第3話
学園長による大まかな説明が終わった後、68人の産まれたての魔人たちはざっくりと4グループに分かれて講師たち連れられて学園の場所の説明に入る。
学園のかたちは扇状になっており、扇の要の部分に中央棟と言われる職員室や薬術講習室といった重要な部屋が集まっており、扇の羽の部分は四分割されており、学園にいる4学年ごとに別の棟にて授業を行うとのことだった。
校舎を出ると、右側に大きな建物、その奥には平原、山岳、森林がひろがっていた。大きな建物は屋内修練場で平原山森は全て屋外修練場とのことだった。
野外修練場では先輩に当たる魔人たちが戦いに勤しんでいた。
激しい動きで目で追うのがやっとだ。
少し歩くと今度は街が見えてきた。
「ここは港町コーワン。学園生活で必要になるものを販売している店が多くある。エーテルを通貨としているので貯まったなら立ち寄ってみるといい。」
「大通りにある工房は割高だが質は担保されている。裏通りは変なものがあったりするが目利きに自信があったり、特注品などが欲しくなったら裏の方が良い。アングラード通りにあるフェザ珍具店なんかは行ってみると面白いだろう。」
「この大通りをまっすぐ行ったところの右手に見えるのが寮だ。ちょうど見えてきた。君らの住む寮は「秀寮おしまいという。秀でて欲しいという思いと終わりの終了をかけたのだろう。学園長も万能ではないということだ。他にも久寮あげないという寮があるが、これを見るたびに腹が立つ。この寮に入る期の魔人には少し強く当たるようにしている。」
ゲンナロの説明は舌打ちしたり、腕組みしながら俯き加減でボソボソ喋るものだから態度こそ最低であったもの、思ったよりも分かりやすくて丁寧であった。
「何か不足はあるか。」
ゲンナロがそのように尋ねてくるが、質問しようにも何を聞いていいのか分からない状態なので皆たじろいでしまう。
「まあいい。分からないところがあれば後ほど聞けば良い。」
やさしい。
寮に入ると、小さなゲンナロのような影が生徒個人個人を部屋へと案内する。
全員個人部屋が与えられており、鍵もある。環境としてはかなり良い快適なものだ。贅沢すぎやしないか?
いずれ野に放つ魔人たちにこれだけの環境を与えて何をさせたいのか。気になるところだ。
何より、魔人社会は戦闘技術が必要なようだ。これは勇者時代と同じ。エーテルが目標なのだとしたら相手から奪い取る技術も存在するだろう。ならば裏切りは必至だ。勇者時代のように裏切りを避けるためにソロで行動するべきだろう。自分には仲間を作るコミュニケーション能力が欠落しているというのが前世で分かったのだからアドバンテージだろう。どうにかソロでやっていく方法を探ろう。
部屋を散策していると、シェルフに目がいく。ボトル一杯に入ったエーテルといくつかの書籍がある。エーテルの方は最初の準備資金だろう。下手すれば今のスケルトンである自分に内包されているエーテルと同量ほどのエーテルが納められている。つまりかなり重要というわけだ。
これの奪い合いなんかが発生したらソロなんて話はなくなる。これを守るための徒党を組まなければ。
書籍の方は教科書とシラバス、今後のカリキュラムについて書かれている冊子のようだ。
科目は大きく分けて戦闘(無手・武器)、魔術(唱式・陣式・薬式)、魔王史の三種類。一年の間に大テストと呼ばれるものが2回。戦闘と魔術の実技試験、魔術と魔王史の筆記試験、特殊実技の5回によって成績がつけられる。実技かつ魔術が重視されることがわかる。1年の間は基礎を重視されるので特に全ての科目で優秀さを示さなければならない。
明日まで暇なので、夜は教科書をざっくり見ることにした。
夕どきには扉の外が騒がしくなってきた。
同じ寮生同士で交流しているらしい。自分もこれに混ざるべきかと考えたが、急にドアを開けてパッと自己紹介し出したら怪しくてたまらないだろう。エーテルを奪われるかもしれない。空気のように自己主張はせず間に挟まれば情報だけ得られ、その上仲間っぽく見えるかもしれない。ノームに紛れるコボルト作戦だ!
