旅路編
第12話旅の始まり
翌日、俺は王立学院に向かうためドーゴンが用意してくれた小さな荷馬車に荷物を積み込んでいた。
馬の扱いは得意ではないが、基本的なことはドーゴンとの剣術修練の合間に教わっているので、恐らく問題ないだろう。
「5歳にして息子が旅に出るとはな……。」
「お父さんは大袈裟だな〜。」
「そうよあなた、デイスさんは4ヶ月って言ってたけどあれはゆっくり観光しながら行くとって話だし、もし何かあれば早馬で結構直ぐに駆けつけられる距離なのよ。」
「だとしてもだなぁ……いくらディノールが才能に溢れ優秀だとしても、5歳の子が国をひとりで縦断するんだぞ。」
「なんか今のだけ聞くとすごい親バカっぽいね。ハハハ」
「大丈夫だよお父さん、俺はお父さんに教わった素晴らしい剣術、少しの魔法とお母さんから教わった全てのものを大切にする優しさがあるから、1人だけど独りじゃないからさ。」
そう俺が言うとドーゴンは腕で顔を隠しながら、こういうのだった。
「ソニカ……俺たちの息子がこんなに立派なことを言えるように……なってるなんて思わなかったぞ俺はァ。」
「あなたたったら……でもそうねディノの言う通り、私たちがついていけなくても私たちの想いはついていけるんだわ。」
「お母さん……正直なところ、2人の元を離れて旅に出るのは不安が無いわけじゃないけど、いつまでも無知で守られるばかりじゃなくて、外で学んだことを活かして2人と色々なことを語ったり、2人の役に立てる息子になりたいから、俺は頑張ってくるよ!!」
「そうだな、俺も別れを惜しむだけではなく立派に帰ってくるであろうディノールの姿を楽しみにするとしうか。」
「そうね、あなたと私は帰りを楽しみに待ちましょう。」
「ありがとう2人とも、じゃあそろそろ行くよ。」
「くれぐれも気をつけてな。」
「気をつけてね、ディノ……あと、これ持っていって辛くなったらひとつずつ開きなさい。」
そう言うと、ソニカは服のポケットから手紙を何通か俺に手渡すのであった。
「ありがとう、心強いよ!!」
「じゃあ、行ってきます!!」
そう言い俺は馬車に乗って手網を握ると馬を歩かせ始めるのだった。
後ろからはドーゴンとソニカが見えなくなるまで、
「いってらっしゃ〜い!!」
「無事に帰ってこいよ〜!!」
と叫び続けているのだった。
俺は2人の愛情を心に強く焼き付け、新たな出会いに胸を高鳴らせながら馬車を走らせ続けるのだった。
数十分が経った頃、今回は素通りするが初めての街リントが見えてきた。
ここはいつもドーゴンやソニカが買い物や情報収集で立ち寄るところだと聞いている、国の端にあることもあって小さいが、清潔感や活気はあるようだ。
地理的な側面上、騎士団の駐屯地もあり治安はそれほど悪く無いようだ。
そんなこんなで街をもう少しで抜けるという時、ある騎士団員であろう人から声をかけられた。
「失礼、君はひとりで旅を?」
「まあ、そうですけど……。」
「南の森の方から来たね、あちらでは何を?」
なにか疑われているのだろうか、旅立ちそうそう収容もされたくないので、素直に答えるとしよう。
「あっちは家族と住んでる家があって今日旅に出たところですよ。」
「ということはドーゴンの息子か?」
「ええそうですが、父とお知り合いですか?」
「これは失礼、私はこの街の騎士団員をまとめているヴルブッドというのだが、見回りをしていたら見慣れぬ君を見かけて声をかけたのだよ。」
「そうでしたか、父がいつもお世話になっております。」
「う、うむ、というかドーゴンと違って礼儀正しいのだな君は……っと失言だったな失礼。」
「いえいえ、父は良くも悪くも大胆ですからね!!ハハハ」
そう言い笑っているとヴルブッドは咳払いをし真剣な面持ちになった。
「でだ、ここからが本題なのだが数年前から魔物に異変が起き始めててね、旅のものに情報を提供してもらったり、逆に気をつけるよう呼び掛けてるんだよ。」
「あー、アースアントが土系の攻撃以外もしてきたとかの話ですか?」
「少しは知っているようだね、そうなんだ……近頃は属性違いの報告は無いものの、魔物が街道近くまで出てきてしまうこともあって、死傷する被害が拡大しているんだ。」
「それは危険ですね。」
