第15話 心の光よ、想いを重ねて奇跡になれ!
そして現在。
シアンがカナホの身の上を語り終えたのとほぼ同時に、乗っていた急行列車は終点の金谷駅に着きました。
「それでね。騒動を知ったママが『よかったら、カナホちゃん家に来る?』って言って、カナホは家に来たの」
シアンは妖精たちの入ったボストンバッグを肩にかけて列車を降りると、JRへの連絡通路を歩きます。
シアンは歩きながら言います。
「私はね、前のお父さんが生きていた頃の明るいカナホを知ってるの。カナホの家に遊びにいったとき、一緒に弾こうよって誘ってくれた。私は恐くて断ちゃったんだけど、そしたらカナホ、下手でも、失敗してもいいんだよって言ってくれた」
改札を通り、JRのホームへ。
「それで、二人で連弾したんだけど、私下手くそで、曲を台無しにしちゃった。なのにカナホったら楽しそうに、楽しかったね、って言ってくれた。私は、あの頃のカナホに戻ってほしいの」
程なくして浜松行きの普通列車がやってきました。
それに乗って、二つお隣が浜松駅です。
新幹線も止まる、でっかい駅です。
そこからバスに揺られて、郊外の茶畑が広がる場所へ。
小さなバス停で降りると、さらにしばらく歩き、ある一軒の住宅の前にやってきました。表札は『吉岡』と書かれています。
「着いた」
シアンは呼吸を整え、微かに震える指で呼び鈴を押しました。
しばらくして、一人の男性が出てきました。吉岡さんです。
「いらっしゃい。シアンちゃん」
「あ、あの、時津シアンです。いきなりお邪魔してごめんなさい。私の従妹で、カナホっていう子がいるんです。それで、カナホの誕生日が明日で……その、えっと、とっても図々しいお願いだっていうのは、わかっているんですけど、あの、その……」
緊張した様子のシアンはしどろもどろになりながら、叫びました。
「ピアノ、譲ってもらえませんか!」
「とりあえず、あがってよ。よく来たね、シアンちゃん」
吉岡さんは笑顔を浮かべました。
夕方。
大河に沿ってうねる道路を、軽トラは力強く走っていきます。
運転席には吉岡さん。
助手席にはシアン。
後ろの荷台には黒く光るアップライトピアノが、ビニールシートのカバーをかけて積まれています。
「パパが電話してたんですね」
シアンが言います。
「うん。シアンちゃんが来る前に、電話してきたんだ。シアンちゃんが行ったから、ピアノ譲ってくれないかって」
シアンは笑顔を浮かべます
「私、凄く緊張したのに、なんだか拍子抜けです」
「でも、本当によく来てくれたね。でも、ピアノ、もらった後はどうやって持って帰るつもりだったの?」
シアンはうつむきます。
「……考えて、なかったです」
軽トラはクネクネと坂を上っていきます。
赤面するシアンと、大笑いする吉岡さん。それからエレクトーンを乗せて。
吉岡さんの軽トラにゆられること、一時間半くらい。
シアンと妖精たちは家に帰ってきました。
伯父さんと吉岡さんが力を合わせ、ピアノを運びます。リビングの隅に置きました。
シアンはカナホの様子を見に行きました。やや粗い呼吸で眠っています。
「カナホ。元気なったら、また笑顔になって」
シアンはつぶやきました。
吉岡さんが帰っていきます。シアンは何度もお礼を言い、頭を下げました。
日が暮れて、辺りはすっかり暗くなりました。
「カナホ、様子はどう?」
クロエ、ラピタ。フィーナの三人の妖精がそっとカナホの部屋に入ります。
カナホは、布団の上で苦しそうに荒い呼吸を繰り返していました。
「カナホ!」
妖精たちは枕元に駆け寄ります。
フィーナがカナホの額にヒレをあてました。
「すごい熱だわ」
カナホは汗びっしょりで、微かにうめき声をあげます。
「伯母さん達、呼んでくる」
ラピタは部屋を飛び出そうとしましたが、足を止めます。クロエが真剣な面持ちである一点を見つめているのです。
その視線の先にあるのは、勉強机。
そして、その上に置かれているのは、これまで集めた『心の光』が詰まった小瓶。
「ねえ、ラピタ、フィーナ。確か学校で習ったよね。心の光をエネルギーにすれば、普段は使えない凄い魔法が使えるようになるって」
クロエはラピタ、フィーナを見ます。
「あれは、私たちが星の国に帰る為に必要なものだけど、頑張って集めたものだけど、でも、私、カナホのことが大好きだから……」
ラピタがうなずきます。
「みんなで頑張って集めたよね。みんなの中には、カナホも入ってると思う」
フィーナもうなずきます。
「またすぐに集められるわ。私達なら」
クロエ、ラピタ、フィーナ。
「やろう。カナホの為に」
クロエが言うと、三人の妖精たちは、カナホの枕元で輪になります。
そして、声を合わせて呪文を唱えました。
心の光は、無限の可能性。輝く希望。暖かな祈り。
夜空を照らし、道を示す。
ティンクル、ティンクル、ティンクルハート。
スターライト・ハーモニー。
心の光よ、想いを重ねて奇跡になれ!
呪文に応えるように、瓶の中の心の光は一つ残らず輝きはじめます。
目も開けていられないくらいまばゆく輝くその光は、パンっと弾け散ると、小さな光の粒となって、部屋いっぱいに降り注ぎました。
それはまるで、天の川の中を泳いでいるような光景でした。
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