入学試験編
第20話試験開始!!
まごころ亭にしばらく宿泊しながら、王都を2人で少し観光し、この旅の最終目的地であるラグザ王立学院の所在地、ゼルド山脈を目指して王都を出発することにした。
「女将さん、お世話になりました。」
「妾も世話になった、特にここの料理は絶品であったのぉ。」
「おやおや、嬉しいこと言ってくれるね凛ちゃん。フフフ」
「気をつけて試験受けてきなね、私も真心込めて応援してるからさ!!」
「はい!!」
「ふむ。」
「最初は、その和服?って服装の違和感が凄かったけど、見慣れてくると可憐で素敵よね。」
どうやら女将さんは凛のことをすごく気に入っているようで、宿泊中もよく2人で話していたり、女将さんから凛の出身の話をよく振られたりしていた。
「嬉しいことを言ってくれるのぉ、妾も和服が1番すきだからのぉ。」
「さ、凛そろそろ行かないと。」
俺はそう言いながら、外に続く扉を開いて女将さんと凛の方を向く。
「そうさのぉ、名残惜しいが行くとするかのぉ。」
「行ってらっしゃい、また寄ってね!!」
俺と凛は挨拶を済ませて、馬車に乗り込み再び街道を目指す、この王都から北の王立学院があるゼルド山脈の麓までは、一日程で行けるそうだ。女将さんによると、それからは麓の駐在所に馬車や大きい荷物を預けて、山道を登る必要があり、モンスターは出ないものの険しい道を進む必要があるのだそうだ。
門番に挨拶をして、再び街道に出た俺と凛は北をめざしながら、試験や学院について話していた。
「学院に結界が張ってあるって言ってたけどどこから張られてるの?」
「駐在所から先は、部外者基本お断りの敷地だったはずだのぉ。」
「俺たちはもう入れる状態なのかな?」
「この時期は、試験もあるし妾とお主は願書提出した状態で駐在所に立ち寄るからのぉ、駐在所で何か説明があると思うがのぉ。」
「それもそうだよね、さすがに結界破りから試験なんてことは無いよね……。」
「あの結界は大規模なもので、張り直すのに時間がかかるであろうから、そんな試験はないと思うがのぉ。」
「それもそうだね。」
「そういえば、妾とお主以外の受験者達もこの街道を通るのであろう?」
「地図ではここが1番安全だから、基本的にみんなここを通って行くと思うけど、どうして?」
「その割には受験者らしい他の通行人が見当たらんからのぉ。」
「俺と凛は遠くから来てる関係で、余裕を持ちすぎてるくらいの日程だからね、他の人はもう少し遅れて来るんじゃないかな。」
「なるほどのぉ、まあ道がごちゃごちゃしてなくて快適だから良いのだかのぉ。」
こうして、俺と凛は駐在所までの間、世間話や試験内容の予想など、色々な話をしながら馬車に揺られていた。
そして、少し先にあった山が目の前に見えるようになった頃、『学院関係者駐在所はこちら』の看板が出てきたので、表示に従い10分ほど進むと山小屋が見えた。
あたりは夕方で木が生えているのも相まって、薄暗く、駐在所のあかりだけが目立つような景色だった。
俺と凛は馬車を停め、駐在所の扉をノックすると中から野太い男性の声で入りなと返答があったので、中に入る。
「失礼します。」
「おおう、よく来たな坊主と嬢ちゃん、俺はこのゼルド山の管理と警備の主任を任されとる、ガザンってもんだよろしくな!!」
「俺はディノールでこちらは凛です、よろしくお願いいたします。」
「ディノールと凛か……ついこの間、願書提出しに来た年端もいかない子供たちってのは、お前らのことだったのか。」
「えっと年齢が、凛が12歳で……ディノール5歳!?」
「こやつをそこら辺の5歳と一緒と考えておると、足元すくわれるでの、気をつけた方がよいのぉ。」
「リントからここまで来たんだ、侮ったりしねぇよ、それにドーゴンとソニカの息子なんだろ?」
「両親を知ってるんですか!?」
どうやらガザンは、昔冒険者をしていて一時期ではあるが、両親と冒険者パーティを盾役として組んでいたらしい。
「あの時は、俺も2人も若かったからな、こうして2人の子供と話す時が来るなんて思わなかったぜ。」
「両親はその頃から仲良かったんですか?」
「基本的にはな、でも戦闘でドーゴンが先行しすぎることが多かったから、ソニカはその度に怒ってたけどな!!ガハハハ」
「何となく想像出来ます。あはは」
「お前も書類によると魔法と剣を使うようだから、ドーゴン似なのかと思ったが、こうして話してるとソニカに似てるところも多そうだな。」
