第5話近隣諸国の情勢

ソニカとの会話から30分程が経過した頃だろうか、ドーゴンが帰ってきた。




ガチャ、バタン



「ソニカ、ディノールただいま……ってどうした2人とも暗くないか、何かあったのか?」


「あらあなたおかえりなさい、ディノールは本をおあずけされて拗ねてるのよ、代わりに色々と話をしたから少し疲れちゃったみたいでね。」


「そうかディノは本当に本を楽しみにしてたんだな、代わりに何を話したか分からんが夢中になりすぎたのか?ハッハッハ」


「そんなところよ、それより何か情報は集まったのかしら?」


「んーそれがな、朝一で騎士団のヴルブッドに話を聞きに行ったが、特にこれといった話は今の所聞けなかったんだ、ヴルブッドには冒険者の方がそういう話は詳しいだろうって言われたから午後はギルドに顔出してみるさ。」


どうやら父親は俺が想像しているより多方面に顔がきくらしい、やはり5年も続いた戦争で命を共にかけた戦いの仲間とは親密な関係になりやすいのだろうか。


「ディノール悪いが本は後日にしてくれ、父さんは昨日の件をもう少し聞いてこようと思うんだ。」


「お父さんありがとう」


「おうっ、というかすごい流暢に話せるようになってないかディノール。」


「うん、お母さんと今は話をする練習してるからそのおかげだよ!!」


「そうなのよ、ディノは成長がとっても早いから得意なことやできることをもっと伸ばしてあげられたらと思ってそうしてみたの。」


「さすが俺の家族だ!!ディノールは俺を越してもっとすごい存在になるかもな、とはいえまだ小さい赤子同然なんだからもっと甘えて子供らしくいっぱい遊んだり、イタズラして怒られたり色々していいんだからな!!」


