第16話ネクリア到着!!

ゼベット村で一夜を明かした俺は、村をあとにしてまた街道沿いにネクリアへ向けて出発していた。


食料も暫くは安泰で安心しきっていた俺に凛が話しかけてきた。


(お主、ひとついいかのぉ?)


(凛どうしたの?)


(お主はダゴ村以降も、戦闘では剣術しか使わんがなにか考えがあってのことかと、気になっていてのぉ。)


(あぁ、特に深い意味はないよ、実際に今1番俺の中で得意なのが剣術だから、咄嗟に剣術で戦っちゃうんだ。)


(なるほどのぉ、だがそれでいいのかのぉ?)


(今の所魔法も凛が使ってる魂に干渉する術?も使わないで倒せてるし、不便はないけど……。)


(だがのぉ、王立学院には剣術が得意、魔法が得意な奴らがゴロゴロ現れると思うが、そのままで受かる自信はあるのかと聞いておるのだよ。)


(確かに、今は比較的下級の魔物相手だけど知能の高い魔物や対人だと剣術だけじゃキツイのかな?)


(妾はこの先、きつくなると思うがのぉ、それにあの肉屋の情報によれば、アンデッドシープがこの先に出没しているというしのぉ。)


(体液を浴びちゃいけないって言うあの話か……。)


(そこでなのだがの、妾の見せてやった死霊術をお主も特訓するというのはどうだ?)


(あれは死霊術って言うんだ!!俺も使いこなせるようにはなりたいな。)


(そうであろう、死霊術を極めていけば幽世から霊魂を呼び覚ましたり、強い魔物を幽世へ封じたり色々と戦闘の幅が広がると思うのぉ。)


(なんだそれ反則みたいに強いじゃん!!)


(とはいえ、強い力を扱うにはお主も、精神面や肉体を鍛えることはもちろん、魂の扱いを上手くせねばならんがのぉ。)


(でも、凛はめちゃくちゃ鍛えた体って訳じゃないだろうし、人形や俺の体でも術は使いこなせてたよね?)


(割と鋭いのぉ、妾の場合はお主と前提条件が違うのもあるが、魂の扱いを相当研究して極めたからの、体にそこまでの負担はかからないんだのぉ。)


(結構複雑そうだけど、俺もまずは魂の扱いを上手くしていけばいいの?)


(それが出来れば1番だのぉ。)


(具体的にどうすればいいのか教えて。)


(そうさのぉ、ダゴ村で自分と妾の魂を見て、心を落ち着かせて同調させたのは覚えておるかのぉ?)


(うん、それはちゃんと覚えてる。)


(まずは、如何なる時でも魂の状態を自覚し、一定の波動で揺らぎを保つことから始めるんだのぉ。)


(常に心を一定に落ち着かせるってこと?)


(イメージとしてはそうだの、魂の波動に気をつけるのも忘れずに、その感覚を体に染み込ませるんだのぉ。)


(なんか、凛が横文字使うところ初めてかも、少し違和感あるね。あはは)


(うるさいのぉ、お主に合わせて多少学んだ言葉を試してるだけだわい。)


(そっかそっか、分かりやすく話そうとしてくれたのか、ありがとう!!)


(ふん、礼はいいからさっさと魂の感覚に集中せい。)


(もう始めるの?)


(当たり前だのぉ、移動中や戦闘中はもちろん食事や睡眠をとってる時でさえも集中して一定に保つのが第一歩だのぉ。)


(そうなんだ……まずは、頑張ってみるよ。)


(それが賢明だのぉ。)


そうして、この時から俺は凛に言われた通りに、魂の感覚に集中しながら馬車を走らせることになった。


戦闘中では、魂に集中できなくて途切れることや、逆に魂に集中しすぎて軽傷を負わされることもあったが、魂の同調のための集中をしているため、同調には時間がかからず魂の優先順位を切り替えるのが早くできていたおかげで、凛に助けられる形で重傷や致命傷は避けられていた。


そうして、魂に集中すること3週間程が過ぎた頃、俺に変化が起きていた。それは、無意識での魂の同調とゆらぎの制御ができるようになっていたのだ。


(ふむふむ、お主不器用じゃが努力はできるようだのぉ。)


(そりゃ、命守ったり今後の人生のためだし、なによりこうやって目に見えた成果は嬉しいからね!!)


(そうさのぉ、誰しも報われないと辛くなるものよ。)


(凛て見た目すごい若いのに達観してるからたまにおばあちゃんみたいな時あるよね。)


(お主は褒めるとすぐつけ上がりよって……正直、妾は12で命を絶ってからは年は数えとらんでの、年齢はわからないんだのぉ。)


(あ、なんか嫌なこと思い出させちゃったね、ごめん。)


(ふん、お主に心配されるほど落ちぶれておらんの。)


(あ〜人が心配したのにその言い方はないだろぉ。)


(お主が撒いた種じゃ、お主で拾うのは当たり前だのぉ。)


俺と凛はいつの間にか、冗談をかなり言い合える仲になっており、旅路もなかなか退屈せず楽しい旅となっている。

そうこうしていると、ネクリアへの案内の看板が出てきて、あと数キロでネクリアに到着することがわかった。



(凛、もうすぐネクリアみたいだけど、人形のパーツって何を買えばいいの?)


(そうであった、まだ伝えておらんかったのぉ、人形の素材としては加工しやすい、しなやかな木材と核となる純度の高い鉱石が良いかのぉ。)


(なんだか、馬鹿にならない値段しそうな注文だね……。)


(ネクリアの中心地から少し外れた東の通りに万事屋があったはずだの、そこなら情報も品物も色々集まるから寄ってみるといいかもしれんのぉ。)


(万事屋か剣も魂に集中しすぎて刃こぼれさせちゃったし、いいのあるかな?)


(剣のことなら中心地から北に数件行った、ゼルパの店がいい武器をあつかっておるはずだのぉ。)


(さすが物知りだね、助かるよ。)


(さすがに妾はネクリアでは話に応じることは出来ぬのでのぉ、この辺りで引っ込むとするかのぉ。)


(わかった、色々とありがとう。)


こうして俺は晴れてラグザ王国第2の大都市ネクリアに足を踏み入れることになった。

ネクリアは大きな街だけあって門の前で荷物検査や通行証が無いものは税をその場で納める必要があった。


「通行税に銀貨1枚か……割と高いなぁ。」


そうボヤきながら俺は、凛に教えてもらった万事屋へと歩みを進める。

街中では祭りでもしてるのかと言うほどの活気に溢れ、行き交う人々は皆どこか楽しげで、とても明るい雰囲気の街という印象だ。


大通りを逸れた少し小さな路地には、大通りとはまた少し違うディープな雰囲気を醸し出す店や、大通りからはよく見えないが少しスラム化してる路地もあるようだ。


見知らぬ街で変なことに巻き込まれたくないので、人通りの多い大きな路地をそのまま進むと中心地につき、俺は東へ進み万事屋へと辿りついた。


俺は馬車を止めて、戸を叩きながら万事屋へ入った。


「これはこれはいらっしゃい、薄汚い坊ちゃん」


少々小太りで、ニタっとした笑顔の店主がこちらを見てそう言う。


「ああ、これはすみません、旅をしていて汚れも落とさぬまま来てしまいました。」


「それそれは、大変でしょうから私めは一向に構いませんがね、他のお客様がどう思うかと少し考えてしまっただけですよ。」


言い回しが癪に障るやつだ。


「で、今日は何をお探しで?当店ではありとあらゆる貴重な品や子供には手の届かない品物ばかり取り揃えておりますよぉ〜。」


少しこの店主を黙らせるために情報を集めてみることにする。


「人形なんてこのお店には置いてないですよね?」


「あははは、人形遊びがしたいのですか?それなら向かいの玩具屋にでも聞いてきましょうか?」


この店主は俺を客だと思っていないようだ、薄汚い少年という見た目だけで俺がここの品物を何も買えないと思い込んでいるようだ。


「坊ちゃん、正直に言うと子供が来ておいそれと買える品物なんて、ここには置いてないんだ冷やかしならそろそろ帰ってくれ。」


「冷やかしじゃありませんよ、知人にこの店を紹介されて、等身大の傀儡人形かそれを作る材木がここなら手に入ると聞いたのですけどね。どうやら取り扱っていないようで。」


俺は金貨をチラつかせながらそういうと、店主の顔色が変わっていく。


「ぼ、坊ちゃん金貨を誰に貰ったんです?」


「貰ったというか、旅の資金に親が金貨2枚を持たせてくれただけですよ。」


「な、なるほど、でしたらこちらへどうぞ。」


何かいい方向に勘違いが進んだのか、店主は冷や汗をかきながら店の奥に案内してくれた。

そこには、いかにも呪われていそうな武具や防具から見たこともないインテリアのような物まで色々と揃っていた。


「こ、こ、こちらの傀儡人形なんていかがですか?有名な造形師の逸品で少し作られてから時間は経っていますが名品ですよ?」


「それより一回り小さいのはないですか?」


「となると、こちらでしょうか?こちらは名品とは言えませんが、先日仕入れたばかりで魔素を流すための鉱石もしっかり取り付けられていますよ!!」


たどたどしい口調で店主は俺に説明する。


「お〜、こういうの探してたんですよ!!」


「では、こちらですとちょうど金貨1枚でどうでしょう?」


この期に及んでこの店主は俺の足元を見ているようだ、ここは少しふっかけてみるとしよう。


「んー、でもなぁ、父上や母上が買ってくれたのはもっと質感も良くて細部の装飾もしてある逸品で同じ値段だったけどなぁ〜。」


やや上目遣い気味に純粋な貴族の少年を装いカマをかけてみると店主は小さく舌打ちをしながら値下げ交渉に応じてきた。


「名家の出身の方とお見受けしましたので、ここは、銀貨25枚でどうでしょうか?」


どうやらこの店主は、少なくとも2倍の値段をふっかけてきたようだ。


「じゃあ、それでお願いします。」


「お、お買い上げ、あ、ありがとうございます。」


「坊ちゃん、ひとつ聞いても?」


「ご両親の名前はなんて言うんです?」


「ソニカとドーゴンですよ!!」


「ソニカさんにドーゴンさん!?」


「はい!!」


「あの方々にお子さんがいたなんて……。」


どうやら貴族の息子と言うより衝撃を受けたようだったので、少し掘り下げてみることにした。


「知り合いなんですか?」


「ええ、命の恩人ですよ……昔ここに店を構えるために王都から数台の馬車で向かっていた際に、魔物に襲われてもう少しで死ぬというところで、2人が助けに来てくれたんです。」


「じゃあ、無事店を構えて値段を子供相手にふっかけるくらいには元気だって伝えておきますね!!ハハハ」


「ご勘弁を〜!!」


「お詫びと言ってはなんですが、人形代くらいの報酬のお仕事情報などを差し上げますから!!」


「仕事?」


「あのアンデッドシープ狩りです、早い者勝ちで確認された五体を倒したものに金貨1枚というお話でしたよ。」


「金貨1枚の報酬!?凄いですね、それだけ危険てことでしょうけど。」


「はい、街から北に数キロ行った林に5体の群れが住み着いたそうです。」


「あと、狩りに行くならこれも受け取ってください。」


「これは剣ですよね?」


「刃こぼれしているようだったので……。」


「ありがとう店主さん!!」


「じゃあ明日狩りに行ってみるよ、それと良い店主に会ったって両親に伝えとくね!!」


「4日後に人形は取りに来てください、綺麗にしときますんで。」


「わかった、じゃあまた4日後!!」


そう言い俺は店を出て、宿屋を探し休憩をとり明日に向けて体を休めるのだった。




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