第9話ソウル ピュリファイ
そのまま一行は歩みを進めていき、10分程が経過した頃、暗かったはずの辺りは薄明るくなり、先を見てみると淡い光に包まれた大樹が遠目で確認できた。
「すっげぇ〜あれが例の大樹??」
「そうだ、あそこは精霊の加護が色濃く反映される癒しの大樹とも言われていたんだが、一時期みんながこぞって訪れたことがあって荒らしに荒らされちまってからは、実はウチの家系が守る習わしになったそうだ。」
「え、じゃあお父さん達の先祖から代々ここを守って暮らしてるの?」
「そういうことだ、今となっちゃ情報も制限され森への立ち入りも許可制になってるからほとんど守護者の仕事はないんだけどな。」
「へぇ〜でも、誇りに思える仕事だね。」
「そうだな……いずれディノールもここを守ってくれるか?」
「俺でよければいくらでも守るよ!!ヘヘ」
そんな話を歩きながらしていると大樹の根元に到着し、ソニカは跪いて手を合わせお祈りを始めた。
「ソニカは精霊術士だからな、こういう精霊が守護したり気に入ってる場所に訪れたら日々の感謝を伝えて、精霊達との絆をより深めるんだ。」
「精霊にも意思があるって言ってたもんね。」
「そうだ、さっ今のうちに寝床を準備しよう。」
「お父さんは辺りを一周して魔物避けを設置してくるからな。」
「わかった。」
「ねどこ、寝床っと……。」
「もしかしてこれか?」
ドーゴンのカバンを漁って出てきたのは、テントとは到底言えない少し丈夫な布とロープと木の杭だった。
「これは寝床と言えるのだろうか?仕方ないか……。」
俺は布とロープを大樹の低めの枝に登り括り付け屋根になる部分を張った。
「おっ、さすがディノールもう布を張ってくれたのか、ありがとう。」
「これしか入ってなかったけど寝床ってこれだけ?」
「ん?あぁ、あとそニカの鞄に敷く用の布が入ってるはずだぞ。」
当たり前だろ?と言わんばかりの表情で返答されてしまった。
勝手に元いた世界のテントを想像してしまっていた自分が馬鹿みたいだ……。
「あら、もう張ってくれたの?」
「俺がやったんだっ。」
「さすがディノね、あとは敷物を敷いて完成ね。」
「ここの夜は本当に綺麗だから壁がなくても寧ろ気持ちよく眠れるわよ。」
ソニカには俺の内心を見透かされてしまったようだ、やはり精霊の加護の影響なのだろうか?
「ねえお母さん、精霊って人の心読めるの?」
「そうね、心を完全にとはいかないけどある程度読める精霊や術士は結構いるわよ、どうして?」
「お母さんには、心の内を見透かされてる気がしたからさ。」
「精霊と仲良くなるために感覚を研ぎ澄ます修練を積むんだけど、その時におまけのようにそういうチカラに目覚めたかしらね。」
「そういうことだったんだ!!」
「おーいふたりとも〜。」
「どうしたのーお父さん?」
何やら遠くからドーゴンが声を上げて駆け寄ってくる。
「野生のベラウサがいたから仕留めて来たぞっ!」
ベラウサとは、見た目は大きなうさぎにしか見えない野生の無害な動物だが、希少性が高くなかなかありつける食材では無いらしい。
恐らく夕飯のメインにするつもりで仕留めて来たんだろう。
「あら、今日は大樹の下でベラウサの丸焼きかしらね。」
「ご馳走だねっ!!」
かくいう俺も一度食卓で食べたことがあるが、脂身の量は絶妙で歯ごたえは鶏もものように柔らかく、かぶりつけばさっぱりめの肉汁が大洪水を起こすほどの旨みが凄い食材だと記憶している。
そうして俺の冒険初日は幕を閉じて行った。
翌朝は雨模様のどんより雲の下、何やらソニカが慌ただしい様子で俺とドーゴンを起こしてきた。
「どうしたソニカ?」
「精霊たちが教えてくれたんだけど危険が迫ってるって。」
「嵐が近いってことか?」
「それもそうだけど別の危険だって、詳しくはわからないけどって。」