「うん、お父さんみたいにかっこいい大人になれるようにいっぱい頑張るよ。」


「さ、2人とも食事の準備が出来たから、話は一旦止めてご飯にしましょう。」


「おお今日は何が出てくるだろうなディノール。」


「分からないけど美味そうな匂いだね。」


「そうだな、ソニカは料理が上手いから何が出ても美味しいさ。ハハハ」


「フフフ」


嫁自慢の微笑ましさからドーゴンにつられて俺まで笑ってしまった。


そんなこんなで楽しい食事のひとときを過ごした後、またドーゴンは出かける支度を始めていた。


「あなたもう行くの、食後の少しくらいゆっくりしてから行けばいいのに……。」


「それもいいが、家族を見てるとやっぱり家族のために動きたくなるのが大黒柱としてのサガなのかもしれないな。」


「そうなのかもしれないわね、ディノが産まれてから今までより充実した顔をすることが多くなったように感じるわよ。」


「ハハ、そうかそれは守るべきものが多いほど男は強くなれるからかもしれんな。」


「じゃあ2人とも行ってくるよ、夕飯前には必ず帰るから2人はゆっくり過ごしててくれ。」


「行ってらっしゃいあなた。」

「行ってらっしゃいお父さん。」


俺とソニカは笑顔でドーゴンを見送った。


食事をしたからというのもあるが、ドーゴンの大胆でエネルギッシュ且つ、意外に細かいことにも気がつく性格のおかげで2人の表情は朝より明るくなっていた。


「お父さんはやっぱりかっこいいね。」


「そうよね、お父さんは頼れる人よ。」


父の背中というのは異世界に来たとしても共通して大きく見え強そうで、かっこいいものなのだと再認識したのだった。


「ディノ、それより聞くのは順番でいいのかしら、優先的に聞きたいのがあればその話題にするわよ。」


「お母さんにおまかせするよ。」


「じゃあまずは、世界の国々についてというより近隣諸国との関係についてかしらね。」


「うんっ、聞きたいっ!!」


やっとこの世界についてが詳しく聞ける時が来たので俺はいつになくワクワクしている。


「ラグザ王国の中心地から見て、北の軍事国家ラーベン帝国と西のアセルス王国、南西のザナヘント共和国とあるけど、どこの国からにしようかしらねぇ……。」

「やっぱり避けては通れないアセルス王国からね。」


「アセルス王国ってこの間まで戦争してたところでしょ?」


「さすがディノ、よく覚えているわね。」


「アセルス王国と私たちが住むラグザ王国は少し前から事ある毎に小競り合いを続けてきたの、とは言ってもアセルス王が傲慢で難癖をつけて領土拡大を狙っては戦争を吹っかけてきてる感じだからラグザ王もウンザリしているんだけど、放置したら放置したで勝手に領土を侵攻しようとする手前、無視もできない状況という感じの関係よ。」


「あとは未だに奴隷制が現存してるのも特徴的かしらね。」


「そのアセルス王じゃなくなれば少しは戦争が減るかもしれないってこと?」


「そうかもしれないけど、アセルス王家は先代も標的は違えどラーベン帝国に対して同じようなことを繰り返していたわ。その時はザナヘント共和国がヤンドーラ帝国だったときで、密約を交わして共謀していたみたいだけどヤンドーラ帝国が壊滅してからは勝ち目がないと踏んで大人しくなっていたのに、今の王になってからはずっとアセルス王国対ラグザ王国の関係性になってしまったからどうかしらね。」


「そのアセルス王家が変わらない限り小さいけど戦争はダラダラ続くってことなんだね……厄介な隣国だね。」

「他の国はどういう国なの?」


「そうね、次は……ラーベン皇帝が統治するラーベン帝国かしらね。」


「ラーベン帝国は元々は小さな国や部族の集まりだったんだけど、ラーベン皇帝が若い時に率いた軍が勢力を拡大して1代で築き上げた国で統治してからは作物が育ちにくい代わりに軍事力に心血を注いで国としての威厳を保っている印象ね。」


「ラーベン帝国は閉鎖的なんだけど食料難が深刻だから食料が豊富なラグザ王国とは貿易していてお互いに不可侵条約も結んでいるし、ラーベン皇帝は儀を重んじる人らしいから警戒心は強いけど一方的に不可侵条約を破棄するようなことも考えにくいわね。」


「どちらかと言えば友好的な関係性ってことなのかな。」


「他国とラーベン帝国の関係性と比べたらかなり友好的だと思うけど内情は閉鎖的故に分からないことも多いからなんとも言えない部分もあるのは事実ね。」


「次はザナヘント共和国だけど、ここは元々ヤンドーラ帝国っていうかなり国民に嫌われていた圧政を敷いていた国だったのよ。」


「行き過ぎた圧政や腐敗しきった上層部が原因で国民たちが反旗を翻して内線が起きた後に今のザナヘント共和国になったという歴史があるわ。」


「よく国民たちが勝てたね。」


「それは上層部に味方が少なくなりすぎてたって実情があったみたいで、その後はそれを教訓に民主的な政治が行えるように一極集中は避けるため王や皇帝を頂くのはやめて国民の総意で国を運営してるそうよ。」


「じゃあ、今は比較的平和な国なの?」


「かなり平和だと聞いているわ、ラグザ王国が国として反旗を翻した時に国民に対して助力したこともあって一国として成立するのも早かったしその後は永世中立国を謳っているからどこの国からも攻められなくなったわ。」


「永世中立国になるだけで攻められなくなるの?」


「そうよ、仮にひとつの国がザナヘント共和国に攻め入ったらその時を持って他国が攻め込んだ国に対して全勢力で報復措置をとることになっているのよ。」


「永世中立国だけど一応軍隊は一定規模保有が認められていて、自衛などに用いる時に活躍する想定だそうよ。」


「一気に話しちゃってるけど疲れてない、大丈夫かしら?」


「ちょっと情報多くて大変だけど面白いから大丈夫だよ。」


正直ここまでソニカが情報を持っているとは思っていなかったが嬉しい誤算だ。

元冒険者として世界を飛び回っていたからここまで情報が集まっているのだろう。



「そういえばラグザ王国自体はどんなところなの?」


「そうだった話してなかったわね、ラグザ王国は元々他国のように圧政が敷かれていたり閉鎖的な国だったんだけど十数年前から王位に着いたベルズ・ラグザ王になってからはかなり自由度の高い開放的な国になってるわ。」