ドアを開けて外に出ると、会話の切れ目だったのか全員がこちらを見る。
最悪だ。
が、そんな俺を無視して皆話にもどる。
……もっと最悪だ。
なんとなく和に混じる作戦はもう削除。すぐに部屋に戻りたい気持ちではあるが、ここでもどってしまっては「あいつは一体何がしたかったんだ?」と変な噂が立つに違いない。外に出て見るという目的があったのだと思わせるためにその場を離れる。
外に出ると、先輩たちが帰ってくる時間帯であった。
会釈をすると、先輩たちがこちらに気がついて近寄ってくる。
「おめえ見ねえ骨だな。スケルトンか?」
「は、はい。」
「スケルトンの魔人だなんてハズレ中のハズレだろ。同種なんて最下級の魔人ですら生み出せるぜ?島から出ても即エーテルになっちまうのが関の山だなぁ!はははは!!」
おそらくデーモン種と思われる先輩たちが嘲笑してくる。
「外に出てエーテルになるくらいなら今からもうなっておくか?んん?ハハハッ!!!」
ああ、また俺は笑われる身なのか。
「ま、学則違反になるのが嫌だからまだやんねえでいてやるよ。エーテル獲得源ゲットぉ!」
「俺らにも回せよぉ?」
「ハハハハハッ!!!」
笑い声が延髄に直接響いていく。
するとともに俺の中でのエーテルへの渇きが激しくなっていくのを感じる。
部屋に戻ろうとすると、また談話ロビーにいる同期の魔人たちが静まり返る。前提知識としてスケルトンが弱い魔物であり、魔人としても弱いだろうということが伝わっているのだろう。エーテルさえあれば全てがひっくり返る世界なのだ。舐めてると痛いめを見るというのを思い知らせてやりたい。
スケルトンの種族特性としては分離と換骨ということだけは知っている。分離は自分の体から離れても一部として利用することができる。換骨は他の骨と入れ替えても意識などは変わらずそのままで運動機能や硬さ、機能などが更新されるというものだ。
まずは情報戦だ。足を踏み出すのに合わせて、後ろ足の小指の骨を談話ロビーにあるソファの下に滑り込ませる。
自室に帰ると、足の骨を頭蓋骨にくっつける。
「同期にスケルトンがいるだなんてな。」
「最下位は確実に逃れられそうだな。」
すると、遠隔で小指が拾った振動が頭蓋骨に直接伝わり、会話の内容が聞こえるという技だ。
その後も情報を集めていく。
学校案内では4つの班に分かれていたので他の班の情報も入る。
同期にはスケルトンのようにいわゆる最低ランクの魔物に当たる魔人が何人かおり、それが俺スケルトンと、スライム、ゴブリン、スペクター、マイコニドと5体と多いこと。
半年過ぎれば授業時間以外は他の同期生徒との実践戦闘が可能であり、1年過ぎれば他学年生徒との実践戦闘が許可される。勝利すれば相手のエーテルを半分、装備品(学校備品を除く)を全てもらうことができる。
週ごとに成績を出され、それに応じたエーテルをもらうことができる。
などなど。
出てくるのは自分に不利な情報ばかり。授業を真面目に受けていればいいという甘い世界ではなさそうだ。
だが、少し違和感もある。
他の期では獣人に分類される狼人や獅子人クラスの魔人を平均として生まれているというが、この期は俺のような最低ランク魔人が生まれている。そのぶり返しとして強力な魔人が複数生まれているというわけでもなさそうだ。ではこの期全員を産むためのエーテル量が少なかった?もしくはまだ生まれていない魔人がいる?
情報は集まってきたが不明な点も複数生まれた。
せっかく質問して良いというふうに言われたのだから、ゲンナロ先生の授業後にきいてみよう。
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