第18話凛復活

宿屋で今後の進路を確認し数日が経ち、俺は再び万事屋に訪れていた。


本日は、凛待望の人形が整備を完了し納品される日なのだ。人形は10~14歳くらいの子供くらいの大きさで、凛の身長にはちょうどよく恐らく馴染むのも早いだろう。


「いやはや、お待ちしておりましたディノール様。」


「店主さんこんにちは、人形は準備出来てますか?」


「もちろんでございます、はい。」


「良かった、そしたら確認した後に表の荷馬車に積んで貰えると助かります。」


「おやすい御用です、そういえば剣はもう使われましたか?」


「いや、魔法でこの間は戦ったので、まだですよ。」


「そうでしたか、あの剣はちと特別製で魔素や精霊術との相性が大変よろしいかと存じます。」


「そんなすごい剣だったんですか!?」


「実を言うと、ドーゴンさんやソニアさんへのお礼のつもりで私が所有していたのですが、お2人がネクリアヘ来ることが、あの時からなかったものですから、息子さんへと思いまして。」


「俺はまだ、何もしてないのに少し申し訳ない気持ちですよ……。」


「いえいえ、こうして高価な人形を買っていただいていますし、お気になさらず。」


店主の説明によると、どうやらこの剣はエネルギーの伝導率が高く、エンチャント系魔法や精霊の加護を付与する時に無駄なくスムーズ且つ、高純度で付与ができるらしい。

素の切れ味は、名剣と呼べるほどではないものの、ドーゴンに戦闘を習った俺からすればとても重宝しそうな逸品だったのだ。


その後、人形に不備がないかを店主と確認し、積み込みを完了した俺は、軽く挨拶をして旅の再開をすることにした。


「では、店主さんお世話になりました。」


「ご両親によろしくお伝えください!!道中もどうかご安全に。」


「ありがとう、では!!」


そうしてネクリアを後にした俺は、再び街道に戻り王立学院に向けて歩みを進める。


順調に街道を進んでいると、しびれを切らしたかのように、凛が話しかけてきた。


(おいお主、わざとではあるまいな?)


(おお、凛?なにがどうしたの?)


(どうしたではないのぉ、折角人形が手に入ったというのに、妾のことを忘れて旅を再開しよったではないか。)


(あ、大事すぎることを忘れてたよ……ごめん。)


(お主はそうやって抜けておるから、今後が思いいやられるのぉ。)


(ごめんて、もう少ししたら馬車止めるからちょっと待ってて。)


目ぼしい木陰を見つけ、馬車を停めた俺は凛にどうやって魂を人形に移すのか聞いていた。


(そうさのぉ、まずはお主お得意のソウルパーセプションとやらを展開するんだのぉ。)


(凛も使えるのに、技名そんなに強調しなくてもいいんじゃない……?)


(いいからやってくれんかのぉ?)


(はい、分かりました……。)


「ソウルパーセプション」


(よし、そうしたら、人形を地面に寝かせて欲しいんだがのぉ。)


その後も、凛の指示する通りにソウルパーセプションの範囲に入るように人形を寝かせ、人形に集中する。

人形に手と魂で触れながら、次は凛の魂に集中し、俺の魂を同調させるイメージをした。

そうすると、凛の魂が形を変え、俺の魂を伝って人形にゆっくりとだが着実にと流れ込んでいくのが見えた。


そして、数分後凛の魂が完全に人形へと移ったのだった。

どうやら、俺と凛には前世の死の間際にできた繋がりがあるため、俺の体から完全に抜け依代に移るには、俺の協力が不可欠だったようだ。

それに加え、依代に移る際の魂の同調により、少し離れていても今までのように、頭の中で会話ができるようになるようだ。恐らく、繋がりを保ったままの分離ということだろう。


