第4話ディノールの秘密
翌日、朝ごはん後の食事用テーブルにて……
「おかあ、さん、お、とうさん、は?」
「お父さんはね、昨日の事を調べに街へ出かけてるわよ。」
早速、ドーゴンは戦仲間に昨日の出来事を聞きに朝から出かけてしまっているようだ。
「そう、なんだ……。」
ドーゴンは行動力が凄まじいようだな、だがそれより今日は本が読める一大イベントの日だ。
本はドーゴンの蔵書だと言う話だったので嫌な予感もするのだが、ソニカに読んでもいいか聞いてみるとしよう。
「お母さん、本、読んでも、いい?」
「そうねぇ……お父さんも昨日読んでいいと言っていたし、読むのは構わないけれど、ディノあなた文字は読めるの?」
「あ……。」
「ほらね、私も字は読めるけど字を教えるのが少し苦手でね……というより教えたことがないから変に覚えないか不安でね……。」
「むぅ……。」
俺は恥ずかしさを殺し子供っぽくむくれてみる。
「それよりディノもう少しお話の練習をしてみない?」
「おはなし?」
「ディノの成長が早いのは何となくわかってるの、一般的な子だったらまだ、立ち上がったりこうやって言葉のやり取りだって出来ないのよ!!」
「そうなの?」
俺はそこら辺の常識などは、もちろん元の世界の経験で持ち合わせているが、余計な詮索を避けるために一旦話にのってみることにした。
「そうよ、だから今のうちに得意なことをどんどん増やしていけたらいいなってお母さん考えてたのよ!!」
「じゃあ、どんな、話を、するの?」
「今から3つテーマをあげるから、その中からひとつだけ選んでちょうだい、その話をお母さんが聞かせてあげるから沢山言葉を覚えられるかもしれないわよ。」
「えぇ、全部じゃ、ダメなのーー?」
「一度に全部聞かせたら楽しみもなくなるし、そんなに話したらお母さん疲れて倒れちゃうわよ。」
「そっか〜、わかった!!」
正直どんな話が聞けるか分からないが、もしかしたら外の話やこの世界の能力の話なんかも聞ける可能性もあるので、素直に応じることにした。
「ディノは成長が本当に早いわね、いつもはあなたを隠れて見てる精霊たちも驚いてるわよ。」
「成長?それに、精霊が近くにいるの?」
「メキメキ成長してるわよ、今だって話している間に言葉の間の詰まりがなくなってきてるのよ」
俺は知らず知らずのうちにこの身体へより一層順応していたらしい、やはりこれも俺の一度目の人生経験とこの若い身体だからこそ成し得るものなのだろうか。
「精霊はね、この星の自然界に無数に存在している小さいけどチカラに満ちたすごい存在なのよ、自然を大切にする人は好かれて、自然を汚したり、足蹴にする人には寄り付かないどころか精霊たちの意思によって、自然が牙を剥くことだってあるのよ。」
ここでひとつ疑問が俺の中に湧き上がった、それは昨日のようにヒーリングが発動しなかったのは、俺が自然に嫌われているからなのだろうかということだ。
だが、ソニカの話はまだ続く。
「だからディノもなるべく自然を大切にして、精霊に好かれるようにしてみてね、精霊は単体では臆病だし気弱なところはあるけれど、しっかり意思もあるし仲間思いで集団になるとすっごいチカラを発揮するんだからね。」
この世界には魔法というより精霊術が浸透しているということなのだろうか、それとも魔法も精霊術もどちらとも存在してそれぞれ役割が違うのだろうか。
「じゃあ、昨日のあれはたまにあることなの?」
「んー、昨日のは正直初めての経験だから、そうある事じゃないと思うけど……お父さんが何か聞いてきてくれるかもしれないから、そんなに心配しないで大丈夫よ。」
そう言ったソニカの顔は、微笑んでいるように見えてどこか言葉とは裏腹に怯えているようだった。
「さ、話が逸れたけど何を話すかそろそろ決めない??」
ソニカは手と手をパチッと1回叩いて気持ちを切り替えるかのように切り出してきた。
正直、昨日の出来事はこの両親にとっても未知との邂逅で気が気でないのかもしれないが、情報がない以上これ以上掘り下げるのは心象も悪くするだろうしやめておくのが得策だろう。
「そうだね、何を、聞かせてくれるの?」
「まず1つ目は、世界の国々についてよ。」
「次に2つ目は、魔術や精霊術についてね。」
「最後3つ目は、古くから伝わる邪神についての童話よ。」
正直、こんなに悩ましい3択が来るとは思っていなかった。どうせ子ども相手だからと絵本に書かれるような話が来ると思いきや5歳や10歳の子が聞いても理解できるかどうかという内容ではないだろうか。
「ちょっと難しい内容かもしれないから、その都度質問があれば答えられる範囲で答えるつもりだけど、さすがに生後半年のディノには何が何だか分からない選択肢だったかしら?」
「大丈夫、だよ、全部面白そうで、どれも聞いてみたいくらいだからね。」
「あらさすがディノね、大人でもウゲッてなる話をわざと選んだのに全部気になるだなんてね!!」
まさか、なにか試されているのか?
