第8話 百年の連鎖。
「弎号? そいつにはバックパックがついてない。いねぇよ。そんなもん」
バックパックの中に、鋼鉄の乙女(機械少女)がいる。彼女達は動力源となり偽装の肉体であるGODを操るのだ。それに全ての機械生命体は、オリジナル機械少女零号のレプリカだ。弎号等今まで見た事ない。
アーマードギアD型は、機械生命体のパーツを使い造りあげた完璧で究極の鎧。対神兵器として存在する。だがそれも、動力源が無ければ単なるオブジェだ。洗濯物を干す物干し竿にしかならない。
「わたくしには感じるわ。この子(鎧)の中から弎号の鼓動をね」
緑色に瞳は輝き、触手がDの装甲へ融合していく。
「そいつが言っている事は本当だ、朔夜。君の妹ミアはそこに眠っている」
――お兄ちゃんだーい好き。
朔夜の脳裏に浮かぶは、最初の世界線。始まりのルートで微笑む、ツインテールの美少女。機械少女オリジナル弎号、ミアの姿。だがそこで疑問が浮かんだ。
何故だ。何故リリスは弎号をミアと呼ぶ。その名前は朔夜が最初の世界線でつけたものだ。
「へへっ、まぁいいや。なら尚更渡せねぇな。そいつは俺のだ」
にいいっ。口角を吊り上げ、五メートルの黒鋼の鎧を一気に駆けのぼる。
「邪魔はさせませんわ」
レプリカの口から再び奇声が放たれた。地味だがあの攻撃は不味い。その攻撃力はバトルスーツの外装甲を一撃で砕いてしまう程だ。
壊れたヘルメットを捨てた。今朔夜は素顔のまま。生身で浴びれば……。
脳みそが破壊されるのを想像してしまい、ゾッと背筋に冷たいものが走る。
「これに賭けるしかねぇッ!」
超振動ブレードを奇声のシャワーに叩きつけた。耳を塞ぎたくなる怪音は消え、朔夜の体は濡れる事無く無傷であった。
傘をさしたのだ。波という名の傘を。
怪音も超振動も空間に影響を与えるものは、波。空間を震わせて、波動を作り出す。水面に浮かぶ波紋を消すには、もう一つの波紋をぶつければいいのだ。
「やるわね」
「ったりめだ! 最強の特級ソルジャーだからなッ!」
これであの技は通じない。攻めるなら今がチャンスだ。
「うらぁぁッ!」
――斬。
レプリカは抵抗もせず、頭上から降る刃を受け入れる。頭頂部から顎にかけて線が入り、左右真っ二つに割れた。
妙だ。中身がらんどうでコアが見当たらない。
触手は外れず、そのままアーマードギアの装甲と融合したままだ。
「まさか、てめぇ。コアを触手に変化させたのか」
それを肯定するかの様に、鬼を彷彿させるギアのつり上がった瞳が緑色に輝く。
「呼びかけに答えぬなら、わたくしが使わせてもらうわ」
沈黙を貫く弎号の変わりにレプリカ零号が動力源となり、アーマードギアを起動させたのだ。
――ガシャン。
四本角を生やす武者兜型頭部のフェイスガードが左右に開かれた。
緑色に光輝くつり目から、目玉が浮きあがる。
ギロリ。血走った瞳に魂は宿り朔夜を捉えた。
「あぎぃぃぃぃる!」
口角は裂け大小様々な牙をむき出しにして、ギアは獣の様に吠えた。
胸部に足をのせる朔夜目掛けて、指先から鉤爪を生やした手が襲ってくる。
流石の朔夜も、機械生命体に支配されたアーマードギアと戦うのは初めてだ。それでも戦わなければ生き残れない。
「あらよっと」
胸部から一歩も動かずに、上半身を反らして攻撃をかわした。
予想通り巨大化故に攻撃が大味になっている。
朔夜の武器は超振動ブレードのみ。対巨大機械生命体用に作られたギアには通じない。
