第26話試験終了
試験官からの指示で30分の休憩となった俺は、観戦用の部屋でセリーアと2人で話し込んでいた。
最初はセリーアが試験の全過程を終了したことへの労いを主にしていたが、俺はずっと気になっていたセリーアが一瞬でダンパの背後をとった方法について聞くことにした。
「ところでセリーア?」
「どうしたの??」
「あのダンパさんとの勝負の時に、背後に一瞬で回り込んだ時の事なんだけど……。」
「あー、あれがどうしたの?」
「どうやったのか見失っちゃったし分からなくて聞きたいなって……。」
「人の戦い方を詮索するのはタブーだって分かってるんだけどね。」
「それくらいのことばらしてもお姉さんは困りません!!」
「それにね、あれは分かっててもそう簡単に見極められるものじゃないわよ?」
「と言うと?」
「私の属性相性は水と風って2種類あるんだけど、そのひとつの風の属性魔法を私自身に瞬時に付与して成り立ってるのよ。」
「ごめん、よく分からないや……。」
「簡単に言うと、一瞬突風を自分の後ろ向きに吹かすことで推進力を得て、とてつもないスピードを手に入れてるって訳ね。」
「そういうことなんだ!!あの速さで動かれたら、敵はたまったもんじゃないね。」
「でしょ〜、それにこれは私独自に編み出した魔法だから真似されることもあまりないと思うわ!!」
「お姉さんのこと、天才って呼んでもいいわよ?」
「バカと天才は紙ひ……。」
コツンっ
終始ドヤ顔のセリーアを茶化そうとしたら小突かれてしまった。
「バカっていう方が馬鹿なのよわかる?」
「ごめんごめん、少し調子乗ってるの見て茶化したくなっちゃったんだ!!あはは」
「私、調子乗ってた……??」
「かなり浸り顔だったよ。」
「やだ、気が付かないなんて恥ずかしい!!」
「でも、努力して手に入れた力だろうから、それくらい誇らないと勿体ないよね!!」
「う、うんそうよね!!」
そんなこんなで30分はあっという間に過ぎてしまい、試験官からお呼びがかかる。
「では、ディノールさん、ザルタンさん会場へ移動してください。」
俺はセリーアに手を振り頑張ってくるねと言い残し、部屋を後にした。
「「「それでは、第6試合を始める!!!」」」
「「「ディノール、ザルタン両名は前へ!!!」」」
俺は号令に備えて、剣を構えてソウルパーセプション(魂知覚)をさりげなく展開する。
「「「勝負、はじめ!!!」」」
俺とザルタンは一斉に距離をとる、ザルタンは精霊に祈りを捧げている。
俺もそれに合わせて、魂への集中を高めていく。
ザルタンが先に祈りを終えて、精霊と共に攻撃を仕掛けてくる。
「「スピリット シザーウィンド!!」」
俺に目掛けて見えない攻撃が飛んでくる、俺は魂への集中をやめ、横に走り辛うじて風の刃をかわせたようだ。
魂への集中はやめてしまったが、ソウルパーセプションで分かったことは、ザルタンの魂は淡い光で緑色ということだ。
そこから推察するに、剣術で戦えば難なく倒せるであろうが、対人経験の乏しい俺は敢えて、魂で縛り上げることに専念する。
ザルタンが精霊に再び祈りを捧げると同時に俺もソウルパーセプションの範囲を狭め、魂に集中するのに専念した。
本来は魔法で牽制したいところだが、まだ両立してまともに戦える程の技量は身についていない。
「「サンダー!!」」
「なに魔法だと?剣じゃないのか!!」
俺はブラフをはり、相手の詠唱を止めることに成功、その間に俺はソウルパーセプションの範囲を広げソウルバインド(魂を縛り上げる)の発動に成功した。
「クッ、なんだ身動きが……。」
俺はザルタンに歩いて近寄りザルタンの首に剣を突きつけた。
「おしまいです。」
「「そこまで、勝者ディノール!!!」」
会場は何が起こったのかわからないという困惑と八百長なんじゃないかという疑念が渦巻く雰囲気となってしまったが、勝利は勝利なのでお辞儀をして立ち去ることにした。
そして、最後の試合である凛とゴドルックが試験官に呼ばれたのか、控え室に向かう通路で2人とすれ違った。
「まだまだお主は人相手だと躊躇うようだのぉ。」
凛はそう言い残し、2人は入場していったのだった。
「「「最終試合を始める!!!」」」
「「「凛、ゴドルック両名は前へ。」」」
「「「勝負、はじめ!!!」」」
その号令が聞こえたので急いで観戦用の部屋へと向かった俺はすぐさま鉄格子にかじりつくように会場を見る。
