通すことで魔術へと変換することができます。その変換式とは発音と言語、リズムによって式を表現する唱式、表記言語、線、形状によって式を表現する陣式、生体素材の機能効果によって式を表現する薬式の三種あります。必要知識は唱式と陣式が似通っており、言語式と薬式というように分類する方法もあります。」
ラミーナ先生の授業であったが、基礎の部分なんかは教科書自体が完璧であるので読むだけで終わるという熟練講師さをひしひしを感じさせる授業であった。あらかじめ教科書を読むというのは間違えだったのかもしれないと思わせたが、2度勉強したことになったと考えれば定着が進んだとも捉えられるのでポジティブに捉えればよかったと言えるだろう。
「砂の方がいいやられ役をこなすぜ?もっと手応えをくれよ、手応えをよぉ!」
「全く、バラバラになるしか芸がないなんて。粉々になりなさいよッ!!!」
6日目まで格闘でボコボコにされ、魔術実技ですでに魔法を使える魔族にボコボコにされる毎日であった。
「魔王史の授業。初回というのに集まりが良くないな。魔族か?」
7日目、待ちに待った第一回目の魔王史の授業。集まったのは22人。
魔御堂で生まれた同期が68人いて、そこに6名の外部誕生生を加えて同期の人数は74名となっていた。
外部誕生生というのは魔人同士の生殖活動によって誕生した魔人のことを指すのだが、生殖活動をするのは魔王の配下の魔人貴族、通称魔族ぐらいしかいないということで外部誕生生のことを魔族と直接的にいうことになった。
魔神様から作られていないということで「魔族」のことを蔑称として使う魔人もいるが、当の魔族たちは高貴なる血に従って〜だとか、こちらこそ正当な生き物〜、生殖できない劣化体〜などと主張し、選民意識の象徴として自ら「魔族」という言葉を使う。
魔族は産まれてから幼体の期間に教育を受けるので魔王史なんかは不要であると授業をふける生徒が多発する。魔族が作った魔王史と学園が作った魔王史、どちらを学ぶべきか明白であるというのに。
魔族は授業を受けないというのはわかるが、それ以上に休んでいる生徒がいるのはどういうことか。それは魔族に引っ張られた賢さの低い魔人が魔王史を学ぼうがエーテル獲得に影響しないとかんがえている生徒のおおさに起因する。将来的に魔王軍に就職し、幹部を目指す身として外交相手と軍の関係性を知らないなんてことがあってはいけないのだが、それすらも考えられないのだろう。
大体の魔人はこの意見について、この授業を受けたことによって知ったがそれを知らぬまま就軍活動をすることになると思うと怖い。受けといてよかった。というより、質問を思い浮かんでいてよかった。
「グリモイドくん。教科書はどうしたのかね?」
大きな本を抱え持つ虚な目をした人型の魔人グリモイド。その正体はその大きな本で、人は本の記憶を呼び起こして具現化しているというなんとも変な魔人である。
「ゲンナロ史、書籍の類は全て吸収したのでありますな。」
「教科書の内容が全て頭に入っているのに座学授業を受ける意義とは?」
「上級生のデータを分析したところ、ゲンナロ史は教科書外の内容をテストに出すことが多いという傾向にあるという結果を得たので教科書外の情報を得るためにきたのであります。」
「分析は大事だ。良い心がけだな。」
彼は本の魔神ゆえに知識、知恵といったものは全てハイレベル。だが、格闘術等の戦闘には向かないのだそうだ。これも昨日の盗聴によって得た情報である。
魔王史の授業は筒がなく終わった。
始まりの魔王は1柱。ここの学園の学園長であるという話には驚いた。魔神から直接魔人の教育と魔界のシステム構築を依頼されたという。そして二代目は13柱。今の魔王と同じ魔王はこの代かららしい。二代目はよーいどんで魔界の地図の切り取りをするという乱世も乱世であったとのこと。エーテル噴出孔の発見と獲得に奔走していたら部下に後ろから刺されたというのが多発していたようだ。
「本日の授業はここまでとする。質問があるものは残りなさい。」
少なかった生徒もほとんどが帰路に着く。残ったのは俺、グリモイド、ゴブリン、の3人である。
「ふむ、意外と残ったな。そして意外なメンバーが。」
ゲンナロはゆらゆらと揺れて教壇から降りる。
まず最初に立ち上がったのはグリモイド。
「ちょうどよかった。私の質問は彼らにも関係があります。」
「さて、なんだね。」
「今回の魔人を生み出す儀式には不可解な点があります。平均点が低い。種族の平均は獅子人であるというようにデータを分析した結果出てきました。しかし今回の平均はそれよりも低い犬人級。彼らのようなスケルトンやゴブリンといった位の低い魔物にも筆頭する魔人が生まれるというのは過去を遡っても珍しい事象。そしてそれが複数体生まれるというのは初の事象。」
グリモイドはゆっくりと講義室の階段を下り、ゲンナロ史の元へと近づいてゆく。まるで全てを悟っているかのような態度で。
(昨日の考察で自分もこの想像までたどり着いた。グリモイドは一体どのようにことを運ぶのだろうか。自分に不都合なようにことが運ぶようであれば無理矢理でも止めよう。)
「ここで私はある一つの仮説に至りました。今回の魔人生成の儀式に使用されたエーテルが例年少なかった。誰かによってその差分を横領されたのではないかと。」
(ん?)
