第13話ダゴ村からの救援要請
ゴブリンキッズを倒した俺は、また馬車に乗りネクリアに向け馬車を走らせていた。未だに凛は話しかけても反応してくれず、背中のことを聞こうにも聞けないモヤモヤする時間が続いているのだった。
気になり続けた俺はひとり事を呟きながら背中と痺れについて考察を始めていた。
「デイス先生が言うには、背中にできた模様は雷に打たれた人に現れるというリヒテンベルク図形で、凛が言うには模様と痺れは関係ないと……でも、2つとも同時に出現、発症してることから因果関係はなくとも、相関関係にはあるということか……?」
「そもそも全く関係なくて、偶然同時に現れた可能性も捨てきれないな……雷に打たれた経験は前世で死んだ時、痺れは即死だったろうから認識する前に絶命していて分からないと。」
「そういえば前に動画で前世の記憶を持つ子供とかって題材で調べたことあったな……確かその時、生まれつき前世の記憶を持つ少年は前世と全く同じところに傷があったとか、だったか?」
「そう考えると、可能性としては前世で雷に打たれた時の傷が、凛の名前を思い出して呼んだと同時に色々蘇った記憶との結びつきで、今の身体に傷も発現したってことなのかな?」
(お主、少し静かにしてくれんか?)
(ちょっ!!こっちから話しかけた時なんで反応してくれないんだよ!!)
(そう怒るでないわい、妾も暇じゃないんでの、というよりお主が気が付かぬのも無理ないが、妾は魂だけでお主に関わる色々な情報を集めるために方方を駆け回っておったのだのぉ。)
(俺に関わる情報って??)
(ふむ、勿論その背中と痺れについてだのぉ。)
(そうだとしても一言伝えてから離れてよ……。)
(次からは気をつけるとするかのぉ、で、聞きたいか?)
(何か分かったの?それなら聞きたい!!)
(ある程度わかったんでの、家賃代わりに教えてやるとするかのぉ。)
(魂に家賃て……まあいいやお願いするよ。)
(1つ目はそのリヒテンベルク図形とやらだが、それは妾との繋がりやその他の記憶と一緒に蘇ったとみて良さそうだのぉ、確証はないがディバインリーパーの奴めにそんな模様を残されたという記述や伝承は無かったからのぉ。)
(2つ目は痺れなんだが、逆にディバインリーパーの仕業の可能性が高いことがわかったんだのぉ。)
(さっきからディバインリーパーって言ってるけど、あいつはあの時倒せたんだろ?)
(見かけではそうだが、あやつも自らの魂は知覚しておったのか、どうにか魂だけ生き残っておる可能性が高いのぉ、その証拠にあやつの残滓が大樹の元から消えきっておらんかったのを先程確認してきたんでの。)
(残滓?それは魂が消滅しないと残り続けるものなのか?)
(残滓は、魂から漏れ出る痕跡で一定期間だが残るんだのぉ、仮に魂が消滅したらその瞬間この世界から残滓も消滅するはずであるから、どうにか生き残っておると、妾は推察しておるんだのぉ。)
(なるほどなぁ、で、痺れとの関係は?)
(そうだったのぉ、その痺れは妾の見立てでは、ディバインリーパーの呪いの影響ではないかと思ってるんだがのぉ。)
(呪い?そんなのいつの間に?)
(あやつは秩序を乱すものにマーキングをつけると言われていての、かなり昔だが妾もお主の様に戦ったことがあっての、その時使ったのがソウルピュリファイと後に名付けられたお主が使ったあの技じゃ、その時はそんな横文字の名前ではなかったがのぉ。)
(で、その時妾も呪いのようなものを付与されかけたのだが、戦いの最中張った防御結界が功を奏して、呪いは逃れたようでの、もしかしたらと思っておるのだ。)
(じゃあ、ディバインリーパーを諦めさせるか倒しきらないとこの微妙な痺れは取れない可能性が高いってことなのか?)
(そうとも限らんのぉ、精霊術が頼れれば話は早いのだが、お主も妾も元は死人故に精霊が寄り付かん、というより幽世の力が精霊を弾き返してしまうんでの、他の解呪方法を探さねばならんかのぉ。)
(それって学院に入れればわかったりするのかな?)
(あそこは妾も結界に弾かれて入ったことがないんでの、未知な部分が多いが知識の宝庫とされてるから何かしらの手がかりはあるんではないかのぉ。)
(やっぱり学院行きは間違いじゃなかったんだな、ちなみに痺れが取れたらマーキングも取れるのか?)
(なんでも妾に聞くでないわい、正直その辺の仕組みはなんとも言えぬのぉ。)
(そうかぁ、ごめんなつい物知りだから知ってると思って……。)
(まあよい、ともかく妾も学院に行ってそこら辺は一緒に調べるから、お主は人形の準備を頑張るんだの。)
(そうだね、ネクリアに行けば粗方揃うと思ってるんだけどね。)
(そうさのぉ、あそこなら揃わん物の方が少ないであろうしいい判断なんじゃないかのぉ。)
(そっか、それなら早くネクリアに行かないとな……あと1ヶ月前後は馬車に揺られないとだけど。)
(荷車付きの馬車というのは早いようで遅いからのぉ。)
(そのネクリアにはどのくらい滞在する予定なのだ?)
