第6話魔法と精霊術
数週間後、外は雪景色になっていた。
遅めの雪が降り積もり始めたこともあって家族はみんな家の中で過ごしていた。
そんな中、俺はと言うと待ちに待った本の読み聞かせタイムが到来しようとしていた。
「ディノール、待たせたな……。」
なんだろう、某ゲームのスネ〇クを彷彿とさせるこの登場は……。
「お父さん今日は一段と渋いね!!」
「そうか?寒すぎていつもよりゆったり話してるだけだぞ……なんてなっ。」
「そんなことより本は?」
「そんなことってなぁ……話振っといて酷いぞディノール。」
「ごめんね、でも待ちに待った日だからさ!!」
「そうだよな、すまんすまん、家にある本全部がこれだ。」
バタンッと置かれた分厚めの本は2冊だった。
皮らしき表紙と粗めの材質の紙でできたその2冊を俺は食い入るように眺める。
「あれ?前はもう少し多くなかった?」
「よく覚えてるな、あれは借り物だったから元の持ち主にこの間返しちまったんだよ。」
「えー、それも読んで欲しかったな。」
「まあまあそういうなって、他の本は大して面白くないし、内容なんてあるようで無いようなもんだからな。」
「ふーん、まあそれなら仕方ないか……。」
「で、この2冊は何と何についてなの?」
「これは、精霊術と魔法についてだな。」
「精霊術についてはこの間お母さんから少し聞いたよ!!」
「どんなこと聞いたんだ?」
「自然を大切にしないと精霊が怒って、自然の脅威に襲われるって感じの話!!」
「それは精霊術ではなく、精霊の習性みたいなものだな、この2冊の本ではそれぞれ初級から中級の行使の仕方や条件、特性などが書かれているんだ。」
「じゃあ、その本があれば精霊術や魔法が誰でも使えるの?」
「いや、そうはいかないんだ……これはあくまでも教本だから勉強用ってだけだが、読んだ者にすごい才能があれば読んだだけで術を行使できてしまう、なんてこともたまにあるらしいぞ。」
「じゃあ、僕にも才能があれば読んだ魔法とかを使えるかもしれないってことだね!?」
「簡単に言えばそういうことだが、そもそもまだ魔力回路も発達してないだろうから無理だと思うぞ!!」
「魔力回路??」
「魔力回路ってのはな、魔法にも精霊術にも必要になってくる大切な身体の器官で、5歳くらいになってくると正常に働き出すらしいんだ。」
「生まれつきじゃないんだね……。」
「一説では5歳くらいまでは反動に全く耐えられないってこともあって、それ以前の基本的な体の成長を1番にしているからだと言われている。」
「まあ例外もいないことはないがな……。」
「例外がいるってことは何人かは5歳に満たなくても魔力回路が発達し始めてる前例があるって事?」
「あ、いや、まあそうだな……。」
「それってどんな人なの?」
「噂程度しか知らないが、魔眼という強力な目を有する人は特別な魔力回路が備わるとされていて生まれつき魔力が扱える人もいるらしいな。」
「そうなんだ……魔眼どんな目なの?」
「んー……それはお父さんも会ったことないからよく分からないな。」
「ふ〜ん。」
魔眼か……この世界では魔法や精霊がいるがその中でも特殊なチカラってことなのだろう、もしかして俺の黒いモヤも魔眼が原因だったりしたらロマンがある気もするが。
「さて、魔法と精霊術どっちが知りたいんだ?」
「そうだなぁ、僕が使えるとしたらどっちなんだろう?」
この間の黒いモヤの一件があったのでおそらく精霊術は俺との相性が悪いと感じている、ということは、やはりここは魔法で行くべきだろうか。
「いやーさすがの父さんでもディノールの才能は推し量れないからな……軽く両方の説明をするから気になった方ってのはどうだ?」
「そうしよっ!!」
「よし、じゃあまずはこっちの精霊の書(序)の冒頭を読んでみようか。」
「うんっ」
そうしてドーゴンは俺をあぐらをかいた上に座らせ、本を2人の前に置き読み聞かせを始めてくれた。
要約すると、精霊術を行使するには基本的に事前契約等は必要ないらしいが強力な精霊と事前に契約をしておくことでより強力な術を直ぐに行使でする方法もあると言う。
何より術を行使するには、魔力回路を通じて自然エネルギーを体に循環させて詠唱を唱えることで術が使えるとのことだ。
