第4話 あざらし、そろそろあざらしを
「こ、こんな無駄な予算を使うから日本の経済がダメになって、私がフリーターして苦労を重ねているのよ……」
このソルト君にしてもそうだ。このくだらない虎猫屋紙袋仮面(岩太郎)の計画のために、どのくらいの予算をつぎ込んで作ったのか。
松子はソルト君を睨む。
「熱い視線⭐︎サンキュー!」
松子の視線に反応して、ソルト君がイケボで何やら言っている。
「要らない機能付けるな!」
「だってその方が楽しいんだもん」
「この……イカレ親父……だったら! だったら、このソルト君を、もっと人間みたいに動かせるようにして、ソルト君がお世話すれば良いでしょ!」
松子にしては、良い意見である。
そうなのだ。全くあざらしの魅力も扱い方も分からない松子が世話するよりも、ソルト君をバージョンアップさせた方が、『なんぼかマシ』ってヤツだろう。
「だって、予算が足りなかったんだもん」
残念。お金の問題である。
まぁ、こんなイカレた計画に予算が着く方がそもそもおかしいのだが。
「新事業振興費用と銘打って、ソルト君の開発、可愛いあざらしプールの建設、色々と秘密裏に進めて来たが、あざらしの世話を出来るほどまでにソルト君を開発する費用が、どうも得られなくて」
誠に残念だと、岩太郎が首を横に振る。
「官房長官が、猛反対して」
良かった。この国には、まだまともな政治家がいるようだ。頑張れ官房長官! 負けるな官房長官! それ行け官房長官! 名前も顔も覚えていないけど。
「で、表だって動けば官房長官に怒られるから、勝手に話を進めてしまうために私を拉致したと」
「拉致では犯罪だろうが! 人聞きの悪い。スカウトだ。給与はちゃんと払う!」
「う……」
いや、どう考えても拉致で犯罪だろう。
松子は、愛するトーストの恨みを忘れてはいない。だが、次の職場を探すのに悩んでいたところだ。
給与が出るなら、少しくらい協力しても良いかななんて思えてくる。
「で?」
「で?」
「肝心のあざらしよ! あざらしは今何頭いるのよ?」
「ゼロだ!」
「はぁ? ゼロ?」
「当たり前だろうが! 可愛いあざちゃん達を、環境がまだ整っていない状況でお育て出来ないだろうが!」
ちっ、岩太郎め。まだあざらしゼロだなんて、役立たずめ。
早くあざらしの可愛さを、あのぽよぽよボディを語りたいのに。
なんて、神目線の語り手の欲望は、置いておいて、松子は、あざらしがゼロと聞いて少しほっとした。
大量のあざらしがすでにいるとか、世話する松子からすれば地獄だ。
相手は命だ。一つ間違えれば、即座に死んでしまう。
「そこで、だ。松子さんには、このソルト君から、あざらしの捕獲の仕方、育て方を急ピッチで学んでもらう」
「捕獲? え?」
「当然だ。あざらし幼稚園とは、あくまで怪我した野生のあざらしの生体保護が目的だ。怪我をしたあざらしを保護なしには語れるか!」
「そこからかー!」
松子の虚しい叫びは、エクストラ超お高いスイートルームの壁に虚しくもかき消されてしまった。
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