第13話 究極の愛。
人を貫くには充分過ぎる大きさだ。逆にこれ以上でもこれ以下でも安定しない危うさがある。所詮は群雄体。バランスが悪く、一点特化した本物のドリルと同じ攻撃力は出せない。ましてやその相手は、神殺し。最強のソルジャー、御門朔夜。
――キンッ!
ヒヒロカネ製の杭で受け止める必要もない。超振動ブレードで受け止める。火花を散らし、ドリルの回転が止まった。
「そんなバカな。わたくしの力を無効化なんて」
空間から響くレプリカの驚く声が気持ちいい。
ドリルの回転で発生する振動と真逆の振動を与えたのだ。
「【+1】に【-1】を足せば【0】だぜ」
もう攻撃は通じない。少なくとも振動系の攻撃は。
「下等生物がぁぁ」
「てめぇは、その下等生物以下なんだよッ! 生ものがッッ!」
足下に散乱する破壊されたピラニアの群れ。まだだ。門の穴の大きさと釣り合わない。まだまだ群雄型は残っている。
「――御門くん、聞こえますか?」
「旦那、もう時間か」
「――いえ居住区はどうです?」
「助けられなかった」
「――そう……ですか」
その声は深く沈んでいる。心の底から他人の死を嘆いてるのだ。
朔夜の知る神威もそうだった。良く言えば純粋。悪く言えば影響を受けやすい。共感力が人より強いのだ。
レイカと過去に逃げたのも、兵器として一生を終える機械少女に同情した為だろう。
この世界線の神威、ジンは人の死を共感し悲しみ、機械生命体に憎しみを持っている。ミアとジン。これ程心強い仲間がいれば機械生命体を滅ぼす事も可能だ。
「へへっ」
「――どうしました?」
「何でもねぇ。話し続けてくれ」
「――作戦変更。住人達は軍事施設に避難してます」
「了解。脱出する時間を作ればいいんだろ」
「――そうです。僕はナルカミの兵士達と共に、民間人を護衛しカミシマまで連れていきます。シェルター爆破のタイミングはこちらで判断します」
「おうっ」
「――それともう一つ。姫が発注したヒヒロカネ製の部品。僕はこれを持ち帰ります」
「了解。あっちで合流だな。死ぬなよ」
「――はい。貴方も」
羽音が聞こえてくる。耳からも無線機からも。
連絡は終わった。後はやるべき事をやるだけ。ジン達が複数ある緊急避難用の地下通路からナルカミを出るまで一匹でも多く減らし、爆破の前に地上へ脱出すればいい。
「へっ。熱烈大歓迎だな」
羽音が激しく鳴るたびにピラニアの数は増え、点が円になり球となっていく。空模様は曇り外光を通さない。
全てを集めなければ、朔夜に勝てないと判断したのだ。
――みぢみぢみぢ。
金属同士が擦れ軋み合う。耳を塞ぎたくなる程、甲高いヒビ割れた高音はこの世に厄災をもたらす天使の唄か。
音は鳴り響き、綺麗な球の表面に歪な模様が浮き上がる。あれは卵だ。殻を破り生まれようとしているものは、この世に厄災をもたらす人が作りし神まがいもの。
「やっと本体がお出ましか。待ちくたびれたぜ」
身体を守る鎧であり、もう一つの肉体でもあるピラニアだけでは朔夜に勝てないとGODは理解したのだ。
あいにく孵化するのを指くわえて待ってる程、朔夜の気は長くない。
あれを試す時が来た。両肘にはまっている円盤状の武器を取り外す。起動音と共に縁が前方へスライドし、十文字に四枚の刃が飛び出した。
この武器は霧島博士の残した設計図から、舞姫達整備班が作りだした新装備。
これを使い卵の中にいる レプリカを破壊する。そうすればコアであるエネルギー源を失い、ピラニアの群雄体は停止する筈だ。
名づけて、ブラッティクロス。解き放った黒鋼色の十文字が真紅に染まる時、獲物は地獄へ落とされる。
「うらぁぁぁ!」
空を飛び高速回転する十字架に、卵を護る役割を与えられたピラニア達は牙を突き立てた。
無謀だ。円。それはこの世界で最も効率のいい形をしている。
身近な所では時計、扇風機、タイヤが思い浮かぶ。日常生活で特に意識すらした事もないが機械を動かすモーター、駆動軸にも使われている。
そして円は遙か彼方、銀河の海ですら回転させ螺旋を作り出しているのだ。
ピラニアの牙で止められる程、この攻撃は甘くない。ブラッティクロスは、次から次へと返り血を浴びた。
――ギュルギュル。
邪魔者は全て排除した。真紅の十字架は風を切りうなり声をあげ、更なる血を求め卵に迫る。
一の刃が殻に刺さる。二の刃で亀裂は走り、三の刃を中心にグルリと縦軸の円を刻む。
内面を犯す四の刃は、本体のコアへ死を与える。
「な、なんだぁ?」
これがジンならば、計算外ですと言う場面だ。地獄へ突き落とす筈がその前に十字架は動きを止めていた。
何があった。舞姫達の技術力は世界一。旧世代のドイツにさえ負けていない。
「……ちっ、そういう事かよ。俺の選択ミスだ」
小さな赤黒い粉が大気に漂っている。戦闘中気づいていたが、バトルスーツの塗料と思い込みスルーしていた。あれは錆びだ。ピラニア達の鉄分を含む血液が腐食させたのだ。
勿論そう簡単にそうならない為、整備班が対応している。ならば考えつくのは一つ。
この錆びは、機械生命体の力だという事だ。
機械生命体が錆びを操るとは、人間が核を操ると同義。命を危険にさらしてまで必要以上な力を手に入れるまで、進化した証であった。
「そんな所まで真似すんじゃねぇッ!」
神は人を造り、人は機械を作った。脈々と受け継がれたものは、戦闘プログラム(闘争本能)。
何の為に神は我らに力を与えたのか。それは生き残る為だ。ならば外敵は一体誰なのか。
死だ。
神が創造したこの宇宙は死をつかさどる女神に呪わ(愛さ)れている。その完璧で究極の愛は、万物例外無く抱きしめる。
死の国へ進む道を少しでも遠くする為、神は力を与えた筈なのに、愚かにも人類と機械生命体は憎しみでその力を使い殺し(愛し)合う。
「悪いな神様。出来の悪いガキ達でよぉ」
「同感ね。でもあなたが悪いのよ、御門朔夜。あなたが旦那様を殺したから」
「っッ」
血圧が一気に下がる。体温は冷やされ、肌が凍える用に冷たくなっていく。
「はぁはぁはぁ」
呼吸が苦しい。無意識に息を止めていた。クラクラと目眩がするのもそのせいだ。
この声を知っている。正確には覚えている。いるのか。まさかその卵の中に。
機械生命体リリスシリーズ、オリジナル零号が。
「レイカァァァッッ!」
震える指先で超振動ブレードを強く握りしめ、刃を卵へ突き刺した。
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