「自分じゃよく分かりませんけど、2人のいい所を真似して頑張ってます!!」
「そうか!!とまあ、世間話はこの辺で試験について少し説明するぞ。」
「お願いします。」
「頼むとするかのぉ。」
その後、ガザンからの試験の説明があった、どうやら試験はこの山を登るところから始まっているそうだが、それは近場から試験を受けに来ていて、旅に慣れておらずサバイバル能力がないものをふるいにかれるための試験で、リントからここまで辿り着けた俺と凛は、楽勝でパスできるだろうということだった。
山には魔物は出ず、たまにタンベアーなどが出没するくらいで、街道沿いの方がそう言った面では危険だという。山道も軽い整備はされているので、旅に慣れているものは直ぐに踏破できる距離で、怪我はするかもしれないが死にはしないとの事だった。
「山を五合目まで行けば門があるからそこで待ってれば、直ぐに試験官が迎えに来てくれる、それにお前たちの戦歴を聞く限り、2次試験も余裕かもな。」
「2次試験の内容ってどんな内容なんですか?」
「それは、1次試験の山道をクリアしたものにしか知らせちゃいけねぇんだ。」
「そうなんですね……。」
「まあ、変に萎縮せず楽しんでこい!!」
「わかりました!!」
「あと、ここの駐在所からじゃないと結界が関係者以外弾いちまうから受験者として登る時はここから登って行ってくれよ!!」
「それじゃあ、今から第1次試験開始だ、五合目にはほかの受験者がもう着いてるって報告も受けてるし、サクッと登ってきな!!」
「任せてください!!」
「ふむ、妾なら余裕だのぉ。」
そう言いながら、ガザンと別れ駐在所を後にした俺と凛は、早速五合目を目指して、かなりのスピードで走り始めたのだった。
「整備されてるって割には、走りにくいし、結構急だねここ。」
「うむ、子供の身体の我々からすれば、大人の感覚とちとズレておるのかも知れんのぉ。」
「だけど、油断しなければ無傷で五合目行けそうだね!!」
「そうだのぉ、お主は馬車で街道沿いに来たとは言えど、戦いながらここまで来ておるから、気を抜かなければ大丈夫だのぉ。」
「でも、この生い茂り方だと、和服の袖とか裾が邪魔じゃない?」
「少し妾も気にかけていたのだが、これは妾の魂が作り上げてるものだからのぉ、後で集中すれば直せるだろうのぉ。」
「そうだった、体ですら今は人形なんだもんね。」
「だから、妾のことは心配せず登ることに専念するんだのぉ。」
そんな会話をしていると、道の先に立て札があり、『ここを登られたし⬆』と断崖絶壁とも言える、聞いていた話とは似ても似つかない整備のされていない崖がでてきた。
「え、この崖登るのかな?」
「立て札に従うならそういうことだのぉ。」
「ロッククライミングなんて経験ないけど……。」
「普通に崖登りと言ってくれんかのぉ、妾もお主の中で学んできたとはいえ、少し間が空いてしまう時があるんでのぉ。」
「ごめんごめん。」
「まあ良い機会だし、魂を操って登ってみるとしようかのぉ。」
「と言うと?」
「お主も魂で敵を縛る術を使えるであろう、それを応用するんだのぉ。」
「まずは、普通に崖にしがみつき、そうしたら体から魂を手のように伸ばし、壁面を掴んで体を支える手を増やすと言う魂胆だのぉ、そうすれば1箇所が崩れても他で支えられるからのぉ。」
「なるほど、落ちかけても魂でしがみついて登れるってことか。」
そう言われ俺は深呼吸をして壁面にしがみつく、そして魂に集中し、背中から魂を手のように伸ばしてさらに壁面にしがみついて登って行く。
魂の操作を旅の途中に修練していた甲斐もあって、すぐに感覚をつかみスラスラと登ることが出来た。
俺と凛はそのままかなりの距離を登りもう少しで崖が終わるというところまで来た。
「あとちょっとだ……よし、これで最後!!」
「ふむ、お主も魂の操作が様になっておるな、これで崖は突破したのぉ。」
「次はなにがあるんだ……ってこれ門じゃない?」
目の前には大きな鉄格子でできた門と柵が広がっており、その奥には城のような大きな建物がそびえ立っていた。
「……お疲れ様です、1次試験突破おめでとう。」
門の前に淡々と喋りかけてくる女性が立っていた。
「2次試験まで時間がありますので、こちらへ。」
俺と凛はお互いの顔を1度見合わせてから、2次試験に少しの緊張を抱きながら、言われるがままに門の中へ入っていった。
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