そうこう話しているうちに、辺りはより一層薄暗くなり嵐が近づいてるのがはっきりわかるほど荒れ始めていた。
「ねぇなんかとっても寒くない?」
「たしかにそうね、この時期に白い息が出るほど冷え込むなんておかしいわね……。」
「待てよ、これってまさかアイツが近くにいるってのか!?」
何やらドーゴンは思い当たる節があるようだ。
「お父さん何が来てるの?」
「話はあとだ、荷物も持たなくていい全力で森まで走れ!!」
さっきまで降っていた雨は、いつの間にか雹になりバチバチと音をたて、それの上では雷がゴロゴロと鳴り響き、濡れた地面には霜が降り始めていた。
「ディノール剣だけ持って行け、父さんも直ぐに行くから!!」
「わかったとにかくはし……。」
<ト"ォ"コ"ニ"ィイ"ィイ"ク"??>
走り出そうとした瞬間そいつは現れた。
禍々しさの化身とも言える黒のボロボロになった布を頭からかぶり、右手には杖を持つそいつはガラガラ声で語りかけてくる。
ソニカは声にならない悲鳴を上げているようにも見える、ドーゴンは剣を抜きこっちに駆け寄ってくる。
こいつはいったいなんなんだ……。
そう思った時俺は気を失って青ざめた顔で倒れ込んだ。
「ディノールぅう!!」
(ソニカはあの様子じゃダメだが、次に狙われるとしたら恐らく近くにいる俺だ、このまま足を止めずにディノールだけでも……)
ドーゴンは決死の表情でディノールと謎の敵に近寄りながら、剣に魔法を付与する。
(エンチャントファイヤ、エンチャントウィンド二つを合わせてエンチャントボルケーノ)
刀身がみるみる赤くなり発火する火柱が剣から立ち上り、ドーゴンは剣を振りかざす。
<オ"マ"エ"ヒ"サ"シ"イ"ナ">
「覚えてたか怪物、俺から息子まで奪うんじゃねぇーーー。」
振りかざした剣は杖とぶつかり合い激しく燃え上がる、ドーゴンは剣を振り抜き謎の敵は燃え上がる炎に飲まれた。
「よし、今のうちだディノール……。」
「何とか生きてはいるな……。」
ドーゴンは剣を振り抜いた勢いのままディノールを回収しソニカの元へ駆け寄る。
「頼むソニカ聞いてくれ、あの時と同じ結末にはさせたくないんだ、だからディノールを俺たちの息子を守るんだっ!!」
その頃、気を失っているディノールはある夢を見ていた。
「お主、かなーり危なかったのぉ。」
「最近のイメージ修練のおかげで夢の世界で語りかけるくらいはできるように繋がりが戻ったんでな。」
「こんなとこで気を失ってるとお主の両親死んでしまいそうだのぉ。」
「妾の力の一部を貸してやるからさっさと目を覚まして助けてやらんかっ!!」
「起きたら凛と名を呼ぶのじゃぞ、凛だからの。」
雷の轟音と共に俺は立ち上がった。
「お、おいディノール大丈夫なのか?」
その時の俺にはドーゴンの声は届いていなかった。そして俺は謎の敵に向かいゆっくりと歩き始める。
「おいディノールやめろっ死ぬぞっ!!クッ、さっきの剣技の負担がもうきやがった……いつの間にか腕もおられてやがるクソッ。」
技といつの間にか負わされた負傷で動けないドーゴンをしり目にディノールは笑っていた。
「ハッハッハ、やっと思い出したよ……。」
「こんなギリギリで思い出すなんて俺は間抜けもいいところだよな……ハハハ。」
「「「なぁ、凛っ!!!」」」
ディノールの身体に黒いモヤがまとわりつき、そしてディノールは叫んだ。
「「「ソウル ピュリファイ!!!」」」
<オ"マ"エ"ト"コ"テ"ソ"ノ"ワ"サ"ヲ">
謎の敵はディノールが放った魔法?で浄化されるが如く光を放ち塵となってしまった。
ディノールは力を使い果たしたのか、その場で再び気絶してしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます