第6話 Dead END。

 確かに顔は零号モデルだけあって似てるが、それだけだ。

 オリジナルは人と全く変わらない姿をしている。肌の感触も体温も心臓の鼓動もある。人間よりもスペックが遙かに高いだけで、我らと変わらないのだ。

 オリジナルが人ならば目の前のレプリカは、単なるマネキンに過ぎない。

 髪は無く坊主。服や装飾品など身につけていない。プラスチックに似た肌は硬く冷たかった。

「うふっ」

 レプリカは自分を産み出した母なる蜘蛛の遺体に、欠損した右手首を挿入する。

 ナノマシーンを取り出して再生する気だ。もう犠牲を最小限と言ってる場合ではない。

 全ての装備を使い、破壊しなければ。殺されるのは、朔夜達だ。

「させるかよッ!」

 肩装甲カバーが上下に開く。中から顔を覗かせるは、先端がドリルとなった六発のミサイルだ。

 ――ギュィィン。

 出番を待ち望んでいたと張り切り、テンション高く回転させた頭部から火花が散り尻から火を噴きテイクオフ。全弾、レプリカ目指し発射する。

「うふっ、せっかちね」

 こんな時どうしても慌てる人間と違い、機械生命体は落ち着き状況を把握。冷静に次の一手へ進む。

 右手首が挿入した状態で軽々と蜘蛛を持ち上げる。ミサイルから身を守る盾にしたのだ。

 ドリルミサイルは、ドリルで機械生命体の体へ突き刺さり、潜り込んだ体内で爆発する様に作られている。だがそれは当たらなければ、真の威力を発揮しないという事だ。

 レプリカはそれを瞬時に判断し、六発全弾蜘蛛に命中させた。ドリルは林檎の皮を剥く様に、金属を削り体内へ沈み込むと内側から一斉に爆発する。

 破片と爆風で視界が一気に悪くなり、熱風の為サーモグラフィーも役に立たない。

 朔夜は知っていた。これぐらいで、機械少女は壊れないと。

 夢で知った知識だ。おそらく朔夜は、並行世界の出来事を夢で見ているのだ。そう考えた方が悩まなくてすむ。

 これ以上考えるのは止めだ。性にあわない。

 視界不良の中で爆炎に意識を集中させ、出てくるならここからだと朔夜はパイルバンカーを構えた。


「来る!」

 黒い影法師が揺らめく。黒い煙をまとわりつかせ、零号レプリカは飛び出して来る。再生した右手と、左手には刀が握られていた。

 蜘蛛から回収したナノマシーンで造りだした刀は、人間の血に飢え不気味に輝く。

「うらぁっっ!」

 パイルバンカーのトリガーを引く。連動して踵のアンカーが動き、大地に根を下ろす。

 ――ズゥゥンッッ!

 超金属ヒヒロカネ製の杭が撃ち出される振動は、大震災レベルのマグニチュード。発生時間はコンマ一秒にもみたないが、左腕から体内へ流れる衝撃で左肩の関節が軋み泣き叫ぶ。

 バトルスーツを装着してなければ、全身の骨が砕け塵となり白い霧は朔夜を黄泉へと誘っていただろう。

「うふ」

 ――ギャャンッ。

 レプリカは刀で杭を受け流した。脱力。台風でも折れない柳の枝の如く、力に抵抗もせずなすがままに攻撃を受け流したのだ。

「う、嘘だろ」

 人間には不可能でも可能にしてしまう。それが機械少女の強さであり恐ろしさでもある。

「あラ、ラ、ッ」

 それでもだ。大震災レベルの攻撃を完全に防ぐ事等、空に向かって唾を吐くのと同じだ。無謀過ぎて出来るわけが無い。例えそれが神を語るGODだとしても。

 地球が産み出すエネルギーと同等クラスの攻撃力に勝てるわけが無い。

 ミヂミヂッ。各関節ギアは呻き悲鳴をあげ、両腕は削り取られ塵も残さない。杭は外れたが、牙を突き立て残さず喰らった。

「ラッ……ラッ」

 あまりの衝撃に人工知能はついていけずフリーズし、各関節から白煙が吹き上がる。

 一発目は外されたが、まだ戦乙女の御加護は、リリスからの口づけの効力はまだ続く。

 朔夜は二発目の杭をパイルバンカーに充填し、コアがある胸部に押し当てた。

「これなら絶対外さねぇ。目をつぶってもな」

 にいっ。フルフェイスヘルメットの中で、朔夜は口角をつり上げた。

 ――斬。

「な、んだと」

 斬撃音と共に左半身が不意に軽くなる。

 朔夜は自分の目を疑った。鷹の様に鋭い瞳に映るは、パイルバンカーを握ったまま吹き飛ぶ左腕部。左肩から先が切断されていた。

 一体何が起こったのか。朔夜が認識したのは、紅に染まっていく胸部から生えた第三、四の腕。

 蜘蛛に残されていた脚を造り変え、隠し持っていたのか。

 リリスの悲鳴が、泣き叫ぶ声が反響して煩い。 

(大丈夫だリリス。俺はレッドアームズ。最強の特級ソルジャーだぜ)

 そう言って、真紅に汚れた唇がパクパク動く。

 何故声が出ないのだ。リリスを安心させたいのに。ならばせめて、腕を動かしてモニタールームへ合図を送ろう。だが腕も動かない。左を失い、右腕は第四の腕で胴体ごと掴まれていた。


「コウいうのを、肝が冷えたと言うのかしらね」

 レプリカの体からは相変わらず白煙を吐き出していて、動く気配がない。だが緑色に発光する瞳から輝きは失われていなかった。

 諦めるというプログラムが最初からないのだ。

 全ての人類を滅ぼす。

 零号オリジナルから与えられた指令を遂行する為に。レプリカ達はGODを操るのだ。

 朔夜もそれは同じだ。機械生命体を全て殺し、家族の仇を討つために決して諦めない。

 想いの強さは同じ。違うのは運だけ。

 戦場の女神。戦乙女が今回微笑んだのは、レプリカだったのだ。

 幸運がレプリカに与えたのは、蜘蛛から取り出した無傷の脚。

 不幸が朔夜に与えたのは、右手首の再生と刀に使っただけと思い込み、体内に潜む腕に気づかなかった事。

「ねぇ、そのバトルスーツわたくしにくれないかしら。もう必要ないでしょ」

 ヘルメットが真っ二つに割れ、落ちた。これではリリスの声が聞こえない。

 ふざけるなと、口内に溜まった血を吹きだしマネキンの顔を汚した。

 ゴキャ。朔夜の上半身が無慈悲に一回転する。戦いは終わった。最強の戦士の旅はここに幕をおろし、永遠の長い眠りについたのだ。


************************

Dead END。

次回に続きます。

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