第14話ダゴ村の戦い

数分後、俺は村長のいる所まで案内された。


「おや、可愛らしいお客さんだねぇ、でもここは今とても危険なんじゃ……すまんがお引取りを。」



「ああ、村長違うんでやんす。この方はディノ坊ちゃんと言ってアースアントも倒せるくらいの腕前でして、あっしも体捌きを見ましたが素晴らしいのなんのでやして……。」


「ほほぉう、こんな幼き子がアースアントをかえ?」


「ご紹介に預かりました、ディノールと申します、アースアントやゴブリンキッズは討伐経験がありますのでEランク前後の敵はおまかせください。」


「ふむふむ、じゃがお前さんはまだ若いであろうに何故旅をしておるのだ?」


「はい、まだ5歳です。旅の目的は王立学院の入学試験を受けるため北方へ赴くところです。」


「こりゃたまげた、5歳にして学院の入学試験とな……怪我をしても我々は責任を負えんが良いのかい?」


「はい、無傷でなるべく乗り越えるつもりでいます。」


「そうは言うが、相手は恐らくゴブリン複数体とゴブリンキッズの群れじゃぞ、ひとりでやり切れるのかい?」


「王立学院の試験は熾烈を極めたものと聞き及んでいますので、いい修練だと思い討伐にあたります。」


「まあ仕方あるまい、本人がここまで言っておるし請け負いたいようじゃから頼むとしようかえ。」


「一生懸命頑張ります。」


「それにしても5歳とは思えん言葉使いじゃな、どこぞの貴族の出かい?」


「いいえ、父はドーゴンで母はソニカという元冒険者の両親を持つ平民ですよ。」


「ソニカとドーゴン……どこかで聞いたことがあるような、最近物忘れが激しくていかんわい。」


「では、依頼の情報提供といこうかえ。」

「まず、西の森にゴブリンキッズが7体確認された、そこから推測するに親玉のゴブリンはつがいで2匹いると思われる。ゴブリンキッズは早いもので1ヶ月でゴブリンに成長し、また繁殖するから即刻討伐を頼みたいのじゃ。」


「思った以上に情報があって助かります。」


「わしらも自警団を組んで偵察したが西の森のど真ん中に巣があることと、先程の事しか分からなかったのじゃ、すまんのぉ。」


「いえ、これだけ情報があれば楽にいけるかもしれません。」


「では、頼むとしよう。」


「念の為の確認ですが、撃ち漏らしで村に流れてしまったゴブリンキッズはそちらで対処していただけますか?」


「それはもちろんじゃ。」


「では、装備を整えて行ってまいります。」


「よろしく頼むぞい。」


そして俺は、剣を片手に薬草などを腰の巾着に詰め、西の森へ向かい始めるのだった。

森と言ってもあまり大きくなく、真ん中の巣へは直ぐに到達してしまった。

俺は凛に作戦を確認するために話しかける。


(凛、いるか?)


(うむ、おるぞ。)


(敵はゴブリンキッズ7体、ゴブリン2体らしい他には……外には見当たらないな、あの巣のある岩の裂け目の中はここからじゃ見えないな。)


(どれ、妾が最初から今回はやるとするかのぉ。)


(凛が倒すのはゴブリンだけじゃないの?)


(お主、敵の数を把握しきれておらんだろう。)


(ゴブリンキッズ7体とゴブリン2体じゃないの?)


(実際はもう少しおる、探知できるだけで恐らくこれはゴブリンキッズのものだが魂が9個、ゴブリンであろう魂が4個あるでのぉ。)


(そんな正確に分かるのか凛は?)


(これぐらい慣れればお主にも簡単に出来るであろうのぉ。どれ、妾と魂を入れ替えてみればすぐ分かるから変わるんだのぉ。)


(どうすればいいんだ?)


(何も考えず、お主自身の魂の波動の揺らぎを感じてみぃ、それから妾の魂同調させてほしいんだがのぉ。)


俺は、深く呼吸をする。

スーーーハァ〜〜〜、スーーーハァ〜〜〜。

そして、目を閉じるとぼんやりと赤黒く光る球と濃い紫色に光る球が見え、それがそれぞれの魂であり、紫の魂が自分だと直感でわかった。


凛の赤黒く光る魂は波が穏やかで、俺の魂の波は人が浴槽の中で暴れた後みたいなぐちゃぐちゃな波が覆っていた。


(この波をどうすればいいんだ?)


(感覚的にはそうさのぉ……穏やかな気持ちになると波がおさまり、気持ちが乱れたり集中が足りないとお主の様になってしまうんだのぉ、だから気持ちを沈め集中して妾と合わせてみるんだのぉ。)


(わかった、やってみる。)


俺はさらに深呼吸を重ね、海の波が一切ない凪を想像し気持ちを落ち着かせた。

そうすると魂の波はみるみる穏やかになり、凛の波の揺らぎとほぼ同じになった。


(よし、では主導権を移す感覚で呪文を思い浮かべるんだのぉ。)


(掛け声は?)


(魂交換じゃ!!)


(だっっっさっ!!!)


