第16.5話アンデッドシープ討伐依頼
ネクリアの宿屋で1泊した俺は、アンデッドシープの討伐依頼に参加するため街の中心地から少し西にある屋外広場に朝一番で向かっていた。
どうやら今日、広場で討伐依頼に関する説明会のようなものと勧誘も合わせて行われるらしい。
(凛起きてる?)
(なにかのぉ。)
(アンデッドシープに対抗するにはどういう戦術がいいと思う?俺は剣術は今回使えないと思ってるんだけど。)
(そうさのぉ、剣で切ったならば恐らくは体液を浴びて相打ちとなるであろうしのぉ。)
(死霊術が1番無難だのぉ、もし周りに見られても闇魔法と言い張れば問題あるまい。)
(だけど俺まだ死霊術何も使えないよ?)
(ぶっつけ本番になるが、ダゴ村で見せた魂を縛って喰らうあれを練習がてら放って、討伐すればいいんではないかのぉ。)
(まずは、索敵用に魂の形を薄く液体のように引き伸ばして広げるイメージを討伐依頼の説明を聞いてる間ずっと続けてみるんだのぉ。)
(薄く、液体のように広げるか……こういうイメージかな?)
俺は凛に言われた通り、魂の形を薄くし、液体のように辺りに塗り広げるイメージをした。
形はまだ制御しきれていないが、なんと魂を液体のように広げることが出来てしまった。
(お主、魔法でイメージ修練ばかりしていたと言うだけはあるのぉ、これなら辛うじて実戦で使えそうだのぉ。)
(え、これできちゃってる?やった〜!!)
俺は凛に珍しく褒められた気がして浮かれてしまった。そうすると魂は、みるみると球体に戻ってしまった。
(はぁ、まだまだだのぉ。)
(うぅ、集中切らしちゃったか……。)
(そうさのぉ、魂の形を操る時は1番集中力が肝になるからのぉ。)
(そうだよね、最初は球体の魂で波を抑えるのもかなり集中力が必要だったし、これも感覚を染み込ませるまで苦労しそうだね。)
(だが、見込みはあるからのぉ、そう時間はかからんかもしれんな。)
(そっかぁ〜!!頑張ろう!!)
そうやり取りをしているうちに、西の広場に到着した。広場にはいかにもな風貌をした屈強な男達やどこぞのボンボンなのか高級装備一式をまとい高笑いしている者、冷ややかな目でそれを見る女性など様々な面々が集まっていた。
広場はステージを囲んで半円状に席が設けられているような形になっており、主催者のような顔ぶれがちょうどステージに上がっていき、なにかを耳打ちで話していた。
(お主、魂をこの広場全域に引き伸ばすんだのぉ。)
(やってみる!!)
俺は初心に帰り、大きく深呼吸をして心を落ち着かせる、そして魂をはっきりと認識し、液体のように形を変え広場全体に塗り広げるイメージを先程より強くした。
やはり、集中をするとイメージ通り形を変え、塗り広げるところまでは問題なくできるようだった。
(よし、そのままその引き伸ばした魂に触れているもの達に意識を向けるのだ。)
俺は難しい事を言ってくれるものだなと思いながらも、塗り広げた魂に触れている参加者や主催者であろう人たちに意識を向けたところあることに気がついた。
(あ、これがみんなの魂?)
(おお、お主やはり死霊術の才能があるやもしれんのぉ、もう魂を認識したとはのぉ。)
(でもさ、魂の大きさ?というか光り方が全然バラバラだよ?)
(うむ、それはある程度実力が測れている証拠だのぉ、光がやたら強いものは見たまんま強者で、淡い光などのものは捨ておいて問題ない弱き者だのぉ。)
(なるほど、これはおもしろいな!!)
(集中が乱れかけとるぞ、ここにいる全員の中で1番強いのは誰かわかるかのぉ?)
(そう言われると、凛じゃない?)
そう、凛の魂は別格の光り方をしていて、赤黒い魂なのに、眩しいと感じるほどだった。
(妾はそれなりに強いからのぉ、だが、妾以外ではどうだのぉ?)
(んー、あのステージにいる人は綺麗な光り方をしてる……あ、あの女の子も参加者なのか分からないけどかなり大きい青の光だよ!!)
(お主、まさか色まで見えておるのか?)
(うん、これってすごいことなの?)
