第3話ディノール

「アセルス王国との戦争も終結か……5年も戦地と行ったり来たりしてる日々が続くと日常が非日常に感じるな。」


「とにかくあなたが無事帰ってきてくれたのが嬉しいわ、今日はご馳走にしましょう!ディノールとも初めて会うでしょ!」


「そうだった、愛しの我が息子が産まれたんだったな〜、でディノールはどこだ?」


俺は、この会話とともに目を覚ました、この世界ではディノールという名前を授かったらしい、そして戦争に駆り出された父親も半年ぶりに家に帰ってきたようだ。


「おーディノールお父さんに似てイケメンになりそうな顔立ちだな?よし、抱っこしてやるか。」


「それにしてもこの子は全然泣かない静かな子だな、大丈夫なのか?」


「そうなの、この子最初の1週間以来滅多に泣かないのよ〜どうしちゃったのかしら。」


不意に父親の顔が近づいてくる。


「肝っ玉が座ってるってことだよなきっと。」


そういい父親は俺の鼻先をつつく。


「おぎゃーおぎゃー。」


(手くさすぎるだろ、戦地帰りだからか?きっついな〜)


「泣こうと思えば泣けるじゃないか〜。ハッハッハッ」


「あなたが怖い人だって思ったんじゃない?フフッ」


「おぎゃーおぎゃー。」

(違うよ!臭いんだよ!風呂いけ風呂に!)



「おいおい、そこまで泣くこたぁないだろ〜。」


「それより旅の疲れと汚れを流してきたら?」


「それもそうだな、ソニカも一緒にどうだ?」


「私はディノールの面倒見ながら夕飯作りますっ!」


「なんだつれないな〜〜なんてな!」


どうやら母親の名前はソニカと言うらしい、後に分かるが父親の名前はドーゴンというようだ。


ソニカは20歳前後ドーゴンは25歳辺りだろうか、何はともあれ夫婦仲はとても良さそうで安心した。


これからはこの2人とディノールとして新しい人生が始まるんだ。

何かを忘れている気がするけど……。


ちなみに泣くのは反論がある時だけだ、基本甘々で包容力の塊のソニカは、俺が不満を抱く必要がないくらい素晴らしい母親を全うしてくれている。まあ初の育児で1週間くらいはして欲しくないこととか色々されたのでめちゃくちゃ泣いたけど。


ドーゴンは、どんな父親なのだろうか少し楽しみでもあるが緊張もする。





生後1ヶ月が経った頃……




俺は既にハイハイと簡単な意思疎通を体得していた。

言葉は完全には話せないが理解はできているので、指さしや首の動きである程度まかなえている。


ハイハイで家中の大冒険をしたところ何冊かの本を見つけることが出来たがほとんど内容はまだ分からないものだった。


(なんといったって、字がわからんもん……)



だが、この世界についてわかったことが少しある。それはこの世界には魔法や精霊術という現世ではありえないような能力が有り触れているということだ。


それとこれはこの世界だからなのか、家の隅や外を見た時に黒いモヤが見えることが多いのは一体何なのだろうか、この世界はまだ謎だらけだ。



「ディノ〜ディノ〜どこ行ったの?ご飯よ〜。」



ソニカとドーゴンは俺が1人目の子供だからか1ヶ月にしてこの成長ぶりでもあまり変に思っていないようだ。



俺はハイハイの全速力で食事のテーブルに向かう。


「ディノどこ行ってたのよ〜!さっ食べましょう。」


いつもならいるはずのドーゴンの姿が見当たらない、どこに言ったのか気になったのであうあう言ってみた。


「あーぅあうぁーう。」


「んー?なにかな?お父さんがいないのが気になるの?」


俺はすかさず頷く。

察しがよすぎるソニカは俺の疑問にすぐに答えてくれた。


「お父さんはね、近くの森に魔獣が出たって報告を受けて街の男手集めて討伐に出かけたのよ、だからお昼ご飯は2人で食べるのよ。」


やはり、魔法も精霊術もあるってことは動物以外の強力な生き物もいるってことだったのか。

俺は納得し、ソニカとご飯を食べることにしたというより食べさせてもらうが正解だ。

授乳期間も何故か1ヶ月も経たずに終わりを迎え今では流動食を食べさせてもらっている。


俺がおかしいんじゃなくて、俺の常識的な成長とこの世界の常識がズレているだけなのかもしれないが今は確かめる術がない、おそらくは前世の魂か記憶を引き継いで若い体に転生したのが一番の原因だろうがな。



