第2話説得




「あのB-29を何十機も相手にして、めちゃくちゃ疲れたぜーー。あの承認システムってどうにかならないのかなーー。指先のチクッて痛くないが刺されるって・・・嫌だよ」


「現状では傷はついてません。ただの思い込みで神経過敏な人に見受けられる症状です。なのでマスターは神経過敏と判断します。それが嫌なら方法はあります。現地の人間を戦わせれば良いだけです」


「だけど現地の人間が俺の言う事を聞くかな・・・説得なんか面倒だ。さっき・・・太平洋戦争の資料を見たけど・・・原爆って初めて使用されたのも日本だよね・・・ならば、こっちもアメリカに対して使うのもありだ・・・それで解決出来ないかな」


「それは不可能です。武器製作で人類に多大な被害をもたらす原爆製作は、武器製作法の33に抵触します。いくら原子タンクが無尽蔵に使えても製作は出来ません」


原子タンクを使えば、なんでも製作出来るのに・・・ああ、そんな法律があったな・・・


「なら日本人に製造方法を教えて原爆を作らせるのってありだよね」


「それは可能です。しかし今の日本は困窮しているので日本全体の協力が必要です」


「それはそうだな・・・それで日本の最高責任者は誰!」


「昭和天皇です。本人にあって説得してください」


え!この時代の人間に会うのか・・・説得できるなら宇宙運送屋なんかやってないぞ。

ああ、うっとうしい。






何か音が・・・寝室で目覚めると男が立っていた。

日本人の顔をしてるが身長が高い。

厳重に警護されているハズなのに・・・こんなに簡単に入ってこれるのか・・・

それでいて殺気は感じない。


「君は誰だ・・・」


「私はシンジ・アオキです。遥か未来から来た人間です。私の話を聞いてくれませんか・・・」


「未来から・・・そんなバカな」


俺はホログラムディスプレイを部屋一杯に展開して原爆投下を見せる。

広島に投下した日は、1945年8月6日でウラン型の原爆でリトルボーイと呼ばれる爆弾だ。

まだ原爆投下が起きてない未来の話だ。


午前8時15分に投下されて、一瞬の閃光で広島を破壊してキノコ雲が舞い上がる。

それは爆撃機エノラゲイから撮影された映像だった。


昭和天皇の顔は、みるみると驚きの顔に変わる。


「何が・・・起きた・・・」と声が泣いていた。



「来年の1945年8月6日。広島に投下された原爆の光景です。落下地点中心には約3000℃から4000℃の高温が支配。そして爆風で建物を破壊して、人々は吹き飛ばされ、様々な破片が散弾のように突き刺さったようです。約14万人がこの年に亡くなります。その後の放射能で死ぬ人は後を絶ちません」


「それが未来に起きるのか・・・なんて事だ・・・」


「広島だけでなく長崎にも1945年8月9日に原爆投下を・・・それはプルトニウム型の原爆で2つの原爆使用は、原爆実験を日本で行なったと私は確信しております。後に日本で東京裁判が開かれますが世界は、日本を戦争犯罪として裁きました。しかし、この原爆こそが戦争犯罪です。小さな赤ん坊を殺しておいて英雄気取りは気に入りません」






部屋に入った東條は、何事だと思った。

この男が昭和16年10月18日から19年7月22日まで続いた日本の内閣総理大臣だった。


そして部屋には、主立った閣僚が座って重い空気をかもしだしている。


その原因は、昭和天皇の右後ろに2メートルの大男が立っていたからだ。

そして顔を隠すように鉄仮面をしている。


「閣下、その大男は何者ですか・・・なぜに顔を隠してるのですか・・・」


「そんなことより東京空襲は、なぜ・・・あのような結果になるまで戦争に負けている状態を黙っていた。言い訳があるなら言いたまえ」


東條は、声が震えて汗がダラダラと額から流れている。

見ている俺でも焦ってるのが一目で分かった。


「それは・・・まだまだ挽回ができる状況です。こちらには大和がいるので・・・」


戦艦大和は、1945年4月7日に沈没する事も知っている。

なので東條の話には、なんの説得力もなかった。


「まだそんな事を信じてるのかね・・・マリアナ沖海戦で空母5隻を撃沈したと発表したが、本当は反対に日本空母が壊滅したのは分かってるんだぞ。探せばキリがない。大本営の発表が真っ赤な嘘だと分かってるぞ」


温厚だった天皇が怒っている。


「そ・・・それは」


「日本の舵取りを失敗したのは明らかだ。東條内閣は解散。家に帰って謹慎したまえ」


「しかし、閣下・・・」


「まだ弁明する気なのか・・・嘘の弁明など聞きたくない!」




鉄仮面で顔を見せない青木内閣が発足。

海軍大臣と陸軍大臣を兼任。


無茶な作戦を計画する参謀連中は辞めさせて、年功序列で無能者も辞めさせた。

こっちには過去のデータがあるから楽勝だ。


なので政治家や軍関係者は、驚きが隠せない日となった。



そして、その日に大本営の嘘の発表が報道。

ラジオで嘘偽りのない報道が連日報道されて、日本人を驚かせる。


「アキさん、セブ島のゲリラに奪われた連合艦隊の作戦書類で暗号解読がさらに精度を高めたのは本当ですか」


「はい、本当です。もっと早い時期に暗号解読がされて、それが詳しく判明したのです。山本五十六長官のブーゲンビル島視察も暗号解読でばれていました。なのでアメリカ側の名称は、ヴェンジェンス作戦として山本五十六長官の搭乗機がアメリカ軍戦闘機に撃墜され、暗殺されたのです」


「それって軍は知らなかったのですか・・・」


「あの時の軍は無能ですから・・・作戦失敗しても作戦立案者に罰則もなかったようです。なので日本国民のために立上がった青木内閣を信じてください。作戦立案から政治手腕も優れた方です。困窮こんきゅうした日本を救うのは青木しかいません。どうか私からのお願いです」


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