09

 陰間茶屋一階。

 支度をしている五助。

 入って来るお初。


お初 五助?

五助 お初!本当に出てこられたんだな。

お初 うん。姉様方から話は聞いてると思うけど…。

五助 全部知ってる。大丈夫だ。で、お前を出してくれたのは…?

お初 …あの人。


 九十、戸口で二人を眺めている。


五助 …あんたが?

九十 腑に落ちないか?俺は百尋の客だが?

五助 まさか…!

九十 まあ、その話は後だ。最後の仕事があるんだろう?

五助 何でそれを?

九十 早く行くと良い。それで全てがわかる。

五助 お前、お初に手ぇ出したら…。

九十 しないさ。この娘は俺の好みとは少し違う。

お初 …。

五助 それはそれで気にくわねえ言い方だけど…。お初、少し待っててくれ。すぐに戻ってくる。

お初 わかった。


 五助、二階へ行く。

 九十、煙管を咥える。


お初 …可哀想なお方ですね。

九十 ん?

お初 あんなやり方でしか人を愛せないなんて。

九十 …何の話だ?

お初 五助を手籠めにしたところで、あなたの心が満足することはないんです。それはあなたが一番わかっているでしょう?

九十 …わかっている。だが、百尋が俺のものにはならない以上、こうするしか方法はない。

お初 …あなたは、あの人に夢を見すぎたのです。陰間も遊女も体は売りますが、心までは手放しません。身請けされてもそれは変わりません。ただひたすら、私たちは本物の愛に飢えているのですから。

九十 そうだな。だから、百尋の本物の愛とやらを俺が最後に抱いてやるんだ。


 九十は煙を吐き出す。

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