02

 陰間茶屋二階。

 部屋の奥に屏風。

 九十と百尋がいる。

 二人の前には食事とお酒。


九十 随分浮かない顔だな?

百尋 十両足りないからですよ。

九十 何だ?あの蜘蛛に取り立てを任されたのか?

百尋 困るのは旦那様じゃなくて俺です。いつも言ってるように。

九十 いいじゃねえか。月に一度、千両もらうより、毎日九十両貰った方が嬉しいだろ?

百尋 毎日百両だともっと嬉しいんですけど。

九十 俺に会う楽しみが増えたと思えよ。

百尋 今、お金が必要なんです。

九十 へえ?お酒の間違いだろ?


 九十、口移しで国俊にお酒を飲ませる。


百尋 あなたって人は… !

九十 お前の顔で怒られたところで可愛いだけだ。

百尋 やめてください。気色悪い。

九十 酒はちゃんと飲んだくせに。

百尋 もったいないからですよ。

九十 素直じゃねえな。そういうところも… 。

百尋 そこから先は言わなくて結構です。

九十 好きだぜ。百尋。

百尋 いいって言ったのに… 。

九十 それで?

百尋 はい?

九十 どうして金が必要なんだ?

百尋 … 。

九十 当ててやろうか?

百尋 あなたにわかるんですか?

九十 わかる。

百尋 本当に?

九十 そんなに疑うなら賭けをしようか?

百尋 嫌です。

九十 ちょっとぐらい考えろよ。

百尋 その賭けで俺は得をしないでしょう?

九十 するさ。

百尋 どんな?

九十 金をやるよ。俺の読みが外れたら、お前がほしがってる額を出してやる。

百尋 … 読みが当たったら?

九十 それでも金はやる。ただし、こっちは条件付きでな。

百尋 その条件は、教えてくれないんですね。

九十 当然だろ。それじゃ面白くない。

百尋 … 。


 百尋、煙管を咥える。

 九十、百尋から煙管を奪って咥える。


百尋 ちょっと。

九十 ん?

百尋 自分のがあるでしょう?


 九十、百尋に煙を吹きかける。

 百尋、煙を払う。


百尋 何ですか。

九十 お前の煙管で吸いたいんだ。

百尋 … 本当に何ですか。

九十 その顔。

百尋 え?

九十 お前、俺のこと嫌いだよな。

百尋 … 。

九十 知ってるんだぜ?他の客と俺とじゃ態度が違いすぎるからな。

百尋 … 。

九十 でも、それをどうこう言うつもりはない。俺はそこも含めてお前が好きだ。お前が欲しい。

百尋 … 嫌われてる相手に、よくそんなことが言えますね。

九十 どう思った?

百尋 どうって。

九十 こんなに一途な男、そうそういないだろ?

百尋 一途?俺と寝にきてるのに、他の女性を連れ込むあなたが?

九十 一途だろ?確かに女は取っ替え引っ替えしてるが、男はお前だけだ。

百尋 それで許されると思ってるんですか?

九十 妬いてるのか?

百尋 そういうわけじゃ。

九十 わかってる。むきになって反論しなくていい。

百尋 … 。


九十、百尋の顔を自分に向けさせる。


九十 俺は別にお前を咎めようと思ってるわけじゃない。むしろ、この先もずっと俺を嫌っていればいい。裏を返せば、お前がそういう態度を取るのは俺だけだからな。

百尋 … 物好きな。

九十 褒め言葉だ。


九十、百尋を自分に引き寄せる。


九十 俺の名を呼べ。百尋。

百尋 … 九十さん。


九十、国俊に口づけをする。


九十 お前が何を悩んでいるか、当ててやろうか?

百尋 … 賭けは嫌ですよ。

九十 わかってる。賭けはしない。お前の力になりたいんだ。

百尋 胡散臭い言い方ですね。

九十 本心だぞ?

百尋 わかりましたよ。それで?俺が何を悩んでいると思いますか?

九十 五助のことだ。

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