それは朔夜本人が一番分かっている。
「ブンブンと飛び回る煩いハエめ」
左右から巨大掌に挟まれそうになるが、宙に飛び回避。
「へっ。ハエはハエでもベルゼバブよ。悪魔の王だぜッ!」
「ぎいぃぃぃっ」
空中で逃げ道のない朔夜にギアの口が迫った。
「熱い口づけだな。おいっ!」
刀を牙に打ちつける。青白い火花が散った。装甲は硬く、刃はやはり通らない。勢いよく後方へ吹き飛んだ。
「ふぇぇ朔夜お兄さん!?」
「大丈夫だ、舞姫」
舞姫の慌てふためく悲鳴とリリスの落ち着いた声が、格納庫内に反響する。
「リリスの言う通りだぜ」
壁に着地し膝を曲げて衝撃を吸収する。
「うらぁっっ!」
くるぶしのジェットノズルからエンジンを吹かした。
「貫けッッ!」
朔夜という名のミサイルが発射する。
「うふっ。いくら助走をつけようとも、そんなオモチャじゃわたくしの新しいボディに傷一つつけられないわ」
ギアは左右に大きく腕を広げて来いと挑発する。
胸部の中央にハートマークが浮かび上がった。
あれだ。あれこそが機械生命体の動力源。機械少女の魂。
「いけぇ! 朔夜ッッ!」
「ふぇっ。でも超振動ブレードじゃ……うぅお兄さぁん貫けぇぇ!」
「うおおおおおおおッッッッ!」
超高速のミサイルは、摩擦熱から発生する炎を纏わせハートを貫く。
「ば、馬鹿な。計算外だわ」
コアを破壊され胸部から背中に穴が空いたギアは、レプリカからの支配から解放され動きを止めた。フェイスガードは閉まり、瞳から光が消えた。
レプリカ零号は薄れてゆく意識の中で、何故自分が負けたのか知りたいと朔夜を探した。
格納庫の床に小型隕石が落下して出来た様な、すり鉢状のクレーターに気づく。
そこにバトルスーツを脱いだ満身創痍の朔夜が座り込み、息を切らしている。
「教えて。何故わたくしが敗れたのか。このままだと悔しくて」
「はぁはぁはぁ。へへっ、流石機械少女、そういうところも人間らしいな」
「冗談はよして。百年前あの人を殺した【人間】という種と同じにしないで」
レプリカは最初の世界線、始まりの世界で神威を殺したのが、朔夜という事をオリジナル零号から知らされていないのか。
只、人という種を滅ぼせと命令(プログラム)のままに、機械生命体GODは存在するのだ。
朔夜は左腕を持ち上げて見せた。手首から極細のピアノ線が伸びている。その先端が絡んでいたのは、パイルバンカーから取り出したヒヒロカネ製の杭であった。
金属を重ね合わせ頑丈に作った本体が重いだけで、超金属ヒヒロカネそのものは軽い。バトルスーツ無くても余裕で杭を持つ事が出来る。
朔夜は最後の攻撃に備え、パイルバンカーを外した時こっそり杭にピアノ線を絡めていたのだ。
「うふっ。完敗ね。わたくしを貫いたのは、刀では無く杭。だからわざと壁に吹き飛ばされ、反動を利用した……と」
格納庫内が静まりかえる。アーマードギアからレプリカの声は消えた。
「終わったか」
全てを出しつくした。もう立ち上がる体力も気力も無い。クレーターの中にバトルスーツと杭はそのままだが、回収は舞姫達に頼もう。
集中力を切らしたその時だった。ギアの左手が朔夜の頭上に落ちてくる。
「御門朔夜! 旦那様の仇ッッ!」
レイカ。オリジナル零号の怒声と共に掌を叩きつけてくる。怨念。恨み。百年前の残滓がギアを動かした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。