「彼らが本来上位の存在になるのに必要だったエーテルを奪った犯人はあなたですね、ゲンナロ。」
(おーっと?どういうことだ?俺の想定していた過程と全然違うな。俺の仮定は「魔御堂のエーテルの枯渇」、もしくは「隠された同期の存在」だ。こうなってくると自分の仮定まで側から見るとこのように思われたりするかもと思うと恥ずかしくなってくるな。)
「ネイホンくん、ゴブラルくん、君らの意見も聞いておこうか。」
(ゲンナロ史、おそらく笑いながらこちらに振っているな?いや、これはチャンスか?「僕もグリモイドくんと同じ考えでした。」と間違えに行くことで同じ恥を被りに行く。そこから生まれる仲間意識。グリモイドくんというフレンドをゲット!という流れにもって行くチャンスなのか?
それともちょっと引きながら聞いていたゴブリンくん、名前はゴブラルくんか。の意見に被せに行くという作戦もある。これは正直賭けだ。彼のスタンスが全くわからない。格闘の実技でも不適な笑みのままずっとやられている彼のスタンスは全くわからない。何か逆転の手立てがありますよ、ともうすでにその手札を店に行っているというのに虐められ続けている彼のスタンスが。)
「ふっ、俺はグリモイドと同じ意見だ。」
(なにっ!ゴブラルにその手札を切られてしまうとは。俺が渋っていた間に男気というスタンスに塗り替えた!ここで俺がグリモイドに乗っかっても友情パワーとは言えなくなってしまう。フレンドゲットから遠のいた。
この状態、「俺も!」と乗って得られるメリットはだいぶ少ない。彼の半笑い同意に乗って俺も半笑い同意をすればゴブラルに対して「俺もわかった上で乗ってやる。今はな。」みたいなスタンスをとることもできるか?
いや、ここで違う仮説も持っているという優秀さを見せることもできるな。視野の広さを評価されにいく。その可能性もあるかと二人とも認めてくれてハッピーエンド!フレンド二人ゲット!)
「俺はエーテルの枯渇が始まった可能性と平均の振り幅によって産まれた未だ隠された同期の存在の可能性というのも捨てられない。第一他の先生もエーテル横領の可能性は考えられるだろう。」
「………」
(悪手だー!グリモイドくん、ゴブラルくん共にしかめ面になったー!この手法、グリモイドくんの視野が狭窄になっていることを暗に指摘する形になる上に、男気で乗ったゴブラルくんがバカにされたみたいな立場になる!そうなれば先ほどからの発言からプライドの高さを伺わせていた二人の心象は爆下がりだ!!!)
「確かにネイホンくんの仮定も存在することになる。」
(先生の評価はもらえたけれど、上位存在の機嫌を取りに行くというのは悪手中の悪手。同期受け最悪だ!人間時代もギルドマスターの機嫌をとりに行った結果、副マスターから嫌われて実務部分全体から嫌われるみたいなことがあった!なぜ学習しない!)
この男ネイホン。確かに人間時代は裏切られてばかりで散々な人生であったが、ネイホン本人にも問題があった。致命的なまでに人間関係の構築が下手くそな残念な男だったのだ。
「私が犯人であるという証拠は他にないのかね。」
(意外とノリノリだなゲンナロ史!あんた別に犯人じゃないけど面白い出来事起きてるからちょっと真面目に見える自分の面を有効活用して楽しんでるだろ。黒布がフツフツしてるぞ。)
「くっ…」
(本形の魔人ならばもっと頭脳でいけよ!詰めてからこいよ。)
「ふむ、遊びすぎたか。この件に関しては私も疑問に思い調べたことだから君たちにもその一片を伝えよう。」
「なに?」
先ほどまでのフツフツしていた黒布とは一変して真実を語ろうと再び教壇へとぬるりと戻るゲンナロ。
あなたのお遊びでこの二人と仲良くなる可能性が急減してしまったんですよと眼孔から無いまなこの眼力を振り絞って伝えようとする。
「まず、前提が違うのだよ。」
「なに??」
「なぜであります?」
ネイホンとグリモイドは聞き返す。
「今回産まれた最弱位の魔人たちは最弱ではないのだよ。」
「だが、ゴブリンとスケルトン、スライムには違いないでございますよ?」
「それには違いない。しかし魔人を構成する要素は種族だけではないだろう。」
「…はっ。属性。」
「謎は解けたか諸君。では次の授業で。」
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