(そうだね〜、先のことを考えると1週間半から2週間くらいかな?万が一試験に遅れたら両親に合わせる顔がないからね。)
(それが良いかのぉ、そろそろ妾は言語の勉強をするでの、お主もくれぐれも魔物には気をつけるんだの。)
(変な記憶覗くなよっ?魔物退治は任せておいて欲しいけど……。)
(大丈夫、お主の日常会話くらいしか覗かんから安心せい。)
(ありがとうございます……。)
(ではの。)
(また後で!!)
こうして、凛との心の内での会話は終わりあたりはすっかり夕暮れ間近になっていたので、俺は野営の痕跡をみつけその近くで野営の準備を始めることにした。
食料はドーゴンとソニカが干し肉などある程度日持ちするものなどを詰めてくれているので、数日は狩りなどをしなくても過ごせそうだ。
街道沿いには時折、野営に人気そうなスポットや自身の旅の途中に休憩がてらものを売っている行商を見かけたので、街まで我慢せずとも多少の買い物は出来るかもしれない。
旅慣れした両親なので、ネクリアまでは買い足す必要はそこまでないだろうが……。
翌日、俺は何者かが近づいて来る音で目を覚ました。
「誰だ!?」
俺はそう言いながら剣を物音のした方向に向ける。
「ひぃい、待ってくだされ〜!!」
「なんだ、ただの人間か……びっくりさせないでくださいよ。」
「す、すみません。」
妙におどおどしたそのおじさんはどうやら近くの地図にも載っていない村から来たようだった。
「あっしは、この近くにあるダゴ村って言うところから腕っ節に自信がある人を探してこの街道沿いを歩いてきたんですが……。」
「腕っ節は分からないですけど、剣術の心得はありますよ?」
「ええ、先程の体捌きは素晴らしいという他ありませんでした……あっしも昔は騎士団目指して剣の修行をしたのでわかりやす。」
「なにかお困りなんですか?」
「ええ、そうなんです……。」
「俺でよければ話くらい聞きますよ?」
「実は、ダゴ村はこの先結構歩いたところにあるですが、近くの森から野生の猛獣達が逃げ出してきて、村が荒らされてるんです……恐らく森の魔物が悪さして猛獣たちの住処を奪っちまったんだと思いやす。」
「今は自警団でどうにか凌いでいやすが、怪我人も多くそれがいつ崩れるか分からずじまいでして、冒険者に依頼をするために街道沿いにいる人とリントの街まで行ってギルドにお願いしようと思ってたんでやすよ。」
「ギルドには所属してませんが、俺にも出来ることはあると思うのでダゴ村に行きますよ!!」
「でも、あの体捌きができても坊ちゃんには危ないんじゃ?」
「こう見えても、アースアントやゴブリンキッズは倒したことありますから、多少の敵なら任せてください!!」
「そりゃ失礼しやした、その力を見込んでお願いしやす。」
そうして俺はおどおどしたおっちゃんと馬車に乗りダゴ村に向かうのだった。
(なぁ、凛はこの話どう思う?)
(あまり人前で魂に語りかけるでないわい、が、この男だけなら心配もないかのぉ。)
(あぁそうだったごめん、敵はなんだと思う?)
(恐らく森に住み着いたのは、ゴブリンキッズと親玉のゴブリンくらいだろうの、ゴブリンキッズはお主ならいくらでも大丈夫だろうがのぉ。)
(ゴブリンは強いのか?)
(ふむ、単体では脅威度Eランクだが、繁殖してゴブリンキッズを産むと凶暴性が増して脅威度はDランク相当になる個体もいるからお主ではちと心もとないのぉ。)
(じゃあ、ゴブリンキッズは俺がやるから他を誰かに任せるしかないか。)
(それが賢明なのだが、この状況では他に腕のたつ者がおるとも考えられぬからのぉ。)
(じゃあどうしたら……。)
(いい方法がないことは無いのぉ。)
(勿体ぶらずに教えてよ。)
(妾とお主の魂の優先順位を入れ替えるんだのぉ。)
(つまり、どういうこと?)
(お主の代わりに妾が体を一時的に操ると言うことだのぉ。)
(でも、憑依したら見た目が変わっちゃうんじゃ?)
(それは無機物の話だと言っておろぉ、お主はそもそも妾の魂を既に匿っておるであろう?)
(あぁ、確かに〜。)
(そうすれば、お主の体に負担をかけない範囲で妾の術が使えるだろうからそれで一網打尽という魂胆だのぉ。)
(よし、ならそれで行こう!!)
(妾の戦いを見てお主も技や術を盗むことだのぉ。)
(同じ術が使えるの?)
(まあ、その辺の説明はまた今度するかのぉ。)
(なんだよ、今教えてくれないのか……。)
(そろそろダゴ村なのではないか?)
「あ、あの〜……。」
「ごめんなさい、考え事していて……。ハハハ」
「いえいえ、ここがダゴ村になりやす。」
「そういえば、坊ちゃんのお名前は?」
「ああ、申し遅れました、ディノールといいます。」
「ディノ坊ちゃんでしたか、では村の中へどぞどぞ。」
こうして俺はダゴ村に到着し、依頼の詳細を聞くため村長の元へと案内されることとなった。
子供だからと舐められないように、ビシッと姿勢を決め、初依頼に胸を高鳴らせていた。
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