「ベルズ王になってからは税も緩和されて貧富の差が少し解消され、他国に比べ国民の不満も少ないと思うし、何より食料が豊富で東には海があって南には大きな森林地帯があるから色々な食材もあって色んな料理が生まれるから世界情勢が安定している時は観光地としても人気よ。」


「近隣の中ではラグザ王国は土地や現国王には恵まれてるって思っていいのかな?」


「そう思っていいと思うわよ。」


近隣諸国についてかなりの情報が手に入ったが、この小さい体には情報が多すぎて眠気がかなり強くなってきていた。


「さすがのディノでもこの長さの話は疲れちゃうわよね、でも最後まで聞けてえらいわね、よしよし。」


ソニカは俺の頭を満面の笑みで撫でたあと抱きかかえた。

やはり母親の腕の中というものは落ち着くものだなと感じながら俺は眠気に抗えず寝てしまったようだ。




ガチャ、バタン


「あら、おかえりあなた。」


「おう、ただいまソニカ。」


「声小さめにね、ディノに話を聞かせすぎて疲れて布団で寝てるから。」


「そうか、どれどれぇ……こう見るとディノールも普通の赤子なんだけどな。ハハハ」


「そうね、1時間くらい前は目をきらきらさせて元気に話を聞いてたのに。フフフ」


「とりあえずこっちで温かいものでも飲みながら話しましょう。」


「そうだな、ちなみに今日はどんな話をしてたんだ?」


「近隣諸国について話したのよ。」


「そんな難しい話をもうあの子にしたのか?」


「最初は私も教育と言っても早すぎる気はしたのだけど、ディノったらもっと聞きたいって顔するもんだから思わず位置関係だけじゃなくてある程度の情勢まで話しちゃったわよ……。」


