第11話 誘い

しっとりとした梅雨が終わると、大学に入って初めてのテストが始まる。

俺と陣平と玲奈は、大学の図書室でテスト勉強を行った帰り道のことである。

「夏休みの最初の週、俺の家の別荘に友だちを連れて来なさいと母さんが言うんだが、勇気、玲奈も来るか?」

白のシャツに黒のスラックスというシンプルな出で立ちだ。

ベージュの鞄をぎゅっと握りしめて問う。

陣平は人付き合いが苦手だったけど、初めて会った時よりは大分心を開いてくれたと思う。


(勇気は陣平の家ってことは、梓さんも来るんだよな。)

あれから、梓さんとは今日起きた些細な日常のやりとりをラインでしている。

法律の授業が難しかったとか、今日のクッキー上手く焼けたよとか。

ありふれた日常のやりとりに、幸福感が募っていたけど。

会えるなら会いたいなと思うのも事実でー...

「もちろん行かせてもらうよ。陣平」

笑顔で答える。

俺は黒の半袖に青のジーンズ、肩にグリーンのリュックを背負っている。

隣の玲奈に尋ねる。

「玲奈はどうする?」

玲奈は赤と白のチェックのワンピースを着ていた。

春先より少し伸びていた髪をハーフで結んでいる。

指でスマホの予定表をチェックした。

「行かせてもらうわ。バイトも休みだし」

にこっと微笑むと陣平は僅かに頬を綻ばせる。

「わかった」


(それに勇気が仲良くしてる陣平の義理のお姉さ

んにも会ってみたかった)

勇気と陣平は前を歩く。

いつものように、勇気と大学のカフェでお昼を食べてる時、嬉しそうにスマホを眺めてる勇気が気になって、彼がトイレに行ってる間、スマホを覗いてしまった。

流石に内容までは見てないけど。遠藤梓となっていた。


◇◇◇

遠藤邸

キッチンでアップルパイを作っている梓

白のフリルのエプロンに、水玉模様のシャツに紺のスカート。髪をお団子にまとめていた。

「よし、アップルパイをオーブンで焼いたら出来上がりね」


「梓さんちょっといいかしら?」

義理の明日香が声をかけた。

「何でしょう?」

◇◇◇


「陣平が夏休みに入った最初の週、別荘に行かない?夫も海外から戻ってくるし、陣平の友だちも来るのよ」

(陣平君の友だち。勇気君のことかしら)

「ええ。行きます。」

ニコッと微笑んだ。

「純平は行けるのかしら」

明日香は尋ねた。

「帰ってきたら聞いてみますね。お義母さん。アップルパイを焼けたら持って行きますね」

「楽しみにしてるわ。」

明日香は部屋を出ていく。


◇◇◇

数分後。オーブンからアップルパイを取り出す。

香ばしい匂いが焼き上がってる。

お義母さん。純平さん。陣平君、私。

4等分に切り分けようとした時。

私のクッキーを美味しいと褒めてくれた勇気君の顔が浮かんだ。

梓は上手くアップルパイを5等分に切り分けた。

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