それは考えすぎだろうか……優しくて温厚な母だが、察しが良くて鋭い部分もかなりあるなと感じている、俺からすると少し気が気ではない言い方をされたように感じる。
「やっぱりディノには秘密があるのかしら?」
唐突に投げつけられたその疑問に俺は答えを模索しながら精一杯の返答をする。
「どういうこと……なんでお母さんは、そう思うの?」
「それはお母さんだから……かしら?」
「と言いたいところだけど精霊がたまにお母さんに伝えてくることがあるのよ。」
「どんなことを?」
「この子は普通じゃない、他の人とは何かが違うから気をつけて欲しいって、てっきり成長が早すぎるから精霊たちがそのような事を心配しているのかと思ったけど、時折見せる子供らしからぬ雰囲気と、決め手は昨日の一件ね。」
「そうだったんだね、お母さんはやっぱりお母さんだね……隠し通せそうもないや。」
俺は洗いざらいとまでは行かないがここまでの経緯などを話すことにした。
「色々と話すけど、ひとつだけ約束してくれないかな?」
「どんな約束かしら?」
「このことはお父さんや他の人には伝えないで欲しいんだ。」
「事と次第によっては守れないかもしれないけれど、なるべくその約束は守るわ。」
「ありがとう、じゃあ…………」
まず俺は、転生者の自覚があることや自ら転生することを決めたことは一度隠しておくことにした、これを話すことで生後半年にして家を出ていかなくてはいけなくなったり、必要以上の亀裂をソニカとの間に生みたくないからだ。
しかし全て嘘で隠し通せはしないと思った俺は、前世の部分を、知らない人の経験や記憶が頭に溢れて来ることにし、黒いモヤが見えることを秘密として話すことにした。
正直、前世においての死の間際や転生云々の話はぼんやりとしか覚えていないという点も考慮してのことだ。
ソニカは、俺が話し出すと神妙な面持ちで食い入るように話を聞いていたが、意外なことに深く掘り下げようとしたり、予想したような数の質問はほとんどなかった。
「なるほどね〜、にわかには信じがたい話だけど身体の使い方や言葉を使って意思疎通を図っているのが、幼いながらにも分かっているのはその記憶が手助けをしていると考えると合点が行く部分も多いわね……。」
「その黒いモヤ?ってどんな時に見えるのかしら、常に見えるのか条件があったりするのかしら。」
「黒いモヤは、基本的に常に見えてるし、実はヒーリングって術をお母さんが使った時もそのモヤが邪魔をしてたのを見たんだ。」
「そうだったのねぇ……お母さんには見えてなかったけど、恐ろしい雰囲気を感じたり、敵意や実害を直接与えられたことはあるの?」
「それは特にはないよ。昨日だけ干渉されたと言えばそうなるかな。」
「ごめんディノ、黒いモヤに関しては何も情報がないからお父さんにもこの部分だけ話させてもらうわよ。」
「あと、ここまで急激に言葉が流暢に話せることはもう隠せないからね!!」
「もう隠し事はしないよ……。」
ごめんよソニカ、デタラメは言っていないけど全てを話せる時が来るまでは、もう少し隠し事をさせてもらうよ。
実はここまで歩み寄る姿勢で話を聞いてもらえるとは思ってなかったから罪悪感は堪らないほど感じている。
「ディノがそんな暗い顔をしたのは初めての事ね、疲れさせてしまったよね。」
「でも、正直に話してくれてありがとう。」
少し涙を含んだ目を細めて向けられた微笑みを俺は直視することが出来なかった。
「何回も話が逸れてしまったわね、正直、今の話はお母さん自身が受け止めきれてるか分からないけど、今騒いでも仕方ないようにも感じるし一旦横に置いておいて予定通りに1つ話を聞かせてあげるわよ。」
「まだ、お母さんとお父さんの息子でいていいの?」
俺自身なぜこの質問が口から出たのか分からないが、素直な元来の性格や良心の呵責がそうさせたのかもしれない。
「もちろんよぉ……ディノは大切な私たちの息子よ!!!」
ソニカも色々思うことがある中でも、息子の口から出た質問は悲痛な思いに駆られる部分があったのかもしれない、慌てて椅子から立ち上がったと思いきや、俺めがけて駆け寄り思いっきり抱きしめてくれたのだった。
その後は、お互いに涙を流しながら落ち着くまで母が息子を愛おしく抱きしめるように少しの時間を過ごした。
数分後……深呼吸して何かしらの覚悟を決めたような顔つきでソニカが質問してきた。
「本当に今日は話が逸れちゃったけど、お昼ご飯を食べたらなんの話しが聞きたい?お母さんとしては近いうちに全部聞かせてあげたいのが本音よ。」
「どれも大切な話題に感じるから1つ目の世界の国々の話から順番に聞いてもいいかな。」
「そうしましょうか、お父さんお昼に一度帰ってくるって言ってたから少し待ってご飯にしましょう。」
「わかったよお母さん。」
そうして2人は微妙な空気の中ドーゴンが帰ってくるのを待つのだった。
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