第10話 桜の記憶②ー友

玲奈は演劇サークルを見学した帰り、大学の廊下を歩いていた。

友だちの藤倉文月が笑顔で話す。

彼女は同じ大学の文学部だ。

「文月、ロミオとジュリエットの稽古、熱量が凄かったわね。」

「熱量もあがるわよ。ロミオとジュリエットは対立する名家の若き男女の悲恋を書いた作品だもの。」

三つ編みに結んだ髪を靡かせて、目を輝かせている。

彼女は物語が大好きなのだ。

「私はハッピーエンドが好きだけど」

そう言葉にすると文月が目を丸くした。

「玲奈も好きな人がいるのね」

その指摘に顔を赤くした。

「え?」

「今度教えてね」

人差し指を口元に携えた。


じゃあ、またと大学内で分かれる。

(大人だな。文月)

文月は彼氏いるって言ってたものね。


すると、真正面から先ほどカンニングを指摘した男が立っているのがわかった。

「あんた、何の用よ」

「お前のせいで」

片手にキラリと光る何かを持っている。

周囲がキャー、ナイフ持ってる。教授を呼んでこいと呼ぶ声。

自分に突進してくるのがわかる。

(どうしよう。足が動かない)


刺されると思った瞬間、瞼を閉じた。


◇◇◇

数秒、目をつむっていても何も起こらなかったのを不思議に思ったら、勇気が自分を背に庇うような位置にいた。

「大丈夫か?玲奈」

「勇気...」

眼鏡をかけた男性が男を取り抑えた後だった。


◇◇◇

3人は事情を聞きたいと言われて、使用されてない講堂で待っていた。

「遠藤陣平君が玲奈が危ないと教えてくれてな。」

そうだったのか。

「ありがとう。あなたのおかげで助かった。」

ペコリとお辞儀をする玲奈。

「いや、俺は。君は大丈夫か?」

「私は大丈夫よ。助かったんだし。」

「そうじゃなくて心の方が。」

心ー...

心配そうに玲奈を見つめる勇気と陣平。


玲奈は目から大粒の涙が零れた。

「怖かった。すごく怖かった。私のしたこと間違ってた?」


勇気はぽんと慰めるように頭をなでた。

「俺はカンニングに気づいたが、何も言えなかったから、君の正義感に感銘をうけた。」


勇気と陣平の二人の優しさに玲奈は微笑んだ。

「ありがとう。二人とも」


桜が舞いちる季節。

勇気と玲奈と陣平は友になった。


◇◇◇

現在軸

遠藤邸。

「ただいま帰りました。」

梓は傘を傘立てに置く。


今夜は明日香と陣平と夕食だ。

「お帰りなさい。義姉さん。雨は大丈夫でしたか?」

数秒の沈黙後ー...

「ええ。優しい人に助けてもらえたから。」

その時の梓が義理の姉ではなく、女性の顔をして微笑んでいたことに陣平の心はざわついた。


梅雨の季節

しっとりとした空気がながれた日。

紡がれていた絆がほどけてしまわないようにと願った日であったー...

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