第21話顔合わせと意外な再会

1次試験の山登りを軽々突破した俺と凛は、無表情な女性に連れられて学院内の一角にある受験者用の待合室に通された。


扉を開けるとすぐさま先客である他の受験者がこちらをギロっと睨んできた。俺は少し挙動不審になりながら、凛は堂々としたと言うよりまるで、眼中に入っていない様な表情で入室する。


入室し、用意されたソファーに向かって数歩歩いたところで、俺の名前を後ろから叫びながら駆け寄ってくる人がいた。


「ディノール〜〜!!!」

「しばらくぶりね!!」


俺に抱きつきそういう女性であろう人の正体を確かめるべく振り返る。


「わぁあ、セリーアじゃないか!!」


「覚えててくれたのね!?やっぱり学院を君も受験するんだ。」


「やっぱりってことはセリーアは勘づいていたの?」


「まあね、でもそちらの子ははじめましてよね?まさか、彼女!?」


ニヤニヤしながらセリーアは聞く。


「違うよ、訳あって旅と試験を一緒に受ける仲間の凛だよ。」


「ふむ、そなたはセリーアというのだな、なかなか馴れ馴れしい女子(おなご)であるのぉ。」


「な、馴れ馴れしいってディノールとは一緒に依頼を受けて競い合った仲よ!!」


「たった1回戦闘を共にしたからとはいえ、いきなり後ろから抱きつこうとはのぉ。」


「じゃあ、あなたはどういう仲なのよ!?」


「そうさのぉ、一言で言えば同衾し通じあってる中であるのぉ。」


「どどど、同衾!?ディノールそれ本当なの?」


セリーアは顔を赤らめながら、すごく慌てた様子で俺を見ながら質問してきた。


「凛、セリーアをからかうのやめてよ、セリーアも変に受け取らないで……。」

「確かに同じ布団で寝たけど、宿の部屋がなかったからそうしただけ、旅を一緒にして連携とかも取れるから通じあってるって意味だよ。」



「はぁ、そういう事ね……じゃあ、本当にただの旅仲間なのね?」


「そうだよ!!」

「そなたもなかなか、からかい甲斐のあるようだのぉ。」


「すっかり載せらてしまったわ〜、とにかく一緒に試験頑張りましょう!!」


セリーアはそう言いながら、握手を求めるように手を前に出してきたので、俺はそれに応じ手を出し、凛は満足そうな表情でそれを眺めていたその時、



「おいおい、こんなガキでも試験を受けられるのか〜??この学院も底が知れるな!!」


ツンツン頭の男がふんぞり返りながら、こちらを睨んで吐き捨てた。

それに怒ったセリーアは言い返す。


「なによ偉そうに、あなた1次試験通ったくらいで調子に乗ってると痛い目みるわよ?」


「なんだこのアマ、そんなに言うなら俺とお前ら3人のうち1番強いヤツで勝負しようや。」


「捨ておくが吉だのぉ、吠えるしか能が無い駄犬はそのまま吠えさせておくしかあるまい。」


「凛、あなたなかなかいい事言うわね!!」


何やらバチバチとした見えない火花が散っているように感じた俺は、我関せずでソファーに腰をかけ一息ついた。

恐らくここは女性陣に任せておけば、なんとかなるという直感と俺まで出ていくと、余計話しがこじれると思ったので傍観することにした。


「誰が駄犬だゴラァ、そこまで言うなら試験で勝負してやる、誰が首席合格できるか勝負だ。」


「駄犬が首席のぉ、まあ良いが我々は他の受験者とも仲良うやりたいのでのぉ、首席に1番近いかで勝負とさせてもらうかのぉ。」


「ちょっと凛弱気じゃなあい?」

「いいのだよ、周り見てみぃ自分たちが下に見られてると思って憤りを感じた表情ばかりだのぉ。」

「あら、ほんとだ!!そこへの気配りだったのね。」


「まあいい、俺は首席しか取るつもりはねぇからな、念の為名乗っておいてやる。」

「俺の名前はドルフ、今後お前らの上に立つ人間だ。」


「妾は凛、せいぜい頑張るんだのぉ。」

「セリーアよ、ドルフ、一言言わせてもらうけどやるからには私達も負ける気はないからよろしく。」


