第8話 何でも話せる友だちに
ザァザァと降り続いていた雨
梓は勇気の胸に飛び込んでいた。
「いやだ。私ったら、いい年して情けないわね」
そう言って勇気の胸から離れた。
「そんなこと!俺は可愛いと思いますよ」
心なしか照れてる彼を見て私は笑った。
「ふふ、ありがとう」
◇◇◇
遠藤家
明日香がソファーでテレビを見ていた。
午後の再放送ドラマである。
この時間は義理の姉、梓も一緒にいることが多いのだが。
陣平は疑問に思って質問する。
「母さん、義姉さんは?」
「買い物に行ったわ。雨も降ってきてるから、どこかで雨宿りでもしてるのかも」
◇◇◇
雨が止むまで梓は勇気の隣に腰かけていた。
梓は彼の話を聞いている。
警察官を目指していること。陣平君のこと。幼なじみのこと。
私も相づちをうちながら、自分の話をしていく。
子どもの時は歌手を目指していたこと。あることがきっかけで諦めたこと。
でも、今は優しい家族に囲まれて幸せなこと。
その話をした時、彼は寂しそうな瞳で見つめた。
(どうしてだろう。私は純平さんを愛してるはずなのに、勇気君と二人でいる時間が嫌じゃない。)
「梓さん、俺たち良かったら何でも話せる友だちになりませんか?」
彼の突然の問いに私は目を見開いた。
「え?」
「家族には言えない悩みとか、俺相手に言ってくれて構わないです。俺も梓さんに相談に乗ってもらいたい話とかします。」
《何でも話せる友だち》
私はふっと微笑む。
「ええ。私も友人になりたいわ。」
そう口にした時、勇気君は嬉しそうに微笑んだ。
◇◇◇
俺は梓さんとラインを交換して、雨が止んでから彼女と別れた。
雨上がりの空気感。草花はみずみずしい。
しっとりとした空の色。
《何でも話せる友だちになりませんか》
我ながら子どもっぽいとも思う。
彼女の歌う姿。雷に震える姿。優しく微笑む笑顔。新たな一面を知る度に愛おしい想いが心に芽生えてしまう。
だけど、端から叶わない恋ならば別の関係で、彼女との繋がりを持っていたい。
そう願ってしまったんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます