第15話ゼベット村にて

ダゴ村を離れ街道沿いに魔物をサクサクと倒しながら進むこと半月が経った頃、俺はある問題に直面していた。

それは、食料が干し肉でさえも底をつきかけているということだ。

初めての旅ということもあり、食糧のペース配分を間違えてしまったのかもしれないが、ドーゴンとソニカが荷物にまとめてくれた干し肉などの保存食は残すところあと1日分、これまで旅を経験していないがために、狩りをして食料を確保するところまで頭が回っていなかったようだ。


(凛、ちょっといいか?)


(なにかのぉ?)


(食料が底をつきそうなんだけど、買い足したり狩りをするのにいい場所、知らないかなって思ってさ。)


(なるほどのぉ、お主はなかなか間抜けなようだがドーゴンとソニカは、恐らくそれも見越しておったのだろうの。)


(しょうがないだろ、初めての旅なんだから……それに両親が見越してたってどういうこと?)


(お主の両親は元冒険者、つまり手頃な買い物ができる街や村まで馬でどのくらいかかるか、おおよその見立てをして食料を持たせたのだろうの。)


(てことは、近くに街があるって事?)


(お主、地図持っておるのに活用せんとは先が思いやられるわい……。)


(あ……でも、ここまでは無事にこられてるからいいでしょ。)


(えっと、地図によると、今はリントの街からこう来てるはずで、ダゴ村は確かこの辺りにあったから……このゼベットって街か?)


(正しくはゼベット村だのぉ、街という程の規模はないが、ネクリアとリントの中継地点として結構栄えておるはずだのぉ。)


(でも、リントまでにダゴ村もあるのになんでネクリアからはゼベット村だけ中継地点で栄えるんだ?)


(そうさのぉ、ダゴ村は街道から割と逸れておるし、西の森は小さいがその他の方角は、北が急坂の丘で、南が大きな木に囲まれた深い森なのは覚えておろう?)


(ああ、そういう事か、他を切り開くのが難しいから街道のある東側だけ道になってて、他は手付かずなのか。)


(そうだのぉ、その関係で大きな荷馬車などはあまり近くまで入れずじまいで素通りしてしまうのが実情であるし、リントまでもあそこからは、そう距離がないからのぉ。)


お礼にくれた食材も、もしかしたらかなり貴重なものだったのかもしれないと思うと、感謝の気持ちが溢れてくるのだった。


(俺が気が付かないだけで色々な理由があったのか……。)


(とりあえず、俺たちが次寄るべきはゼベット村ってことだね。)


(そういうことだのぉ、ところでお主……。)


(ん、どうしたの?)


(路銀はしっかりとあるんであろうの?)


(確かここに……あった!!)


(ほほう、これなら人形などの素材調達も問題なさそうだのぉ。)


(そうなんだ、俺いまいち貨幣価値がわかってなくて……。)


(仕方あるまい、教えてやるかのぉ。)


そう言いながら凛は渋々だが、貨幣の価値をかなりしっかり教えてくれた。


凛が言うにはこの世界では、『大金貨』『金貨』『銀貨』『銅貨』それとは別格の『白金貨』の5つがあるという。

主に使うのは『銀貨と銅貨』で高級家具などを買う時は『大金貨』を使い、豪邸や巨大な土地、最先端の船など中々価値が付け難いものを買うのに『白金貨』がよく使われ取引される様だ。

それぞれの関係としては『銅貨100枚=銀貨1枚』『銀貨50枚=金貨1枚』『金貨20枚=大金貨1枚』『白金貨=時価』という関係らしい。

俺のいた現代の日本円に直すと、『銅貨=10円』で単純計算『大金貨=1,000,000円』という価値になるそうだ。

正直、諭吉さん100人を大金貨1枚として持ち歩くのはスマートだが無くしてしまいそうで怖いなと思う。


そんなこんなでお金の説明を受けながら馬車を進めた俺はゼベット村の目の前まで来ていた。

そこには看板があり、『タングーリー大量出没のため優先的に買われたし、値段交渉歓迎』と書いてあった。

タングーリーとは、常に長いベロを出しながら暮らす熊のような動物で、俺は食べたことないが焼いたり加工するとかなり美味いらしいので、いい時期に来たようだ。


(そういえば、いくら巾着に入ってたの?)


