第13話 繋がれる手
梓は勇気と分かれたあと、帰宅した夫の純平にアップルパイを出した。
梓はアップルパイにバニラアイスを一つ加えた。
純平はフォークでアップルパイを切り分けて、アイスクリームと一緒に食べる。
「美味しい。疲れた身体には梓の作ってくれたものを食べるのが一番だ。」
心からの笑顔を見せた。
梓はニコッと微笑んだ。
「そうだ。8月の最初の週。陣平君のお友だちと一緒に別荘に行くことになりました。純平さんはどうしますか?」
「ああ。仕事が終わったら追いかけるよ。8月の最初の週は君の父。甲斐元総理の命日でもある。ウチの別荘はお墓に近いから。一緒にお墓参り行こう。」
純平の言葉にそっと瞼を閉じた。
「ええ。きっとお義母さんも、そのつもりで誘ってくれたんだと思います。」
静寂に包まれた部屋には夜空から、月光が差し込んでいた。
◇◇◇
数日後。
大学が夏休みに入り、勇気は陣平の別荘に行く為の準備をしていた。
(それにしても場所が北軽井沢って何の因果だろう)
悶々とした気持ちのまま、日用品をショッピングモールで買い物してる時に声をかけられた。
「勇気君?」
「梓さん」
彼女は髪を一つにまとめていて、薄いグリーンのブラウスに白いスカートを着ていた。
「偶然だね。お買い物?」
優しく微笑まれた。
俺はさっきまでの悶々とした気持ちが一気に吹き飛んだ。
(我ながら厳禁だなと思うが。)
「はい。掃除用品を。梓さんも?」
「私はドーナツを買いにきたの。新商品が出るから」
梓はショッピングモールに併設されているドーナツを指差した。
「そうだ。テイクアウトしようとしたけど、一緒にお店で食べる?勇気君」
彼女の問いかけに目を丸くした。
「え?」
(いつもの公園のベンチではない。彼女からの誘い。男女二人でドーナツ。まるで、デートみたいじゃないか。)
「あら、予定があった?」
俺の様子を見て、困惑する梓である。
「ないです。喜んで行きますよ。」
ニコッと微笑んだ。
(それとも男扱いされてないだけか?何でも話せる友だちにって言ったのは俺だけど)
多少俺の心にスイッチが入った。
彼女の手を何事もないように掴んで店の方へと歩いていく。
繋いだ手が熱い。
「あの、勇気くん?!」
「梓さんの奢りってことでいいですよね。」
男扱いされてないのは承知してる。相手は既婚者だしだけどー...
そう思って振り向くと、梓は顔を赤くしていた。
「手、恥ずかしい」
気づいたら恋人同士のような手繋ぎをしていた。俺は慌てて離す。
「すみません。」
勇気は先に店内に入る。
梓は勇気の後ろ姿を見て、先ほどまで繋がれていた手が熱くなっているのを感じた。
恋の雨 Rie🌸 @gintae
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