既に会場には大歓声と共に拍手が送られていた。
何が起きてるかと全体を見渡すと、ゴドルックが大量の切り傷を負った状態で壁に打ち付けられていた。
「「「勝者、凛!!!」」」
涼しい顔で凛は勝者宣言を受け入れ、一礼をして退場していった。
「セ、セリーア何が起きたの?」
俺は最初から見ていたであろうセリーアに話を聞くことにした。
「私もよく分からないんだけど、凛が鉄扇を取り出してひと扇ぎしたらあんな風になっていたのよ……。」
「鉄扇?そんなもの旅の途中は使ってなかったよ!!」
「ディノールが知らないってことはまだ、凛には秘められた力がありそうね……。」
セリーアと話していると、試験官が観戦部屋を覗き込んで集合するように声をかけてきたので、俺とセリーアは指示に従い控え室に戻ることにした。
控え室に戻ると、負傷した受験者を除いたとされる全員が集まっていた。
試験官が注目するようにと咳払いをし話し始めた。
「えぇ、第三試験お疲れ様です。」
「これから試験の合否と順位を発表しますが、試験順位が何位であろうと合否が確約されるものではありません。」
「では、順位の方を下から発表します。」
「14位ゴドルック、13位セイベル、12位ペトラ、11位ヤンドーラ、10位ザルタン、9位ダンパ、8位カイル、7位ストリア、6位リリア、5位ロロア、4位ディノール、3位ドルフ、2位セリーア、1位凛、以上になります。」
「そのうち合格者は1位から6位までの受験者としますが意見は受け付けません。」
「質問はいいですか?」
俺は気になったことがあったので手を挙げて試験官に答えを求めた。
「どうぞ。」
「精霊術の使い手が1人も合格していませんが、何故でしょう?」
「いいでしょうお答えします、まず今年の精霊術士は戦闘においての対応がずさんであり、出遅れる場面が多すぎる点、扱っていた精霊術や精霊自体も平凡かそれ以下だったことも考慮すると合格を与えるのは難しいと試験官全員の判断になりました。」
「ですが、精霊術士は基本サポートに回りますよね、そうすると不利な試験内容なのでは?」
「そうですね、確かに否めない点もありますが、サポートだとしても基本的な術の質があれではという判断ですので覆りはしません。」
「分かりました、ありがとうございました。」
その後も精霊術を主に使っていた受験者は少し納得のいっていない様子ではあったが、試験中の出来栄えを見ると、今回の試験は魔法士、魔法剣士などに軍配があがるのは致し方ないのかもしれない。
「これ以上質問がないのでしたら、合格者は自室に戻り、不合格のものは少しここに残っていただきます。」
俺たちは試験官にそう言われ、自室に戻り始めた。
戻る途中予想はしていたが、ドルフがまたもや絡んできたのだった。
「よぉ、チビは4位で俺様は3位だったな!!」
「そうですね……。」
「やっぱりあの二人が居ないとお前は弱虫なのか??」
「確かに順位では負けましたが、いつか決闘でも何でも勝てることを証明しますよ。」
「じゃあ、今からってのはどうだ?」
「今から!?自室に戻る指示ですよ!!」
「なんだ!?ビビったのか!?」
「そこまでにするんだのぉ。」
俺が困っていると、後ろから来た凛が仲裁に入ってきてくれた。
「試験は終わったのだし、指示は自室待機だのぉ、それとも何か?貴様は駄犬らしく待ても出来んと言うのかのぉ?」
「ケッ!!またお前かよ、ちょっとからかっただけだからもういいわ!!」
そう吐き捨てドルフはズカズカと足音を立てて、自室のある方角へと進んでいった。
「ありがとう、凛!!」
「お主も少しはシャキッとせえ、試験で見たあやつの実力とお主の試験結果は確かに相違ないがのぉ、秘めた実力ならお主に分があるであろうから自信を無くすでないのぉ。」
「そ、そうだよね……でも、人相手だとどこか手加減しちゃうんだ。」
「それは相手が誰でもかのぉ?」
「多分……。」
「父や母を殺そうとしてるやつでもかのぉ?」
「それは違うけど……。」
「ならそれで良いのではないかのぉ?」
「守りたいものの前で強ければ十分だと思うがのぉ。」
「そうだね!!ありがとう、そう考えるようにするよ!!」
こうして凛に励まされた俺の足取りは軽くなり、自室に雑談をしながら2人で戻ったのだった。
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