そして、凛がのりうつった人形は、少し光りながらみるみるうちに、髪がおかっぱ頭になり、表面は人肌と着物のような見た目に変貌し、ゆっくりと目を開けた。


「ふむ、なかなか良い依代だのぉ。」


「凛……なのか?」


「そうだのぉ、どこからどう見ても妾だのぉ。」


「おお!!おめでとう、やっと自由に動かせる体を手に入れたんだね!!」


「お主の協力あってだ、感謝するでの。」


「いいって、凛には助けられたり死霊術教わったりしてるから、そのお礼だと思ってよ!!」


「お主がそう言うならそうさせてもらうかのぉ。あと、ソウルパーセプションは解いて大丈夫だの。」


「ああ、わかった。」


感動の再会のような展開に喜んでいると、凛が突然ソウルパーセプションを展開した。

俺も真似て展開すると、4体の魔物が気配や喋り声につられて近づいできていたようだ。


「気がついたかの?左に2体、後ろに2体ゴブリンが来ているようだのぉ。」


「お主、前回の戦いで魂で敵を縛るのを忘れておったであろう、もう一度見せてやるから、しっかりイメージできるように目に焼きつけるんだのぉ。」


凛がそう言うと、まだ視界にも入っていないゴブリンの魂の動きがピタリと全部止まった。


「もしかして、もう縛ったの?」


「見に行ってみるかのぉ。」


そうして、1番近くのゴブリンの元へ行くと、凛の魂の影のような触手にしっかりと縛り付けられ、ガウガウと威嚇したゴブリンと、何が起きたのか分からないような雰囲気のゴブリンがいた。


「お主は、この間は魂の形を変えて攻撃するところまではできておったが、持続させたりするのはまだできないようだからのぉ、慣れればこのように雑魚はいくらでも縛れるというわけだのぉ。」


「すごいな、毎日俺も修練しなくちゃいけないな!!」


「では、とどめを刺すとするかのぉ。」


そういうと、ダゴ村の時のように縛っていた魂の先端がオオカミの頭のような形になり、ガブリと噛みつき、ゴブリンは絶命した。

他の2体も同時に絶命したようで、ソウルパーセプションから魔物の反応が無くなった。


その後、馬車に戻った俺たちは、凛の体の最終確認をした後に、2人で馬車に乗り一人旅ではなく2人旅を再開したのだった。



「ネクリアを出てから間もないけど、この後寄った方がいいところとかあるの?」


「そうさのぉ、妾は特に用がある街などはないからのぉ、好きにすると良いのではないか?」


「わかった、じゃあこのまままっすぐ王立学院になるべく向かっちゃおうか。」


俺と凛は、2人で王立学院の試験を受けるために先を急ぐことを決め、馬車を走らせる。

道中では、死霊術のイメージ修練や実際に術を展開しながらの旅となり、集中力や精神力が削られ、急ぐと言っても休憩の多い旅路となっていた。


旅の途中は魔物に襲われたり、動物を狩るなどをする時に、積極的に死霊術を使いながら進み、その都度凛にアドバイスなどを貰っていた。

その甲斐もあって、1ヶ月が経過した頃には、凛に見せてもらった死霊術は、全て戦闘中に無駄な動作なく直ちに展開できるようになり、ゴブリンやゴブリンキッズなどが複数出没しても、一撃で難なく倒せるほどに俺は成長していたのだった。


「ふむ、なかなか良い動きになったのぉ。」


「本当!?凛の教えが上手いからだよ!!」


「ふふ、嬉しいことを言いよるのぉ、だが、まだ死霊術としては序の口であるからの、これで極めたと思っておったら大間違えだからの。」


「序の口か……ちなみにあとはどんな術とか技があるの?」


「口で説明するのはなかなか難しいが、お主の言うソウルデヴァウアで倒した敵の魂を召喚し、魔物の死体などに憑依させて使役したりもできるかのぉ。」


「うぇ、なんかグロいなそれ……。」


「だが、多勢に無勢の時はなかなか役に立つ術だから、覚えて損はないと思うぞ。」


「そっか、それはもう少し先でいいかな……。」


「でも、奈落に引きずり込んだ敵は呼び出せないの?幽世に行くとか言ってた気がするけど。」


「ふむ、あの術は幽世に強制的に肉体ごと送り込むやり方でのぉ、雑魚には効果覿面だが、強者にはあまり有効ではないし、そもそも幽世は広すぎて、我々では干渉しきれんからのぉ。」


「そういう事か……いい考えと思ったんだけどダメか。」


「いずれ、お主も召喚を必要とする時が来ると思うから、覚悟を決めたら言うんだのぉ。」


「了解、とりあえず今は目的地に行くのが先ってのと、ほかの術の出来を高めないとね。」


「ふむ、それも一理あるのぉ。」




それから数日が経った頃、俺と凛は王立学院に行く前に寄らなくてはならない、王都に到着していた。

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