「ドーゴンが君を相当評価しているようだから、そこまで問題ではないかもしれないが、くれぐれも気をつけてくれよ。」
「分かりました、わざわざありがとうございます。」
「ちなみにその魔物はかなり強いんですか?」
「アースアントが倒せるのなら街道沿いに出る魔物はそう苦戦しないだろうってところだな。」
「え、アースアントって1番弱い魔物じゃないんですか?」
てっきりモブの雑魚敵だと思っていたので内心かなり驚いていた。
「何を言うかと思えば、アースアントは脅威度Eランクモンスターだよ、その下にはFランクとGランクがあるけど、街道沿いの大体はFランクのアルミラージ、下位種族のGランクモンスターゴブリンキッズがおおよそを占めているという報告だ。」
その後も話を聞いていたところ、どうやらゴブリンキッズやアースアントはEやGランクでも個体と群れで脅威度が変わるらしい、3匹以上の群れの○○アント系のモンスターは、駆け出し冒険者だとかなり危険らしいのですぐ逃げるようにとの事だったが、そもそも俺の知るアースアントはこの地区では森にしか生息していないそうだ。
他の○○アントも街道沿いには群れからはぐれた個体しか出没しないらしく、気をつけるならゴブリンキッズの方らしい、奴らは知能は低いもののゴブリンキッズ特有のコンビネーションで、冒険者や旅人の装備などを盗んだ隙に次々と攻撃してくるとのことだが、装備を盗まれなれば問題ないらしい。
「色々な情報ありがとうございます。」
「いやいや、ドーゴンとソニカさんには昔からお世話になっているから気にしないでくれたまえ。」
「無事旅を終えたら両親にもヴルブッドさんのこと伝えておきますね!!」
「では、俺は行きますね。」
「ああ、道中気をつけて。」
「はい。」
こうして俺の旅は本格的に始まり、俺は次の街ネクリアという王都の次に大きいという街に向けて馬車を走らせるのだった。
(お主は、周りに恵まれる体質なのかのぉ。)
(いつも急でびっくりするな……確かに家族とかデイスさん、ヴルブッドさんもみんないい人だからね。)
(なぜ、妾が入っておらんのだ?ん?)
(あ、ごめん。アハハ)
(まあ、魂でしか関わりが今は持てんから仕方ないのかのぉ、お主がこうして異世界にて過ごせているのも妾のおかげだと言うのにの。)
(そうだよね、凛がいなければそもそもみんなと関わることはなかったんだからちゃんと感謝しなくちゃいけないな。)
(分かれば良いのだ。)
(で、わざわざ凛から話しかけてきたってことは何かあったの?)
(先程のヴルブッドという男の話を聞いて妾からも伝えておきたいことがあってのぉ。)
(というと?)
(ディバインリーパーの一件があったから気をつけておけと伝えたいだけだのぉ。)
(またあんなのが現れるかもってこと?)
(確証はないが、そもそもディバインリーパーは秩序を乱しているものを率先して狩りに来ると言われていた時代もあったからのぉ。)
(秩序を乱してる?俺がか?)
(かなり乱しておると思うぞ、そもそも転生しておるしの。)
(おいおい、そんなデメリット聞いてないぞ。)
(デメリット……確か欠点とか損失という意味だっかのぉ、確かに伝えておらなんだな……というかここ数年大人しかったから失念しておったんだのぉ。)
(まあ、凛も神様とかじゃなく元は普通に人間だから仕方ないのかな……。)
(そういえば、背中の模様のこと知ってる風だったけど何かわかるの?)
(ああ、恐らく模様と痺れは別物だと思うでのぉ。)
(模様のせいで痺れてるわけじゃないってこと?)
(まあそれはあとじゃ、今はゴブリンキッズが近づいて来ておる、そっちに集中した方がいいかもしれんのぉ。)
(ゴブリンキッズ?)
ガサガサガサッ
物音にびっくりし、馬が急停止した。
「ほんとに出やがった!!」
俺は馬車から飛び降りながら2体のうち1体に斬りかかる。
その隙にもう一方が俺に殴りかかって来たが、振り向きざまに一閃、難なく勝利を収めた。
俺は馬車に戻りまた旅を再開するのだった。
(凛?まただんまりか?)
また凛が反応しなくなってしまったので、仕方なく背中のことはまた今度という運びになってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます