08
陰間茶屋二階。
二場の続き。
百尋 それで?俺が何を悩んでると思いますか?
九十 五助のことだ。
百尋 …。
九十 違うか?
百尋 …近しくも遠く、といったところです。
九十 お前、あいつを好いているだろう?
百尋 …何のことです?
九十 惚けなくていい。
百尋 同業者に恋をすると?
九十 お前に嫌われているからな、俺は。お前が誰を好いているかもわかる。
百尋 勘違いをなさらないでください。五助のおかげで、俺はこの店の一番から滑り落ちそうになっているんです。目障りにこそなれ、間違っても恋などいたしません。
九十 お前こそ勘違いをしている。
百尋 何を?
九十 俺はお前がほしいが、俺のものになれとは言っていない。
百尋 …だったら尚更、あなたに愛を囁きましょう。九十さん。
九十 天邪鬼め。
百尋 そうあることがお望みでしょう?
九十 違いない。お前に愛を囁くのは俺一人で十分だ。
百尋 俺はもっとたくさんの人に囁いてもらわないと困るんですけど。
九十 今はな。いずれ俺一人で事足りるようになる。
百尋 …どういう意味ですか。
九十 金がいるんだろう?五助のために。
百尋 …。
九十 遊女を一人身請けするには、お前と五助の稼ぎを足してもどうにもならないからな。
百尋 …そうだとしても、あなたにだけは頼りません。
九十 何故だ?
百尋 見返りを求めるでしょう?
九十 当然だ。何、難しいことじゃない。お前に求めることは一つだけだ。そうしたら、その遊女を吉原から連れ出す手助けをしてやる。どうだ?悪い話じゃないはずだが。
百尋 その見返りが何なのか、言わないところに裏を感じます。一体、俺に何をさせるつもりですか?
九十 手の内を全部見せるにはまだ早い。俺の力を借りるか、それとも、自力で何とかするのか。決めろ。話はそれからだ。
百尋 …。
百尋、酒を飲む。
百尋 …あなたの望みは、俺を手に入れることでしょう?
九十 …。
百尋 でも、それはあなたがその気になればいつでも出来る。わざわざ五助を引き合いにする必要はない。
九十 …それで?
百尋 あなたは、俺を通して五助に何かをさせるつもりでいる。違いますか?
九十 さすがだな。当たってる。
百尋 五助を巻き込まないでください。
九十 それは違う。事の発端は五助だろう?お前は五助のために仲介役を買って出たに過ぎない。だったら見返りを五助が払ったって筋は通る。
百尋 …何をさせるつもりですか。
九十 それは、俺の力を借りるってことでいいんだな?
百尋 …はい。
九十 五助に抱かれろ。
百尋 え?
九十 二度と会うこともなくなるんだ。最後くらい、好いた男に抱かれても罰は当たらないだろう。
百尋 …それで、あなたは得をするんですか?
九十 大いに。
百尋 …わかりました。
九十 安心しろ。約束は守る。
百尋 そうでないと困ります。それに、あなたの言う見返りは、それだけではないんでしょう?
九十 勘が良すぎるのも考えものだな。お前はただ、大人しく抱かれていろ。
九十、百尋に無理矢理口づけする。
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