「ご馳走様でしたー、ディノお母さんが作ったご飯は美味しかった?」


「あうー!」


異世界?ということでご飯の味に馴染めるか不安だったが、体は新品ということで先入観はあれど味がどうこうは特に違和感はないようだ。


ガチャッ


「帰ったぞーソニカ、ディノールってあれ?もう飯は食べ終わっちゃったのか?」


「ちょうど今終わっちゃいました……残念だったわねってあなた弁当渡したでしょ?」


「そうだけどよ〜、みんなの頑張りで早く討伐できたから3人で食べようかと……。」


「そうだったのね、話し相手になるから今からでも食べちゃえば?」


「おーそうしようなディノール!」


「てかよーあの魔獣ちょっとおかしかったぜ?」


「ただのアースアントだって言ってなかったかしら?」


「見た目はアースアントだけど、攻撃の仕方とか属性が個体ごとにめちゃくちゃなんだよ、何か森で異変が起きてないと良いんだけどな。」


「そんなことがあったのね、これから討伐行く時はそれを頭に入れておかないと足元すくわれるかもしれないわね。」


どうやら今日はアリ退治に行ったようだ、だがそのアリの特徴が一致しない不可思議なイレギュラーが起こったらしい。

アースアント、話を聞く限りゲームのスライムみたいなモブ雑魚みたいだけど属性とかがごちゃごちゃだと確かに戦いにくいだろうな。

それでも早く討伐が終わったってことはやはり雑魚敵なのだろうか、早く外を見て回りたいものだな。


「今までアースアントが出たことない地区だったしやっぱり森の異変の前兆か何かと思っておいた方がいいかもな、ソニカも外に出る時は念の為気をつけてくれよ!」


そんなこんなでドーゴンはずっとアリの話ばかりしたまま昼飯を食べ終えたのだった。




生後半年が経った頃……




「ん、ん、んん、よ、い、しょっと」


この時俺は二足歩行に進化いや、あんよをおぼえた、言葉に関してはたどたどしいがある程度は話せるようになってしまった。

やはり前世で言語によるコミュニケーションを身につけてたおかげで、この産まれてまだ日が浅い体でも発達の速さなどに影響しているのだろうか。



「え?え?ディノが立ち上がってる!?あなたーーあなたぁあ〜〜。」


慌てて離れの蔵から走ってくるドーゴンが窓枠から見えた。


「はぁはぁ、どうした??何があった?」


「て!おいおいおい、ディノールゥウ?立てるようになったのか〜〜?」


「ぅう、ん。」


「やっぱりソニカと俺の子だなディノールは!ハハハッ」


「いいディノ、立ち上がれるからって高いところに登ったりしたらダメだからね、頭ぶつけたり怪我したりするからお願いよ。」


「う、ん。」


親バカとも言えるのだろうが、やはりこの2人の俺に対する感情の起伏や態度は、どれだけ俺の事を大切にしてくれているか、そしてどれだけ愛を持って接しているかが分かる。

素晴らしい両親の間に転生出来て俺は幸せ者だな。


その後も少しの間両親に褒め讃えられたあと、唐突にドーゴンから質問が来る。


「ディノール、なにか欲しいものやしたいことは無いか」


俺はこの時をある意味待っていた、子供の特権おねだりタイムだ。


「ほ、ほんが、よみ、た、い。」


何はともあれこの世界に関する知識はこの家から見える範囲でしか分からないし、街から少し離れた丘での生活なのでどのような土地柄なのかも分からない、まずは知識が欲しい。

恐らく人生2週目だから考えつく結論だろうがね……。



「お、おぉ本が読みたいのか?変わってるというか本なんてよく知ってるな〜」


「あなたの本はこの子には難しいでしょうし、絵本のようなものは王都に行かないと手に入らないわよね……。」


「おとう、さ、んの、ほんがい、い。」


この体の声帯に慣れてきたのか少しずつ話すのも流暢になってきた。


「でもなディノール、俺の本は精霊術とか魔法の本で面白くないかもしれないぞ。」


「それが、読み、たい。」


「ソニカはどう思う。」


「そうね、早すぎる気もするけどこの子には色々な可能性があるだろうし、この成長の速さだし剣や魔法の才もあるかもしれないから読ませてあげましょう。」


「そうだな、よしっ本のある部屋へ行こうかディノール」


俺はその投げかけと同時に大いに喜ぼうとしたその時だった。



バタンッ



初めてこの体で立ち上がって話していた影響を考慮するのも忘れていた俺は、盛大に尻もち&後頭部をぶつけてしまった。


「ヤダ、ディノ大丈夫?」


「落ち着くんだソニカ、精霊の力を借りて痛みを和らげてあげよう。」


「そ、そうね」


スー、ハ〜、ソニカは深呼吸をし神に祈るかの如く胸の前で手を組みあわせ、何かを唱え始めた。

正直俺は痛みを忘れワクワクしている、初めて異世界の能力を体験できるからだ。


「万物に宿りし精霊よ、どうか私の祈りを聞き届けたまえ……」


そう唱えるとどこからともなく蛍ほどの大きさの無数の光がソニカを包み込み、胸の前の手に集まる。


「ヒーリング」


ソニカの詠唱とソニカの手から俺の周りに光が移動しようとした時だった。

俺の周りに黒いモヤがうっすら集まり光を堰き止めてしまったのだ。



「あれ?おかしいわね、体をひかりが包むはずなのに精霊達が嫌がっているわ。」


「どういう事だソニカ…。」


「私にも分からないの……ディノ痛みはどうなの……。」


「なんとも、ないよ」


「そう、良かったわ。とりあえず心配のし過ぎも良くないしさっきのことはあなたの戦仲間にでも聞いてみてくれないかしら…。」


「そうだな、わかった。」


「ディノ、やっぱり本を読むのを明日にして今日1日念の為に安静にしましょう。何か変な感じがしたら教えてちょうだい。」


「わかった。」


んー残念、だが先程の黒いモヤはなんだったのだろう、ヒーリングを堰き止めたのか俺自身にはなんの効果も届いてない感じがしたが、ワクワクのおかげで痛みは吹っ飛んでしまったので今はとりあえずいいだろう。

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