第5話 あざらしために!
近年、とある研究機関の調査により、日本人の遺伝子には、可愛いモノを推さざるを得なくなる推し活遺伝子、通称『可愛いは正義』が発見された。(※注意! この物語はフィクションです! そんな事実はないのです。たぶん!)
猫を溺愛し、可愛い二次元キャラに散財して身を滅ぼす国民をみて、政府は考えた。
政府は、国民から楽しく税を絞り取り新しい事業を見出そうと、究極の政策を生み出した。
それこそが、この『あざらし幼稚園を日本でもやっちゃおう計画』なのだ。
という、無駄に仰々しい、偉そうな大義名分だが、その実は、あざらし好きのおじさんの推し活。
総理大臣の瀧源院岩太郎の独断と偏見と公私混同の極みに他ならない。
あざらしは可愛い。あざらしには罪はない。
あざらしは、まんまるボディをポヨポヨさせて、日向ぼっこしているだけ。
岩太郎の、日本で運営するあざらし幼稚園が見たいという、壮大なワガママの被害者なのである。
しかし、岩太郎があざらしに惹かれるのも無理もない。
あのあざらしの真っ黒のクリクリお目々、フワフワのお髭、まんまるお腹には、一国の総理大臣をも狂わせる、魔性の魅力が詰まっているのだろう。知らんけど。
「くわぁー! もう、無理!」
ある意味もう一つの被害者である松子は、ソルト君の用意した教材に突っ伏して震えている。
「
「そのイケボ! 逆にムカつく!」
好みのイケボに「起きて」と起こされる。こんな素敵な夢シチュエーションが、このぺ……の色違いのロボットで実現してほしくはなかった松子であった。
あざらしの飼育がこんなに難しいだなんて。こんなに覚えることがあるなんて! 松子はワナワナと震えて、引き受けたことを後悔しているが、よく考えてほしい。
岩太郎は、あざらし推しなのである。大切な推し様を、緊急事態と言っても、全く知識のない人間に指一本触らせるわけがないのである。
これは完全に松子の判断ミス。
お母さん、昔から松子には、ちゃんと考えてから行動しなさいって言っているでしょう! の案件なのである。
……と、言っても、松子の両親は、後先考えずにミャンマーの山奥で、日本人向けのペンションの経営だなんて、普通の感覚では思い浮かびもしないであろう人生設計を実行してしまうような破天荒っぷりなのだが。
ま、松子の生来の性質なんでしょうな。
仕方ない。
「……ほら、松子。お前の頑張りを俺に見せて」
「ソルト君うるさい」
「良いから、そこのテキストの一ページから十ページまで覚えろよ! 十分後にテストだ!」
「じゅ、じゅっぷん……」
グッと涙を堪える松子であった。
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