魔法のように属性などはあるが、元来精霊術はサポートを主たる効果として扱われているため回復や味方の能力向上に用いられることが多い。
しかし、精霊の質や量によって効果の増減や攻撃、防御に用いる術士もいるようだ。
ただし、自然エネルギーを扱うには精霊に気に入られる必要があるため、邪な気持ちや自然を害する行動をとる人間には扱えない術となっているらしい。もし、それでも強引に行使しようとした場合、自然エネルギーの暴走によって体の一部が樹木などに変化した事例も報告されていると記されていた。
ソニカが言っていた自然を大切にしないと牙を剥くという話はこういうことから来ているのだろう。
「どうだ、何となくはわかったか?」
「うんでも、自然エネルギーって感じたことないけどどういうものなの?」
「それがな……俺もさっぱりなんだ、父さんは魔法剣士だから魔法と剣術はある程度分かるが精霊術はソニカの担当だからさっぱりなんだよハハハ。」
「もし気になるなら今度ソニカに聞いてみるといい。」
「そうだね、そうするよっ。」
「よし、次はかっこいい魔法だぞ〜、気になるだろっ。」
新しいおもちゃ自慢する子供のような表情で詰め寄られる。
「う、うんすっごい気になるよ。」
「そうだろっそうだろっ、魔法は派手だしかっこいいからな〜。」
「そうなんだ、それなら早く本の内容教えて?」
「コホン、そうだなじゃあ魔法(初級)の最初から少し読むぞ〜。」
「うん、お願いっ!」
こうしてさっきより俄然乗り気なドーゴンは魔法の基礎について読み聞かせをしてくれた。
内容としては、魔力回路に流れている魔素の循環のさせ方やイメージによって形態を変化させるという使い方が一般的らしい。
例えば、松明の先で燃える火を思い浮かべて、魔素を熱くしていくイメージで発火させたり、逆に川に流れる水を思い浮かべて、魔素を流すイメージをすると水に形態変化したりと何をするにも呪文の他に強力なイメージが必要だそうだ。
修行の一環でそのイメージしたいものの実物に触れ続けるなど対象を体の一部と錯覚させる方法があるらしい。
精霊術とは違い、自らのイメージで形態を変化変化させていくため生まれつき馴染みがあるものや衝撃的な経験にまつわる属性が得意な属性になるという、逆にイメージが全くわかないものや、得意属性とは真逆なものは発動しない傾向にあるとの事だ。
基本的な属性は火、水、風、光、闇の属性で稀に火と風の複合属性などを扱えるものもいるようだ。そして、相性は火>水>風>火のようにめぐり光⇔闇は相反する相性のように基本的には語られている。
「ま、ザッとこんな感じだな。」
「まるでアニメだ……。」
「あにめ?なんだそれ。」
「あぁ。いや、なんでもないよこっちの話だから。あはは」
「ん?そうか、でディノールはどっちから学びたい?」
「とは言ってもこの本たちのその先は具体的な術の種類だったり使い方が書かれてるから5歳くらいになってからの話だけどな!!」
「えぇ、今すぐなにかできないの?」
「そう言っても無理して魔力回路を使おうとすると跳ね返って自分にダメージが来たりするからな……。」
「そっかぁ……でも、魔法は自分で完結できるから練習しやすそうだし魔法を最初に学ぼうかな。」
「おぉそうかそうか、じゃあ父さんと一緒の魔法剣士目指すのはどうだ?剣術なら3歳くらいから始めてもいいだろうし先取りできるぞ。」
「3歳になったら教えてくれるの?」
「あぁいいとも、あとな魔力回路が正常に使えるようになった時は基本的に夢でお告げが来るから見逃すなよ。」
「お告げってどんな?」
「人それぞれ違うみたいだが、みんなはっきりお告げだって気がつくみたいだぞ、父さんは体が光る夢を見て実際に夢の中で魔法を使ってたのをよく覚えてるぞ。」
「じゃあ、その夢を見たら魔法を教えてくれるんだね?」
「そういうことだ、それまでは剣術や世界のことについて学ぶとしよう。」
「わかった!!」
こうして俺とドーゴンは読書をやめ、今後の方針を決めたのだった。
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