第8話初冒険!!
森の大樹へ行く前日……。
俺とドーゴンはまた修練に明け暮れていた。
修練の休憩中、ドーゴンは俺に質問を投げかけたのだった。
「ディノール、お前将来の夢とかあるのか?」
「将来の夢か……どうして急に?」
「まあなんだ、できることがあるなら全力で協力してやりたいなって思っただけなんだが、実際剣術もかなり上達したし騎士団の入団テストか冒険者の登録申請するだけでもまずはどうかなってな。」
「この年で騎士団員とか冒険者になれるの?」
「前例がないだけで、どちらもテストや講習をクリアすれば基本的に年齢制限はないから可能ではあるはずだ。」
「そうなんだ……まだ将来はわからないけど、ひとまず外の世界を見て回りたいなって常々思ってるんだ。」
「外の世界を見て回るか、そうだよな、誰にも会えず家の中で過ごしてるだけだと窮屈だったり、家にいたくもなくなるよな……。」
「違うよお父さん、俺はねお父さんとお母さんのおかげで楽しい毎日を送れてるし、基本的に俺のやりたいように家では過ごさせてもらってるから、窮屈や退屈なんて思ったことないんだ。」
「ディノールお前……。」
「ふたりが俺には可能性があるっていつも言ってくれるから、世界を回って色々な経験をして可能性をもっと探りたいと思ってるんだ。」
そう話していると、ドーゴンの目には涙が少し浮かんでいた。そんなに感動する話でもないと思うのだが。
「こうやって真っ直ぐ育ってくれて俺は嬉しい、俺とソニカはお前を大切に育てようとするあまり過保護になってしまっていた自覚はあったんだ。」
「それだけ俺を愛してくれてたんだろうし、俺の成長速度を考えたら致し方ないんじゃない?」
「ディノールがこんなに優しく成長してくれて良かった。」
笑顔と涙でグチャグチャになった顔を見るに、俺に対して色々な葛藤があった中で、大切に育てることを決断したことがうかがえる。
「ありがとうお父さん、明日は大樹に行く日だからそろそろ切り上げようか。」
「そうだな、そうしよう。」
そうして修練を切り上げた俺たちは、ソニカと食事を済ませ各々湯浴みをし、次の日に備えて眠りについたのだった。
まだ外が薄暗いなか、早起きな鳥のさえずりで目を覚ますと、ソニカとドーゴンは庭先で外出の準備を着々と整えていた。
「あら、ディノおはようよく眠れたかしら?」
「お、ディノールいよいよだな。」
「ふたりともおはよう、バッチリ寝られたよ。」
「良かったわ、テーブルのところにディノ用の鞄を置いておいたから持ってきてちょうだい。」
「わかった。」
早足でカバンを取ってきた俺は、両親と一緒に中身の最終チェックを始めた。
「えっと、ナイフに水汲み用の器と簡単な応急処置用の道具、簡易的な掛布団って所かな?」
「ちゃんと入ってたかしら?」
「とりあえずこの4点は入ってるよ。」
「あと必要そうなものはお母さんとお父さんが持ってるから安心してね。」
「よしっ、じゃあソニカ、ディノール行くか!!」
「おー!!」
こうして俺の初冒険は幕を開けた。
森へは庭を出ると直ぐに入ることになり、そこから1時間ほど歩くと気に囲まれても辺りが明るく感じるほど日が昇っていた。
「ねぇお父さん。」
「なんだディノール?」
「ご飯食べてないけどどうするの?」
「ああ、言ってなかったけど現地調達だぞ。とは言ってももう少し行った先の川で仕掛けがあるから回収して焼くだけだな。」
「そうなんだ、冒険て感じでいいね!!」
「ハハハ、でも本当の冒険は事前に仕掛けなんてできないからもっと過酷だぞ!!」
「それもそうだね!!」
俺はこの時どこか緊張感にかけていた気がする。
そうこうしているうちに川へ到着した、朝ごはん時とお昼ご飯時あいだ辺りだろう。
「よし、ソニカ薪を集めて火を起こしておいてくれ。」
「わかったわ。」
「ディノールは休んでてもいいし、暇だったら俺と仕掛けを見に行こう。」
「一緒に行くよ。」
どうやら仕掛けは3箇所あるらしく、聞く話だと元の世界で言う鮎のような魚が捕れるという、1つ目は空っぽで2つ目は4匹、3つ目は5匹となかなかの大漁ぶりだった。
こうして仕掛けから戻り、ソニカの待つ場所へ帰ってきた時だった。
ガサガサガサガサッ!!
ドッスンッッ!!
