第19話王都での時間

ラグザ王国の王都ラスティーアに到着した俺と凛だったが、門での身辺調査待ちに時間を取られていた。


「凛は周りから見たら普通に女の子なんだよね、人形の体だってバレないの?」


「うむ、基本的にはバレないはずであるが、深手を負ったり、魂に干渉する術や技で攻撃されたならば、ちとわからぬのぉ。」


「例えば、腕を斬り落とされるとか?」


「そうさのぉ、一時的に斬り落とされても人形の体故に血は出ぬが、切り離された腕の方は人形の見た目になってしまうんではないかのぉ。」

「だが、あくまで人形の腕だから修理修復すればまたくっつくでのぉ。」


「じゃあ、割と便利な身体なわけか?」


「そうとも言いきれん、実力の半分出せればいい方ではないかのぉ、恐らくお主の中にいた方が今では力を使いやすいくらいだのぉ。」


「俺がそれだけ腕を上げたってことか……間接的にだけど褒められたみたいで嬉しいな。」


「実際そうだとおもうがのぉ、幽世へ送る術はもう少し修練が必要だが、他はほぼ使いこなしておるでのぉ。」


「確かに……あの術はイメージがまだ完璧じゃないから、自分より弱い相手でも奈落に引きずり込めない時あるんだよね。」


「まあ、そこは自ずと慣れてくるであろう、それより、そろそろ妾たちの順番が回ってきそうだのぉ。」



凛にそう言われ気がつくと、あと1組か2組で門での調査が俺たちに回ってくるところまで来ていた。

王都と言うだけあって調査は、積荷の一つ一つを確認し、目的を矛盾なく明確に話し、出自やどこから来てどこに向かう途中なのか全てを聞かれる。


俺は素直に、ドーゴンとソニカの息子でリントの街近辺からきて、と事細かに旅の経緯を話した。


凛はと言うと、海を渡って遠い東の国から渡ってきたという事にしたようで、船上での苦労話や自国での戦争が絶えず続き親によって逃がされたと、どこから持ってきたのかとてもお涙頂戴な話を熱弁し、門番も半ば同情で問題なく通してくれることになったのだった。


荷物を再確認し、門を通る時に通行料を払い通り抜けようとした時門番とは違う風格のある男が話しかけてきた。


「ディノールとやら!!」


「はい?」


「リントの方から旅をしたと聞くが、ヴルブッドは知っておられるか?」


「少し話した程度ですが、知ってますよ。」


「奴は元気にしてましたか?」


「ええ、両親とも仲がいいみたいで、俺に対しても気さくに旅する上での注意点など色々と話してくれましたよ。」


「そうか、良かった。」


「お知り合いですか?」


「元は同じ隊に所属していたのですが、最近はめっきり連絡が来なかったので少し心配していたのですよ。」


「そうだったんですね。」


「足止めしてしまい申し訳ない、お礼と言ってはなんだが、値段は安く飯が美味い宿屋を紹介しよう、もしあてがなければここへ行くといい。」


そう言われ、俺は笑顔でお礼をいい凛と共に王都へと足を踏み入れた。

門をくぐると、街はネクリア以上の活気と気品のある通行人や馬車など栄華を誇る街並みで、建物ひとつ取っても、彫刻や細工にこだわっているとても眩しい都だった。



「お主、わざわざ高い通行料を払ってまでここに何用なのだ?」


「何用って、学院行くのに書類を王都で貰わないと受験できないからに決まってるだろ?」


「なるほどのぉ、わざわざ王都に来ないと書類ひとつ貰えんとは不便だのぉ。」


「ここには学校の事務局が出張所としてあるから、そこで登録と願書を提出させてもらうんだ。」


凛にそう説明し、俺は早速馬車を預けるため門で教えてもらった宿屋『まごころ亭』を目指して進む。門でもらったチラシによると、郷土料理や手作りのとても温まる食事が宿泊客には半額で振舞ってくれるらしく、俺が小さい頃から食べていたジビエ料理のようなソニカの料理に似た料理も食べられるのではないかと期待している。


10分ほど馬車を歩かせ、少し細い路地に入るとそこに、まごころ亭があった。俺は直ぐに馬車を停め中に入る。


「あら、いらっしゃい。」


少しふくよかなみんなのお母さんという感じのおばさんが挨拶をしてきた。


「宿泊、それとも食事だけかい?」


「2人で宿泊したいんですけど、空いてますか?」


「2部屋は空いてないんだけど、大丈夫かい?」


「問題ないと思います。」


「わかったよ、部屋はいつからでも使っていいし、何なら今すぐ食事も用意するよ?」


「あ、食事は夜にいただきます、今のうちに学院事務局へ行かないといけないので。」


「あなたたちその歳で学院うけるのかい?」


「なんじゃ、妾たちではダメというのかのぉ?」


「凛!そんなトゲのある言い方しないでも……。」


「ごめんなさいね、見た目で人を判断しちゃいけないわよねぇ。」


「いいんです、慣れっこですから!!」


「お嬢ちゃんもごめんなさいね。」


「ふむ、今回だけは許してやろうかのぉ。」


「じゃあ荷物を片したら、事務局行ってきます。」


そう言い残し、馬車からある程度の荷物を降ろし部屋に入って少し休憩をしてから、俺と凛は学院事務局へ向かった。


まごころ亭から学院事務局は程近くにあり、15分ほどで着いてしまい、俺と凛は少し緊張しながら中に入る。


「ん?おや、受験志願者ですか?」


「こんにちは、2人共に受験させて頂きたいのですが。」


「いいでしょう、まずは年齢を……。」


その後も、長身長髪のメガネの男性が質問することに答えると、その男性が素早い手際で書類を作り上げていく。

質問の内容としては、年齢、得意の戦闘スタイル、使用する武器や魔法、精霊術などで、学科の試験もあるが、重視されるのは実地試験だと言われ、願書提出は完了した。


「では、これにて書類は責任を持って学院に届けさせていただきます。お2人は1ヶ月中に北の山間にある王立学院に到着しておられるように。」


「承知、問題なく到着できるのぉ。」


「分かりました、ありがとうございました。」


俺と凛はそう言ったあと、学院事務局を後にし、まごころ亭の中で旅の疲れを癒すこととなった。



「とりあえず、あとは学院に向かって試験を受けるだけだね、どんな試験なんだろう、気になるね。」


「実力重視と言うからには、受験者同士の戦闘か山間という地形を利用したサバイバル、はたまたどちらもという可能性もあるかのぉ。」


「対人で相手を死にいたらしめないで倒すような死霊術使えるの?」


「ふむ、お主と現在の妾が使えて1番有効なのは、縛り上げるあの術しかあるまいな。」


「そこから倒すのはどうするの?」


「それはどうとでもできるであろう、剣術で斬るもよし、殴るもよし、とりあえず降参させるか気絶でもさせれば良いのだからのぉ。」


「そうか、あくまで死霊術は、補助にすればいいって話しか!!」


「お主は元々魔法剣士に戦闘を習っておるのだから、死霊術がなくてもあまり問題ないのではないか?」


「そうだね、お父さんから習った剣術と魔法でどうとでも出来るかもしれないね。」


「妾も死霊術の扱いには慣れておるから心配無用だのぉ。」



試験について話していると、部屋の戸がノックされた。宿屋の女将さんがどうやら来たようだ。


「あなたたち、いつまで部屋にこもってるんだい、今日は珍しい食材入ったから冷めないうちに食べにおいでね。」


そう言われ、俺と凛は部屋から出て1階の食堂へと足を運び、女将さんに案内されるまま席に着いた。


「じゃあ、料理持ってくるね、今日はベラウサが手に入ったからシチューで出してあげるから楽しみにしててね。」


「ベラウサ!?ありがとうございます!!」


「ベラウサとは、お主が大樹に冒険した時に食していたあれのことかのぉ?」


「うん、そうだと思うよ!!」


「ほほう、それは楽しみであるのぉ。」


2人はワクワクを隠しきれないまま、運ばれてくる食事を眺める、まずは、自家栽培の野菜のサラダ、次にベラウサのシチュー、メイン料理で直営農家から仕入れた、日本で言う黒毛和牛のような丁寧に育てられたというブラックキャトルのステーキだった。


珍しく凛が目をキラキラさせて料理と俺を交互に眺めている。


「そんなに待ちきれないならすぐ食べよう。」


「いいのか!?では、いただきます!!」


「いただきます。」


凛はすかさずカットされたステーキを頬張る。


「ん〜〜!!これは美味であるのぉ〜!!」


こんなに表情豊かに話す凛は初めてである、次にシチューに手を伸ばし、スプーンで1口。


「なんじゃこれは!!頬が美味しすぎて溶け落ちそうではないか!!」


「ん、お主食べないなら妾がいただいてしまうぞ?」


「いやいや、食べるよ!!でも、凛がそんな食に目が無いなんて思わなくてさ。」


「当たり前であろう、お主の生きていた時代と妾の時代は違うし、最近まで食事をしておらんかったからのぉ。」


「そういう事か……大変な時代からこっちに来てるのか。」


「今はそんなことはいい、食べようでは無いかのぉ。」


「そうだね!!」


そうして、俺と凛は今までにない盛り上がりを見せつつ食事を済ませるのだった。

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