(うるさい、後でいくらでも変えることはできるんだ、そこまで言うならお主が掛け声を考えるんだのぉ…………。)


(魂で交換だから……これなんてどうかな?)


(なんじゃ、ただの横文字かのぉ。)


(安直でもこっちの方がかっこいいだろ?)


(では、やるとしようかのぉ。)



「「「ソウル エクスチェンジ」」」



そう掛け声を2人で言うと、魂の位置が反転した。


(さっきの掛け声で敵にバレてしもうたようだのぉ、まずは目の前の雑魚5匹片付けてしまうかのぉ。)


「見ておれよディノール、これが妾の力だのぉ。」


「魂を縛らせてもらうかのぉ。」


そう凛(俺)が言い放つと、俺の身体の影から触手のようなものが勢いよく飛び出し、ゴブリンキッズ5体を一気に縛り付けた。


「それでは頂くかのぉ、その魂。」


凛がそう言い終わると同時に、ゴブリンキッズを縛っていた触手のような影が、狼の頭のような形になり、ゴブリンキッズを噛みちぎった。


「ふぅ、こんなもんかのぉ、次行くぞ。」


(え!こんな瞬殺!?)


「今見せてるのはお主でも恐らくは直ぐに覚えられるものだのぉ、よーく見て感覚をおぼえるんだのぉ。」


(わかった。)


「次はあの岩の裂け目かのぉ。」


そういうと次は、影が薄く広がり始めみるみるうちに岩の裂け目へと入り込んでいき、集中していた俺にも伝わる、敵の魂の感覚があった。


「敵の数、お主もわかったかのぉ?」


(うん、小さい魂4個と比較的大きいのが4個かな?)


「ちゃんと集中出来てるようだのぉ、そのままもっと集中しておれ。」


(わかった。)


「奴らは奈落に落としてやるかのぉ。」


そう言うと辺り一帯に伸びた影から手が出てきて、生き物を全て引きずり込もうとしているのではないかという勢いで色々な物を飲み込んでいき、岩の裂け目からはけたたましい悲鳴が鳴り響いてきたと思うと、プツリと止まってしまった。


「お主、驚いとらんで、索敵してみるんだのぉ。」


(敵どころか地形そのもの変わってるよ……蟻地獄みたいになってるから!!)



「これは最初使い易い範囲攻撃なんだがのぉ、敵も味方も関係なく飲み込んでしまうのが難点なんだのぉ。」


(そりゃ単独でしか使えないじゃん……。)


「いざと言う時使ってみるが良い。」


(そうだね、じゃあそろそろ交代する?)


「そうだの、妾も久しく戦闘から離れていた故少し疲れた、あとはお主にまかせるかのぉ。」


そう言うと、掛け声もしていないのに俺に体の主導権が戻っていた。


(ねぇ、薄々感じてたけど掛け声いらないの?)


(うむ、お主は楽しそうに掛け声を考えて言い放つから言いたいものかと思っておったがのぉ。)


(お主の時代で言う厨二心をくすぐられると言うやつかのぉ?)


(はっずかしい奴じゃん……ここまで来たら最後まで掛け声考え続けてやるからいいよ!!)


(それより、早くあの村長の婆さんに報告してやってはどうなんだ?)


(あ、あぁそうだな、村に戻ろう。)



そうして、俺は村に戻り巣ごと破壊した旨をダゴ村の村長さんに伝え、無事依頼は達成となったのだった。


「いやはや、本当にひとりで討伐してしまうなんてびっくりじゃわい!!」


「そ、村長流石になにかお礼を差し上げなくてはいけないでやんすよ。」


「それもそうじゃな、ディノールや食料で良ければ好きなだけ持って行って構わんからこっちへ来なさい。」


「お礼なんて……ありがとうございます。」


「見たところ干し肉しかもっておらんじゃろうて、野菜と生肉、牛乳持って行ってスープでも飲みなされ。」


「助かります、久しぶりに暖かい食事にできそうです!!」


「もし、今後困ったことがあったらダゴ村に戻ってきんさい、総出で向かい入れる準備をしておくわい。ハッハッハ」


「あはは、短い間でしたけど皆さんの役に立てて良かったです。」


「最後にひとついいかい?」


「なんでしょう?」


「お主、どうやって魔物を倒したんじゃ?森を見に行ったが、とんでもない窪地になっておってびっくりじゃわい。」


「詳しくは言えませんが、魔法の一種ですよ。」


「ということは土系統の魔法かえ?」


(凛どうしたらいいの?)

(そのまま話を合わせて乗り切るんだのぉ。くれぐれも魂の話はするでないぞ。)


「あ、まぁ土系統ではありますね。」


「そ、村長あんま冒険者の戦術を詮索するのは失礼でやんすよ!!」


「ディノ坊ちゃんゴメンでやんす、悪気はないでやんす。」


「いえいえ、おじちゃんもありがとうございます。」


「じゃあ、俺はまだ先のある旅なので出発するとします。」


「また来ておくれ!!」

「また来るでやんす!!」


そうして見送られた俺は街道に戻り再び、ネクリアの街へ向けて着実に歩みを進めるのだった。

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