結局このいざこざは試験中ずっと続くようだ、ただ歳が幼いと言うだけでこんな仕打ちが待ってるなんて先が思いやられる。

溜息をつきながら一瞥すると、強い視線を感じたので、俺も名乗っておくことにした。


「あ、俺はディノールよろしく、お互いがんばりましょうね!!」


それを聞くとドルフは、鼻息を荒らげながらそっぽを向いてしまった。

とりあえずこの場でいきなり戦闘とはならず良かったと胸をなでおろした。


その後2時間ほど待たされている間に何組か受験生が到着して、1次試験突破した時に案内してくれた無表情な女性も入室してきた。


「……では、これにて1次試験締切とします。」


「まだ期間はあるのでは?」


受験者のひとりが当然の疑問をぶつける。



「質問は今後受け付けませんが忠告をする前だったので、今回だけは答えましょう。」

「先程、王都から願書提出締切の知らせと併せてこちらの定員もいっぱい、ということで今回の試験はこのメンバーで締切とします。」


「では、2次試験の説明を始めます。」

「2次試験は、闘技場にて魔物討伐を個人で行っていただきます、ゴブリンを三体倒したところで2次試験突破となります。」


その後も軽く説明は続き、注意事項として応急処置などの手は尽くすが、再起不能な怪我や致命傷を負っても責任は取らない、受験者同士の明らかな妨害は禁止ということだった。


「説明は以上、一人一部屋用意しているので、今日のところは食堂で食事を取ってゆっくり休み、明日に備えるように、では解散。」



その後、部屋を退出する際にルームキーを渡され受験者は食事の時間まで各々の部屋に散っていった。


「じゃあ、凛とセリーアまた食堂で!!」


「ふむ。」

「ええ、ひと部屋に集まってお話しないの?」


「俺はそれでもいいけど、凛は?」


「妾も特にやる事はないのでのぉ、お主らに同行しようかのぉ。」


「決まりね!!じゃあ、私の部屋に各自荷物を置いたら集まりましょう。」


セリーアは一方的に伝えて、走りながら自室に向かってしまった。

俺と凛もさほど疲れてはいないので、急いで荷物を置き、2人でセリーアの部屋を訪れた。


「早かったわね、2人とも、中に入って!!」


俺と凛は誘導されるままに部屋に入り、椅子に腰掛けた。


「ディノール、さっきのドルフの一件、大丈夫?」


「ああ、俺なら大丈夫だよ、ただ妨害とかは無いといいなって感じかな。」


「恐らくそれは大丈夫だろうのぉ、それは学院側が厳しく監視している故、奴も簡単には妨害しては来れんからのぉ。」


「それもそうね、私は妨害されたとしても負ける気はないけどね。」


「それは俺もだよ、年齢だけでバカにされてずっと黙っているのは癪だからね。」


そう俺が答えると、セリーアは話題を変えて2人に質問する。


「それはそうと、ゴブリン討伐試験はどう見てる?」


「妾からしたら造作もないことよのぉ。」


「俺もゴブリン三体なら余裕かな?」


「そうよね、アンデッドシープ3体も討伐してる実績もあるのよねディノールは。」

「凛もそんなに自信があるの?」


「そうさのぉ、ディノールに戦闘を教えて旅してきたのは妾だからのぉ。」


「それは初耳だわ!!詳しく聞かせて?」



その後は、セリーアに俺と凛の戦歴やどんな旅をしてきたか、俺と凛の生い立ちなんかを根掘り葉掘り聞かれて、時間が過ぎていった。

俺としては、セリーアの戦闘スタイルや生い立ちに興味があったのだが、食事の時間が来てしまったので、タイミングを逃してしまった。


食堂では、相変わらずドルフは俺たちを睨みつけ、他の受験者達も敵意が垣間見える様子で、和気あいあいとした食事とはいかなかった。


その後は、朝まで部屋からの外出は禁止とされ、各々の部屋に皆戻り、この世界で初めて1人で過ごす夜を迎え、せっかくなので俺は、両親に手紙を書いてから眠りについたのだった。



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