第12話 弱肉強食。

 パイルバンカーを一振りして叩き落とす。ピラニアは鋭い牙で威嚇し最後の抵抗を試みるが、その挑発は火に油を注ぐだけだ。

「うらぁぁあああッッ!」

 原型がわからない程粉々に踏みつぶし破壊する。このタイプと戦うのは初めてだが、あまりにも弱くて脆い。戦闘タイプの機械生命体では無いのか。

 油断はしない。あくまでも直感だが逆に不気味さを感じてしまう。

 遙か上空彼方から降り注ぐ地上の光が闇に染まる。周辺は空飛ぶピラニアの群れで囲まれていた。一つ一つでは非力だが、集まる事によりそれを補うGODなのだ。

「ふんっ!」

 大斧を真横に振るジンの攻撃で、回避が間に合わないピラニアはブチブチと潰されていく。

 信じられない。鋼鉄をいくつも重ね合わせ造られた両刃とそれを支える太く長い柄。その重さは計り知れない武器を、軽々と扱っている。更にだ。掌サイズとはいえ宙に浮く機械生命体をペチャンコに潰すとは。

 流石、朔夜と同じ数少ない特級ソルジャーだとしか言いようがない。

「強ぇなジンの旦那。だがよ」

「分かってます。これでは埒が明かない。シェルター内に飛び込みます」

 穴の空いた門から吹き出す炎は、更に勢いを増していく。外気から新鮮な酸素を取り込み、益々火力をあげ範囲が広がっていくのだ。

「へぇぇ。面白ぇな旦那。それに乗ったぜ」

 ジンの意図に気づいた朔夜は口角をつりあげ笑う。

「うしっ! 行くぜおらっっ!」

 全力で走り出す二人をピラニアの群れは追う。空腹時、目の前に現れたご馳走をむざむざ逃がすわけが無い。


 ピラニアは思っただろう。獲物の正面は紅蓮の津波で荒ぶる海。飛び込めば死あるのみと。機械生命体と違い人間は死を恐れる。速度を落としたその時が、ディナーとなるのだ。嬉しさのあまり牙から潤滑油が垂れ、尾ビレで刻むリズムにのってワルツを踊り出す。


「へへっ」

「フッ」

 朔夜とジンの思惑通り、空飛ぶピラニアの群れが追って来る。

「来たぜ来たぜッ!」

「フッ。僕の計算は完璧です」

 ヘルメットの中で朔夜は口角をつり上げ、ジンのオッドアイはキラリと光った。

 ふくらはぎの装甲ハッチが左右にスライドして、収納されていた車輪は展開。踵へ装着する。一気に速度は上がり超加速で、炎に包まれる難攻不落の門へ走り出す。

「へへっ、魚共。追って来いッ!」

 二人はスライディングし、炎の下をくぐり抜ける。朔夜達の作戦に気づいた時は手遅れ。ピラニアの群れは止まる事も避ける事も出来ず、炎の渦に呑み込まれ消えていった。

 火。地球が産み出した原初の力。それは全てを燃やし尽くす。例えそれが神であろうと。

「計算通り上手く行きましたね」

 燃えながらも門を突破したピラニア達全て破壊し、二人は目的地にたどり着く。


 酷い有り様だ。焦土化したシェルター内は灼熱地獄。消し炭となった人らしき者達が転がっている。

 消火剤は自動で散布中だが、炎が強く間に合ってない。

 この状況では誰も……。

 それでもだ。その思い込みだけで助けられる命を救えなくなるのは、真っ平ごめんだ。

「旦那、俺はッ!」

 ジンが手で言葉を制す。

「分かってます。手分けして探しましょう」

「へっ? 意外だな。賛成するなんてよ。てっきり状況から判断して、人命救助は諦めろと言われるかと」

 それが本来なら正しい道だろう。ここを爆破しカミシマへ戻りシェルターを護る事が。

「フッ。僕の計算では、貴方は反対しても突き進むでしょ。ならば一緒に探した方が半分の時間で済む」

「最高だぜ旦那」

「但し時間を決めます。僕の方でアラームをセットします。鳴って五分後、ナルカミを爆破。そのあとカミシマで合流です」

「あぁ。それで構わない」

 タイマーをジンの時計とリンクさせ、二人は別れた。


 日本の各シェルターは基本同じ作りをしている。大きく分けると民間人が住む居住施設。兵士達が住む軍事施設の二つの区画で構成されていた。軍事施設はジンに任せ、朔夜は居住施設へ足を運んだ。

「ちっ」

 誰もいない。生体反応がある者は存在しない。建物は門と同じ穴が空き、炎上している。

「人助けは頼んだぜ。旦那」

 外れか。いや当たりといい変えてもいいか。この居住区に門を壊した巨大機械生命体がいるのだ。

 ――ま、ま……。

 半壊した建物の中から母親を呼ぶ声と羽の音が聞こえた。

 急ぎ飛び込むと、崩れた天井に下半身が埋まる少女が手を伸ばしている。

 その先で見たのは、ピラニアの群れの中で倒れている人らしき物。

「貴様らぁぁぁッッ!」

 超振動ブレードで群れに飛び込み、切り刻む。末広がりに散り逃げていくピラニアへ照準を合わせるが、撃つわけにはいかない。そんな事すれば他の建物も崩れ落ちてしまう。

「大丈夫か。今助け……」

 天井を退かすが、少女の呼吸はもう止まっていた。

 泣きそうになるのを堪える。助けられなかった。異能の力を手に入れても、全ては救えない。分かっている理解している。

 この時代、子供の頃から死と隣り合わせで生きてきた。慣れている筈なのに、目の前で命が消えていくのはやはり辛い。

「ギリッッ」

 黒く塗りつぶせ。哀しむ気持ちを切り替えろ。機械生命体は家族を仲間を自分を殺した。

 復讐。憎悪。怒り。戦う理由はいくらでもある。

 死者を憐れむのは全てが終わった時でいい。朔夜は母親の隣に少女を寝かせ、この場を後にした。


「うらぁっっ!」

 見つけ次第、朔夜はピラニアを狩っていく。弱いが個数が多くきりが無い。潰しても潰しても湧いてくる。

 それにしてもだ。門に穴を空けた巨大機械生命体は何処にいる。穴の大きさからしても、巨体で間違いない。この焼け野原、隠れる場所なんてあるわけが。

「あっ!?」

 そこまで思考して朔夜は気づいた。建物の穴は大小様々だ。

 穴が大きいからボディーも巨大。その思い込みは真実を遠ざけている。

「コイツらは群雄体。一つの塊になれば巨大にもなる」

「おほほほほ正解よ。猿の分際で、お利口だわ」

 空を泳ぐピラニアの群れから声が聞こえた。一部の塊は螺旋を描きつつ、軌道が変わる。

「それで穴をあけたのか、魚類」

 グルグル回転するその形状は、直径一メートルの小型ドリル。居住区の立ち並ぶ建物を壊したのは、アレに間違いなかった。

「これで殺してあげるわ」

 螺旋を描き高速開始するドリルが撃ちだされた。

 

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