「おいおい、さすがに生後半年の子に対してそれはやりすぎだろぉ、俺が生後半年の頃はかあちゃんにあやされるだけだったぞ……。」


「でも、あの子は本当に特別よ……。」


「どうした、急に真剣な顔になって。」


「あなたにディノについて話しておきたいことがあるの。」


「お、おう。ドンとこいだ!!」


「頼もしいわね、ひとつ話す前に聞きたいんだけど、ヒーリングをディノにかけた時あなたはなにか見えたりしたかしら?」


「何かって、精霊の光がいつものようにならずに止まってたのは俺も見たぞ?」


「そうよね、私にも精霊たちが止まってしまっただけのように見えたわ……。」


「だけって……他に実際はなにか起きてたのか?」


「あの後、精霊達に何が起きたのか聞いたけどみんな怯えてしまって何も聞けなかったし、時間を置いてもこれといったことは聞けなかった。」


「精霊が怯えるなんてただ事じゃなさそうだな。」


「でね、今日ディノに少し話をふっかけて見たのよ……。」


「どんな話をだ?」


「率直にディノは秘密があるのか聞いてみたの、そしたらお母さんには隠し事はできないねって戸惑いながらバツが悪そうに言ったのよあの子……。」


「秘密!?で、なんなんだその秘密ってのは?」


「シィーー!!あの子が起きちゃうわ。」


「あぁすまん……続けてくれ。」


「ええ、ディノには黒いモヤが色々なところで見えているらしいの。」


「ディノールがそう言ったのか?」


「そうよ……で、ヒーリングをかけた時はそのモヤが術に干渉して精霊達を止めてしまったのをディノ自身が見ていたらしいのよ。」


「なんだその黒いモヤって……。」


「私にも分からないわ……。」


「でも、その言い方だとディノールの意思とは関係ないチカラってことなのかもしれないな。」


「私もそう思うわ、家の中でも普通に隅の方に黒いモヤが見えたりするらしいし、それが当たり前のように話していたから生まれつきそういう体質なんだと思うわ。」


「なるほどなぁ、思った以上に衝撃の大きい話だったな……だが、その黒いモヤと同じものが見えてるか分からないが世の中には不思議な目を持つ人もいるからその類かもしれないな。」


「それってあの子に、ディノに魔眼の能力が発現したってこと?」


「その可能性もあるってだけだがな……。」


「魔眼持ちって、その国に1人いるかよね?」


「みたいだが色々な可能性を捨てない方がいいだろう、何せ情報が少ないからな。」


「そうよね、決めつけたりせず今後も一緒に調べましょう。」


「そうだな、よく頑張って平然を装ってディノールのこと見守ってくれたな、ありがとう。」


「ありがとうあなた、でもね、あともうひとつ……。」


「なんだ?まだ秘密があったのか!?」


「これはディノから誰にも伝えないでと言われたのだけど、私ひとりで抱えきれないからあなたにだけ話していいかしら。」


「わかった、この先の話は聞いても知らないフリを今後しよう。」


「あの子の頭には今の記憶とは違う、まるで別の世界の記憶や経験があるらしいのよ。」


「待て待て待て……別の世界の記憶!?」


「そうらしいの、ニホンって国の青年の記憶らしいのだけど私には何がなにやらであまり理解できなくて……。」


「無理もないさ、そんな話俺だったらおちょくられてると思っちまうよ。」


「その記憶で歩いたり、話したり色々なことを思い出せるからあの子は言語の違いはあれど、発達の早いとんでもない天才児のように成長しているらしいのよ。」


「それはディノール自身が実際にそう感じてるってことか?」


「えぇ、今話したのはディノ自身が記憶に影響されて成長が早まったと考えてるって話してたことよ。」


「これまた、すんごい話が飛んできちまったな……。」


「でしょ、私どうしてあげたらいいか分からなくなっちゃって……。」


「なあ、ソニカ困惑するのも無理はないんだ、今は俺しか見てないんだから気の済むまで泣いたりしてもいいんだぞ?」


「ありがとう、あなた少し胸を借りるわね。」


「あぁ、俺の胸は2人を守り支え、背中は2人に道を示すために大きいんだからな……なんちゃって。」


「クスッ、頼りにしてるわよドーゴン。」


「久しぶりに名前で呼ばれるとむず痒いな……。」


「ソニカ俺はお前を愛しているし大切にしたいと考えている、それと同時にディノールのことも愛しているし大切なんだ、あの子がどんな体質や事情があろうと二人の大切な息子じゃないか、今はそれだけはっきりしてればいいと思うんだが、どうだ?」


「フフッあなた、クサいわよ……でもそうね、ディノはあなたとの大切な愛息子だもの迷うことなんてない、大切に育ててみせるわ。」


「ンゲッ!俺そんなに汗臭かったか?」


「違うわよ、口にする言葉がクサいセリフってことよ!!」


「そういう事か、ハハハってせっかく励まそうとしたのに酷くないか?」


「あらそうかしら?ごめんなさいね。フフッ」


「そろそろディノを起こして夕飯にしましょうか、あなた受け止めてくれてありがとう。」


「まあ、なんだお易い御用さ。」


そんなこんなの問答を俺は途中から聞いてしまった、なぜ声も出さずに聞いていたかと言うと起きた瞬間愛してるだの大切だの惚気が聞こえたからだ。

しかし、俺のことも夫婦がお互いに思うことと同様に大切にしてくれていることに感動してウルっと来ていたのは内緒なのであくびが出たということにしておこう。

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