「こいつは、アースアントだっ!!」
「これがあのアースアント!?」
以前ドーゴンが討伐したというザコ敵アースアントが出没したのだった。
「ソニカこっちへ待避だ、それから俺に耐久上昇、攻撃力上昇の精霊術を!!」
「こんなにでかいなんて聞いてないよ!!」
「ディノールは俺の後ろでナイフを構えておけ!!」
「わ、わかった……。」
そう言われ、ナイフを持つが手が震える、アースアント、これがモブ?デカすぎるし殺意が尋常じゃない。
大きさはおおよそクマくらいだが、アリがその大きさという異様な光景に俺は身震いしていた。
「万物に宿りし精霊よ堅牢な防御でドーゴンを守りたまえ……。」
「エンチャントドゥラビリティ!!」
「万物に宿りし精霊よ大地の力でドーゴンの力となりたまえ……。」
「エンチャントパワー!!」
俺が怯えている横で、数秒の間に高速詠唱を済ませたソニカはドーゴンにバフをかけ終えていた。
すかさずドーゴンが素早い動作でアースアントに斬りかかる……。
「でいやっ!!」
アースアントはドーゴンの動きに反応する間もなく、首と胴体が切り離されその場に倒れ込んだ。
切り飛ばされた首は俺の目の前に転がって来て目が合う形で止まった。
まだ完全に動きは止まっていないようで、顎をガチガチッと鳴らしながら首だけで威嚇しているように見えた。
俺はその恐ろしさに耐え兼ね尻もちをついた。
「大丈夫だったかふたりとも!?」
「私は大丈夫よ。」
「ディノールさすがに終わったか……初めて見る魔物だもんな仕方ないだろう。」
「ご飯食べて元気だせっ!!」
ドーゴンは俺の背中をトントンと叩きながらそう言った。
当の俺はと言うと戦闘の光景が頭に焼き付き呆然としていたのだった。
「ソニカ魚を頼めるか、俺はディノールと少し話がしたいから。」
「いいわよっ。」
「ディノール今の戦闘を見てどう思った?」
「2人とも次元が違うなって……。」
「そうか、そう感じたか……でもなディノール、お前の才能は俺たちより遥かに上なんだ、ソニカの高速詠唱や俺の剣技は、正直努力次第で手に入るものに分類されるんだ。」
「みんなあんなことが出来るの?」
「んー、得意不得意があるから高速詠唱ができる人は少し限られるかもしれないが、精霊術を極めてる人でできない人はいないって感じだ。」
「てことはお母さんってかなりすごい精霊術士なの!?」
「ああ、冒険者で知らぬものは居ないほどにな。」
「精霊術を扱う時の弱点が詠唱破棄できないことなんだが、それを補うために元々体に宿してる精霊たちに詠唱を早めてもらって発音してるんだ、それが出来ないと精霊術士としてはやっていけないから人によっては難関ではあるな。」
「じゃあ高速詠唱は精霊術士にとっては必須技術ってことなんだね。」
「そう言うとだ!!」
「でな、ディノールのサンダーを見た時に思ったんだが、あの威力をサンダーで出せる人は他に居ないんだ……お前には魔法や他の才能がちゃんとある、だから今回だけでめげないで欲しいんだ。」
「俺にもちゃんと戦う才能が?」
「ああ、俺ら以上のな!!」
「わかった、頑張ってみるよ!!」
ドーゴンに励まされた俺は魚が焼けるのを待つ間に、魔法のイメージ修練をしていた。
雷に打たれた時の衝撃をコントロールするイメージで……ってそういえば打たれたあと変な空間で誰かと話したんだよな……誰だっけ?
妾とか古風な言い回しをしてた女の子だったような?
「……の、……ィノ、ディノ!!」
「うわぁっびっくりした……。」
「それはこっちのセリフよぉ、お魚焼けたわよ。」
「あ、あぁ、ありがとう。」
俺は女の子との会話を思い出そうとしたところで集中を乱されてしまい、最後まで思い出すことが出来なかったが、それももう時間の問題である気がした。
「うわぁ、この魚美味しいねー!!」
「そりゃ捕まえた瞬間に調理してるからなっ。」
「俺、さっきは初めての戦闘でびっくりしたけど、次こそはちゃんと戦ってみせるよ。」
「だから、俺にもちゃんとした剣を持たせて欲しいんだ。」
「あなた、どうするの?」
「そうだな……俺との剣術修練は、ちゃんとこなせてるしその力が発揮出来れば大丈夫だろう。」
「心配だわ……。」
「いざとなったら2人でディノールを守ればいい話さ、ここら辺じゃ大した魔物なんて出ないからな。」
「それもそうね、私たちが付いてるうちはディノ、安心して攻撃していいわよ。」
「ありがとう、ふたりとも!!」
そうして食後からは、俺もナイフではなく剣を持ちながらの冒険となった。
5歳の身体で剣を持ちながらの徒歩はなかなか堪えるものがあるが、それすらも冒険してる感覚を増してくれるいい材料に感じていた。
「お父さん、右からアースアント来るよ!!」
「おう、見えてる大丈夫だっ!!」
「ディノールは右から、俺は左から行く合わせろっ!!」
「了解っ!!」
アースアントはドーゴンに向かって攻撃を仕掛け、泥団子のようなものを口から吐き出した。
その隙に、俺が攻撃を仕掛ける。
「ディノそのまま行きなさい!!」
「万物に宿りし精霊よ大地の力でディノールの力となりたまえ……。」
「エンチャントパワー!!」
「てりゃああ!!」
ソニカの支援もあってアースアントは致命傷を負いその場でぐったりと倒れ込んだ。
「やったー、お父さんお母さん俺でも倒せたよっ。」
「そうね素晴らしいわっ。」
「いい連携だったぞディノール、だが敵の息の根を止めるまでは安心しちゃダメだぞ。」
そう言いながらドーゴンは、アースアントの頭に剣を突き刺し、引き抜いた。
「次からは気をつけるよ……。」
「あなた、初めて連携して倒したんだから褒めてあげるだけでも良かったんじゃない?」
「戦闘では何が起こるかわからない、致命傷を与えてから玉砕覚悟の攻撃を仕掛けてくる魔物もいるくらいだからな、警戒する癖をつけないと命取りなんだ。」
「それもそうね……。」
「まあでも、初めて家族みんなで倒したんだ、今度祝杯をあげないとなっ!!ハッハッハ」
「うんっ!!」
それからも冒険は続き、道中数体のアースアントと遭遇したが、先の経験もあり難なく攻略できた。
そしてもう間もなく大樹というところまで進み辺りは薄暗くなり始めていた。
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