俺は荷馬車を預け、歩きながら凛に話しかける。


(お主、戦闘以外は他力本願が過ぎんか……お金くらい自分で管理してるもんだと思っておったぞ。)


(かなり過保護に育てられたから、そこら辺の常識が少し薄れちゃったかな……。ハハハ)


(ちなみに、金貨2枚だのぉ、そろそろ人も増える故、妾は引っ込むからのぉ。)


(わかったありがとう!!)


「ん〜と、日本円にすると10万円……え!?5歳の子に10万渡しますか、ふつぅ〜〜〜!?」


俺は、予想以上の高額な小遣いに驚いてつい、大声を上げてしまい、周りの人からかなり痛い視線を送られていた。

やはり、現在もか昔だけか分からないが両親は相当稼いでいたようだ、でなきゃ物価の安いこの世界で金貨2枚も初めての息子の旅立ちだとしても、おいそれと渡せるものでは無いだろう。


「ありがとう、お父さんお母さん!!」


小声で俺はそういい、看板に書いてあった肉屋を見つけタングーリーを売ってもらうため、戸を叩き入店する。


「へいらっしゃい!!坊主お使いか??」


「あ、いえ、1人で学院目指してるところでして、食料が尽きてしまったので買いに来ました。」


「おいおいそりゃすげ〜な!!何が欲しいんだ?いくらある?」


「お金ならかなりあるんですけど、ネクリアかその先まで困らないようにしたいんですけど。」


「ネクリアっていったらあと1ヶ月弱だな……干し肉とか燻製肉にしちまえばかなり持つけどどうする?」


「燻製できるんですか??」


「もちろんだぞ坊主、だが燻製に食いつくなんて大人みてぇだな!!ガハハ」


(まぁ、中身は大人だが……。)


「そうですか?初めて食べるかもしれないので気になってまして。」


「なるほどなぁ、ちょうど燻製したばっかりのならあるけど1口食うか?」


「いただきたいです!!」


「ほらよっ。」


店主はそう言い、1口大に加工された燻製肉を俺に手渡してきた。


「お、おいしぃ〜〜!!」


「そうだろ!?いい反応してくれるじゃねぇか坊主。」

「気に入った!!安くおまけしてやるから好きなモンいいな!!」


「ほんとですか!?じゃあ、タンベアーの干し肉と燻製肉、あと生肉は一日分だけお願いします。」


「タンベアーは干し肉と燻製肉は日持ちするからたんまり持ってきな!!」


そう言いながら、満面の笑顔の店主は袋いっぱいに2袋分の干し肉と燻製肉を詰めてくれた。


「生肉は新鮮だからサッと焼いて、干し肉は普通にそのまま噛むより、炙って食うと美味いからよかったらやってみろな。」

「そうだ坊主、ネクリア行くなら気ぃつけな、盗賊団を最近騎士団が取り逃して次の週に変死体で発見されたらしくてよ、恐らくアンデッドシープの仕業だって話だ。」


「アンデッドシープ?」


「アンデッドシープは、毒で外敵から身を守る羊型の魔物なんだけどよ、その毒を浴びると伝承にあるアンデッドそっくりの見た目に溶かされちまうんだ、だから体液に触れないように倒さないといけねぇんだが、体液を飛ばしたりもしてくるから注意しろよ!!」


「わかった、ありがとう店主さん!!厄介そうな魔物だけど頑張ってみます!!」


「おいおい、わざわざ戦いは挑むなよ?ガハハ」


「それもそうですね!!アハハ」


「じゃ、精算だけさせてもらうけど、タングーリー3ヶ月分で締めて銀貨8枚のところを5枚でどうだ?」


「結構食費ってかさむんだね……でも、情報とかなりの値引きをしてくれてるんなら、それでお願いします。」


「おう、これでも良心的な方だからよ……って金貨持ってるのかよ坊主!!」


「両親が旅の資金で持たせてくれて。」


「振る舞いといい金貨といい、良いとこの坊ちゃんなのか!?」


「いやいや、元冒険者2人の息子ですよ。」


「もしかしたらすげー冒険者なのかもな!!ガハハ」


「じゃあ、俺行きますね、お世話になりました。」


「おう、くれぐれも気ぃつけて帰りも寄ってくれよな!!」


「はいっ!!」


そんな会話をした後、俺は店を出て野菜などを少し買って荷馬車に戻ったが、辺りが暗くなってきてしまったので、ゼベット村で1泊することにしたのだった。

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