第19話 緊急召集

 松子、力斗、天宮であざらし幼稚園の会議室で緊急の作戦会議が開かれた。


 議題は、今後激しくなってくるであろう、長沼達敵陣営の攻撃にどうあざらし幼稚園を隠すかということ。

 今回は、なんとか天宮が間に合って、松子の窮地を救うことが出来たが、多忙な天宮がすぐに駆けつけられるとは限らない。


 ポケットに入るサイズではないあざらし幼稚園、簡単に移動することは出来ない。

 ならば、なんとか誤魔化すしか方法はないのだ。

 休日で、人生を悲観してのふて寝という名の爆睡中だった力斗は、突然の呼び出しに戸惑い、シュガーたんに「長沼来襲事件」のあらましを聞いて驚く。


「なんだってその長沼は、この場所にたどり着けたんだよ。天宮達でひた隠しにしているんだろう?」

「分かりません。力斗さんのおっしゃる通り、この施設は、総理が全力で表舞台から消し去っています。普通に考えれば、全くここにたどり着くことは考えられないのです」

「どうやって隠したんだよ? 予算書的な物は、どうやったって提出しなきゃならないだろう?」

「え。そうなの?」


 政治のことは全く分からぬ松子であった。


「そうです。この規模の施設を建設し維持するのは、何十億もの金銭が動きますから。さすがに全く予算として扱わないわけにはいきません。今回、長沼凛々子が持ってきた資料も、その予算捻出の時の資料です」

「予算捻出の資料」

「はい。今年度建設されたり、改築されたりする全国に何百件かある国営の施設の間に、うまく潜り込ませたはずだったのですが。なぜピンポイントに、この場所を見つけたられたのか謎ですね」


 そもそも、岩太郎と天宮が、何かを隠れてやっていることすら知っているか怪しいのに、そんな長沼が自力で、何百もある似たような施設の中から、この施設が怪しいと睨むことなんて、本当に出来るのだろうかと、松子は思う。暇か? 暇なのか? 長沼。


「まさか内部告発者?」

「ええ、その可能性は高いです。力斗さん。考えたくはありませんが、何者かが、金銭か怨恨か、何かの理由で情報を流したとしか」

「こわっ! 裏切り者がいるってこと?」

「そうですね……ですが、本当にこの場所は、限られた人しか知らないのです。あり得ない気もしますが、それはこちらで調べておきます。で、さて……今後の対策です」


 そう。そこが大切なのだ。

 具体的にどう対応するのかを事前に口裏合わせておかないと、また長沼が来た時に困るのだ。


「とにかく、返り血は物騒ですので、お気をつけ下さい」


 天宮がキッと松子を睨む。


「ちょっとだけじゃない」

「ちょっとどころじゃないでしょう。それ、もう人を一人殺してきました〜! って、レベルですよね」


 松子の『ちょっと』は、どうやら天宮的には、ちょっとではなさそうだ。


「ま、その格好で電車に乗ったら通報されるレベルだわな」


 力斗の意見に、AIのソルト君もシュガータンもウンウンと首を縦に振って同意する。

 四面楚歌、松子に味方はいないようだ。


「分かったわよ。魚捌く時は、エプロンでもしておくわよ」

「初めからそうして下さい」


 食い気味に天宮が言い切る。よほど先程の長沼とのやり取りに苦労したのであろう。


「で? 後は、厚生福祉施設で、色々とまだ実験を重ねている段階だから、安全のために入館には事前に手続きが必要と言い訳する。そして、言い訳している間にソルト君かシュガーたんが天宮に連絡する」


 力斗の提案に「まぁそうだな」「はーい♡」と、ソルト君とシュガーたんも同意する。


「ええ。そうしていただけると助かります」

「ねぇ、それでも帰らない人はどうしたら?」

「そうですね。強行突破されれば、困りますね。……うーん、大福さえ見られなかったら、まだ何とか色々とこじつけて言い訳できるかも……」


 天宮が考え込む。

 

「じゃあ、大福を隠せば良いよね?」

「ええ、最悪、大福だけでも逃げられれば、言い逃れはできるかもです」


 ぷかぷかとのんきに泳ぐ赤ちゃんあざらしと、厚生福祉施設は、さすがに天宮でもこじつけが難しいということだろう。


「しかし意外でした」


 一通り打ち合わせした後、天宮が帰り際に一言。


「何がよ?」

「ほぼ強制で連れて来られた松子さんと力斗さんですから、いっそ暴露されて計画が無くなることを望むかと」

「その手があったわね!」

「え、ちょっと!」

「冗談よ。大福は可愛いもの。可哀想じゃない、行き場がなくなったら。ねぇ、力斗?」

「まぁ……そうだな」


 皆の視線は、自然と無邪気にプールサイドで眠る大福に集まる。

 モチモチのころころボディは、人間の苦労なんて全く気にもかけてなさそうだった。

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