07

 金勘定をしている旦那。

 そこに入って来る五助。


五助 こんちは。

旦那 おう、ちょうど良かった。


 旦那、帳簿やら何やらを片付ける。


五助 何が?

旦那 会わせたいやつがいるんだ。

五助 俺に?

旦那 そう、お前さんにだ。ちょっと待ってな、呼んでくるからよ。

五助 はあ。


 旦那、二階に行く。

 五助、座って待つ。

 しばらくして、旦那が女性を連れて来る。


五助 え…。

旦那 こいつなんだが、お前さん、見覚えあるか?

五助 いや、あるわけねえだろ!誰だよ?

旦那 へえ。じゃ、お前さんの腕も落ちてなかったってわけだ。

五助 はあ?

旦那 種明かしといこうか?

百尋 そうですね。

五助 …その声、百尋?

百尋 当たり。案外、俺だって気づかないんだね。

五助 いや、だって、え、何で?

旦那 よしよし、知り合いを騙せりゃ上出来だな。

百尋 本当にこれでやるんですか?

旦那 使えるもんは使わなきゃ損だろうが。で、だ。五助、今からこいつを抱け。

五助 はああ!?

旦那 ぶっつけ本番で客の前に出すのはさすがに怖いからな。じゃ、あとは頼んだぜ。


 旦那、さっさと出て行く。


五助 いやいやいやちょっと待てよ、話が全然見えねえって!おい!

百尋 俺を抱くのは嫌?

五助 そういう話じゃねえ!どういうことだ?何でお前が女の格好してんだ?

百尋 そういうのが好きな人もいるんだよ。特に、俺は歌舞伎で女形をやってたから。

五助 へえ…まだまだわかんねえことだらけだな。

百尋 …。

五助 …何だよ?そんなにじろじろ見て。

百尋 五助も、いけそうだよね。

五助 何が!?

百尋 ちょっと紅を引いて、あんまり派手すぎない着物を着せれば…。

五助 待て待て待て!女の格好はしねえぞ!?

百尋 その分お客がつくのに?

五助 それは…確かにそうかもしれねえけど。

百尋 最近、君を目当てにここに来る人も増えてきたし、ちょうどいいんじゃない?

五助 …なあ、俺って今どのくらい稼げてるんだ?

百尋 あ、気になる?

五助 まあな。

百尋 ちょっと待って。確かこの辺りに…。


百尋、帳簿を出してくる。


百尋 あった。

五助 何だそれ?

百尋 帳簿。と言っても、この店のことだけじゃなくて旦那のいろいろも入ってるから勝手に見ると怒られるんだけど。


 百尋、話しながら本をめくる。


五助 お前、字が読めるんだな。

百尋 役者だったからね。


 百尋の手が止まる。


五助 ん?あったか?

百尋 …ここの、これが君の名前で、こっちが俺の名前。で、その脇にあるのが金額なんだけど。

五助 へえ。何て書いてあるんだ?

百尋 …俺と同じくらい、かな。

五助 え?いや、嘘だろ。いいよ、気遣わなくて。

百尋 見て。読めなくても形でわかるでしょ?こことここ。ほとんど一緒だよ。

五助 本当だ…。これってすごいのか?

百尋 すごいどころの話じゃないよ。このままだったら、すぐに追い越されるかも。

五助 俺が?お前を?いや、無理だろ、どう考えたって。

百尋 五助、歳はいくつ?

五助 十五だけど。

百尋 二つ下か。ちょうどいいね。

五助 何が?

百尋 陰間でいられる時間は限られてるんだ。十四までが蕾める花、十八までが盛りの花、そこから先は散る花って言って、十八を超えたらもうあまりお客が取れなくなってくる。俺はそろそろここを辞めるんだ。五助が俺に次いでこの店の一番になってくれるなら、俺も安心なんだけど。

五助 お前、ここ辞めたら何すんの?

百尋 何しよう。また歌舞伎でもやろうかな。地方に行けば、まだもらい手はあるだろうし。

五助 そういえば、何で歌舞伎やってたのにこんな仕事してんだ?お前なら普通に売

れそうだけどな。

百尋 ありがとう。でも、そんなに甘くないんだ。役者の俺を見てくれてたのは、不本意だけど、あのクズくらいだったし。

五助 あいつ、お前のこと大好きじゃん。

百尋 ただ迷惑なだけなんだけどね。

五助 その格好で相手してやったら喜ぶんじゃねえか?

百尋 嫌だよ。五助がやれば?

五助 何で俺が!

百尋 お金が必要なんじゃないの?幼馴染を助けるために。

五助 え…お前、何でそれ…。

百尋 お見通しだよ、そのくらい。

五助 …笑えるよな。陰間が遊女を買い戻すなんて。

百尋 笑わないよ。俺も、好きな人のためだったら、それくらいする。

五助 遊女の身請けって、思ったより金がいるんだな。俺、助けるって啖呵切ったけど、揃えられる気がしねえよ。

百尋 …もし、その子が自由になったら、君も故郷に帰りたい?

五助 帰れたらいいな。こんな仕事辞めて。

百尋 …手伝ってあげようか?

五助 え?

百尋 その子を吉原から出して、君も故郷に帰れるように。

五助 そんなこと出来るのか…?

百尋 出来るよ。俺、結構顔が広いんだ。そのくらいだったら、何とかなる。

五助 でも、金は?

百尋 あるところにはあるものだよ。…君がもし、俺の力なんて必要ないって言うなら、なかったことにする。けど、吉原から遊女を身請けするお金なんて、今の君でも何年かかるかわからない。使えるものは使っておくべきだよ。

五助 …俺、お前に恩を返せるかはわかんねえけど、よろしく頼む。

百尋 気にしないで。俺が好きでやってることだから。

五助 どうして俺を助けてくれるんだ?

百尋 将来有望な弟子に塩を送る、ってとこかな。

五助 え?どういう意味だ?

百尋 じゃ、俺は着替えてくるよ。旦那には上手く言っておくから。

五助 え、おい、ちょっと待てよ、百尋!


 百尋、五助、出て行く。

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