(妾は光の強弱だけ見てる感覚だのぉ、その色は妾やお主にもあるのか?)
(うん、凛が赤黒い強い光、俺のは紫っぽい感じだよ!!)
(なるほどのぉ、根拠はないが、もしかしたら秘めた才能や得意分野のようなものが色となって見えているのかもしれんのぉ。)
(それよりお主、自分を勘定に入れておらんであろう。)
(え……?あ!!確かに、凛の次に光が強いの俺かも!!)
どうやら、現時点で俺は、ここにいるメンバーよりは単純な戦闘力は強いようだ。
恐らくは死霊術というより、剣術や魔法をドーゴンに教えてもらって毎日修練していた甲斐あってのことだろう。
これで、死霊術まで使いこなせたら俺はもしかしたら凄まじい戦闘能力を手にしてしまうのかもしれないと感じた。
(そうだろうのぉ、お主は不器用なところもあるとはいえ、その歳にしてドーゴンに教えられた部分の剣術は体得しておるし、魔法の威力もすごいと聞いておるからの、それなりに強くて当たり前だのぉ。)
(そうだったのか、なんか自信つくなこれ!!)
(というか凛、魂を知覚してる人間がいたら不味くない?そろそろ隠れてた方が……。)
(そうだったのぉ、人前でお主と対話しているのはちとまずいかのぉ。)
そういうと、凛の魂は俺の魂の影に隠れてしまった。そんなことも出来るのかと感心していると、ステージ上の人が話し出した。
「えぇ、みんなよく集まってくれた、俺は冒険者ギルド所属の冒険者ダリルだ、そしてこちらが今回ギルドに討伐を依頼してくれた、アンデッドシープが住み着いた林の管理者シバイさんだ。」
「これから現時点で確認できている状況と注意点を説明していく、その前に皆のやる気を高めるためこれは話しておかないとな。」
「今回のアンデッドシープ討伐貢献者は、ギルドから公式な御礼として、お金とは別に、ギルド登録の試験を免除し冒険者登録する資格をさずけることとする!!」
おぉ!!という歓声と共に広場のみんなの顔つきが変わった。
その後の説明では、現在冒険者ギルド所属のものがアンデッドシープ討伐依頼を受けて、先行していたものの、人手不足と相まって負傷者が出すぎた手前、それ以外の有志を募ったそうだ。
そして、アンデッドシープは未だ、4体が無傷の状態で林に住み着き群れを成して動き回ってるという現状報告と体液を浴びないために、遠距離からの魔法や精霊術を駆使して倒すのを勧めるという注意喚起が行われた。
「では、参加を希望するものは、こちらで名前を書いてから各々討伐に向かってくれ、討伐後は証明のため角を持って帰ってくるようにでは行動開始してくれ。」
掛け声とともに我先にと集う屈強な男達と女性達、傍から眺めて本当に討伐依頼を受けるか二の足を踏んでいるものもいた。
「君は依頼受けないの?」
魂に集中していて、近づいできていたのはわかっていた魂の光が大きく青かった女の子が、いきなり話しかけてきた。
「受けるよ、でも人が多いから待ってる、君こそ受けないの強そうなのに?」
「強そう?初めて言われたわ、こんな小柄な女の子が強そうね。ふふふ」
「失礼だったかな?」
「いいえ、でも君変よ、君の周りだけやたら寒いわ。」
「寒いの?でも、闇魔法をちょっと使ってるんだ。」
「闇魔法なんて珍しいわね、私はセリーア、よろしくね。」
「俺はディノールだよ、よろしく。」
「ちなみに君っていくつなの?」
「俺はまだ5歳なんだ……。」
「びっくりだわ!!私より年下で冒険してるなんて、ちなみに私は9歳だから少しお姉さんよ。」
「お姉さんてセリーアもまだ子供じゃないか!!ハハハ」
「グヌヌ、5歳の子が1人は危ないから私と討伐行きましょう?」
「誘いは嬉しいけど、試したいことがあるから今回は1人で行かせてもらうよ。」
「そうなのね、なら仕方ないね。じゃあどちらが多く狩れるか勝負ってことで私は先に行くよ。」
そう言いながらセリーアは受付の方へと走っていった。
「負けるつもりは無いよ!!」
「俺もそろそろ行くか〜。」
そうして俺も受付を済ませて、 北の林へと急ぎ向かうのであった。
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