10
陰間茶屋二階。
百尋、一人で酒を飲んでいる。
百尋 手に任せてはなお酌む、三盞の酒。酔中、独り楽しむ。誰有りてか知らん。
五助、入って来る。
百尋、飲みながら五六と話す。
五助 百尋…?
百尋 あぁ、良かった。あの子は出てこられたんだね。
五助 何でお前が…?
百尋 九十さんがいたでしょ?
五助 …お前、何をしたんだ?
百尋 簡単なことだよ。お金を出してもらう代わりに、俺があの人に見返りをあげるんだ。
五助 見返りって…?
百尋 俺を抱いて。君に抱かれたい。
五助 は…?
百尋 お願いだよ。俺を助けると思って。
五助 いや、待てよ。意味わかんねえよ、何で…?
百尋 俺もあの人の真意はわからない。でも、それで良いって言われたんだ。
五助 …抱くのか、俺が、お前を?
百尋 抱いて。俺を助けると思って。
五助 お前は、それで良いのかよ?好きでもないやつに頼まれて、好きでもない俺に
抱かれて、それで。
百尋 五助。俺は、君が好きなんだ。
五助 え…?
百尋 ずっと黙ってた。嫌われると思って。でも、もういい。君が好き。初めて会ったときからずっと。だから、君に抱かれたい。俺は多分、この先も体を売り続ける。でも、それは本当の俺じゃない。俺の本当の名前は、国俊って言うんだ。君にあげる。だから、お願い。国俊だけは、君が持ってて。
五助 …俺、ずっとお前に助けられてばっかで、お前に何も返せてない。けど、これがお前の望みなら、抱くよ。お前のこと。
国俊 ありがとう。
五助 国俊、か。何か、変な気分だな。
国俊 …ごめんね、勝手にこんなこと。
五助 謝るのは俺の方だ。お前にばっかり押しつけて…。俺、お初もお前も、同じくらい好きだ。だから…。
国俊 いいよ、もう。何も言わないで。
国俊、口移しで五六に酒を飲ませる。
国俊 全部、酔った勢いってことにしよう。
五助 …それで、良いのか?
国俊 うん。良い。
五助 …わかった。
二人、屏風裏に行く。
二人の帯や着物が屏風に掛けられる。
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