第12話 夏は好き?

勇気は玲奈と陣平と別れて、自宅に帰路する道を歩いていた。

サラリーマン風の男二人組とすれ違う。

「そう言えば甲斐元総理の法要、8月にやるってニュースで言ってたな。」

「あれから9年か。あの時の警備がしっかりしていたら、あんなことにならなかったのに」

その言葉に俺は心臓の鼓動が早くなった。


俺は当時の記憶がフラッシュバッグする。

当時の警備担当だった父が記者会見で謝罪する姿。

テレビの前で父が頭を下げる。泣いてる母。


重苦しい感情に引きずられそうになった時、ピロリンとラインが鳴った。


俺はラインボタンをタップした。


『勇気君、いつもの公園で会いませんか?梓』

スタンプには有名なペンギンのキャラクター。

俺はその文字を見て口角をあげた。


『もちろん行きます』

俺はそう入力して、送信ボタンをタップした。


◇◇◇

俺が公園のベンチに到着すると、日は暮れ始めていた。

梓さんは笑顔で迎えてくれた。

「陣平くん」

彼女は七分丈のブルーのブラウスに紺のスカート。ロングヘアを耳にかけている。

(綺麗な人だな)

会う度に俺は見惚れてしまう。


◇◇◇

公園のベンチに腰かける二人。

「アップルパイ?」

梓からアップルパイの入った箱を受け取った勇気

「そうなの。上手く出来たから、勇気君にもお裾分けしたくて」

俺は思わず目を見開く


『上手く焼けたのよ。勇気』

その時の彼女の表情が母にそっくりだったからだ。


「勇気くん?」

疑問に思った梓は勇気に問いかける。

「何でもないです。家で大事に食べます。」

勇気は笑顔で応じた。

俺は話を変えるように梓さんに質問した。


「梓さんも別荘に行かれるんですか?」

「ええ、行くわ。純平君も誘われたのよね」

「はい。」

梓さんがどこか遠くを見てる眼差しで、寂しげな顔している。

「勇気君は夏は好き?」

夏ー...俺はあの夏の出来事がフラッシュバックする。


「嫌いです」

そう返した勇気に梓は目を丸くした後、クスクスと笑ってから言葉にした。

「私もよ」


俺はどうしようもなく、彼女に心を奪われてしまう。この想いが溢れ出さないように蓋をした。

「似た者同士ですね。俺ら」

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