第9話 桜の記憶①
陣平は部屋の窓から、窓の景色を眺めてる。
外は雨がポタポタ降っている。
陣平は梓や勇気と玲奈と会った日を思い出していた。
遠藤陣平は代々警察官や裁判官、弁護士を出している一家に生まれた。
優秀な6歳年上の兄。純平は警視庁のSP。
首相のSPとして、同行することが多い為に家を空けることが多い。
そんな兄は1年前に結婚したい女性を紹介した。
彼女は兄の幼なじみでもある女性だ。
幼い頃、何度か会った記憶がある。
確か名前はー...
「よろしくね。陣平くん。実の姉だと思って仲良くしてね。」
手を差し出し、ふわりと花が咲くように笑う彼女に、上手く言葉が出なかった。
「...」
「陣平、挨拶くらいしろよ。梓が挨拶してるんだから」
兄の純平が叱ってくる。
「いいのよ。純平さん。」
眉を下げる梓に陣平は慌ててお辞儀をした。
「すみません。ビックリして、こちらこそ。よろしくお願いします。義姉さん」
桜の花びらが舞散る春。
陣平と梓は結婚式をあげた。
◇◇◇
挙式後。半年過ぎたころリビングで話している会話を聞いた。
警察庁に勤めてる父の啓介が母の明日香が話している。
「まさか、甲斐元総理のお嬢さんと純平が、結婚するとはな。」
ネクタイを緩めながら息をつく。
「あら、純平は昔から梓さんに恋していたわ。」
着物姿の母はニッコリと微笑んだ。
甲斐元総理の名前に数年前の衝撃なニュースを思い出した。
「それより、陣平はいい加減、進路は決めたのか?もう、高3だろう?」
「法学部の大学には決めてるみたいよ。大学生活でなりたい職業を決めればいいのよ。まあ、友だちくらい連れて来てほしいけどね」
夫婦は笑いあう。
友だちー...
成績優秀でずっと通ってきたが、そっち方面はてんで疎かった。
(どうしたものかー...)
いつでも、正論を口にして周囲から嫌煙されていた。
◇◇◇
大学に入学してから、民法の実力テストが行われた。
前の席の男性がカンニングをしてるのを発見した。
教授に報告しようとした時、(もし、ここでして騒ぎになったら周囲も集中出来ないか?)
そんな考えが胸を過った。
するとー...
斜め後ろにいた学生が声をあげた。
「すみません。この人、カンニングしてますよ」
「何言ってんだ?この女。俺は」
神経質そうな男が目をギョロっとさせた。
教授はその学生を連れ出した。
「君、こっちへ」
俺は指摘した女子学生を羨望の眼差しで見つめた。
◇◇◇
試験が終わって、彼女に声をかけようとしたが、何て話していいかわからない。
(いくら、勉強だけ出来ても意味がない)
元に1人の男子学生が近寄る。
「玲奈、カッコいいな。ああやって言えるのすごいよ。」
天然パーマが特徴の男子学生は、にこっと笑う。
「当たり前よ。勇気。私が見ているんだもの。
卑怯な真似はさせないわよ」
そう言った彼女は紺のワンピースを着て、髪をハーフに結んでいた。
「玲奈、今日、講義が終わったらどうする?」
「サークル見学するわ。勇気は?」
「俺は大学の図書館で調べもの。」
名前で呼びあう姿。親しい間柄なんだろうと思った。
◇◇◇
大学の校舎内を歩いていると、先ほどカンニングを指摘された男子学生がぶつぶつ呟きながら、歩いているところをすれ違う。
「あの女、絶対許さない」
陣平は鳥肌がたつ。
(彼女はサークルを見学しにいくと話してた。でも、今は何処のサークルに、そうだ。あの男子学生なら)
俺は気がついたら、全速力で図書室まで走る。
◇◇◇
図書室に駆け込むと、天然パーマの学生がある資料を読んでいる。
はぁはぁと息切れした俺は勇気と呼ばれた彼に声をかける。
「あの」
俺に声をかけられて目を見開く。
「君、同じ講義受けてたよな。何かあったのか?」
尋常ではない様子に勇気は尋ねる。
事情を説明した俺は、勇気と共に図書室を出ていく。
勇気が読んでいた資料は、テーブルに置かれたままになっていた。
『甲斐総理襲撃の真実』
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