キャロット

@anatanoninjin1116

第1話

はじめに言う。私は”ニンジン”である。根の長さ約18cm、鮮やかなオレンジ色の”ニンジン”である。夏に種として植えられてからすくすくと育っている。水も日差しもたっぷりと浴びて調子は万全である。強いて言うならば厳しい寒さが続いているくらいであろうか。もうすぐ冬がやって来る。土にからだをうずめ暖を取る。隣の列のニンジン達は今朝方収穫されていった。もうすぐ自分の番が来るだろう。こんなことを考えながら今日も眠る。

“ズボッ!”急に周りが明るくなった。太陽光を全身に感じる。記憶が途絶える。私は木の板の上に置かれている。足元から刻まれていく。熱い鍋に投げ込まれ、色々なものとごちゃ混ぜになる。熱い湯でグツグツ煮込まれ、だんだん身も心も和らいでいく。今はもうなくなった体の感覚も、気にならない。母の胸に抱かれるような、恋人の待つ布団に潜り込む時のような、温かい気持ち。気づけば、俺は立派な肉じゃがになっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

キャロット @anatanoninjin1116

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

参加中のコンテスト・自主企画