湿原

朝の陽射しが穏やかに降り注ぐ中、周友は自宅を出て歩き始めた。湖の向こうに広がる湿原へと向かうこの道のりは、彼女にとって静かな修行にも思えた。湿原に足を踏み入れると、一面の緑と湿気を含んだ心地よい空気が広がっていた。草花が風に揺れ、遠くから鳥のさえずりが聞こえてくる。周友は慎重に歩きながら、その広がりと静けさに心を委ねた。湖を横切るために小さなボートに乗り、静かな水面を滑る感触が心を落ち着ける。ボートはやがて湿原の入り口に到着し、周友はゆっくりと降り立った。


湿原に足を踏み入れると、目の前に広がる風景は一面の緑に覆われていた。湿気を含んだ空気が心地よく、周友の足元には湿った地面が広がっている。草花が風に揺れる中、遠くに鳥のさえずりが聞こえ、自然の息吹を感じさせる。周友は一歩一歩、慎重に湿原を歩きながら、その広がりと静けさに心を委ねた。


しばらく歩いた後、周友は小さな広場のような場所にたどり着いた。ここは特に静かで、美しい景色が広がっていた。彼女はその場所に腰を下ろし、取り出した手帳に初果への手紙を書き始めた。


手紙は硬い文字でとつとつと綴られている。


「初果ちゃんへ、


今日はひとりで湿原に来てみました。ここはとても静かで、美しい場所です。湿原の草花が風に揺れる様子や、鳥のさえずりが心を落ち着けてくれます。湖を渡るときのボートの感触も、まるで別世界に迷い込んだようで、心が穏やかになりました。


この場所に来ると、学校や日常の喧騒を忘れることができるし、なんとかなるかもしれないという楽観的な気持ちが生まれるかな笑。湿原にいるとの自分が浄化されるような気がします笑。初果ちゃんと今度は一緒に来てみたいな笑。


では、また。


周友より」




周友は手紙を書き終えると、風に揺れる草花を見ながら少しの間、静かに座っていた。次第に晴れやかになっていく自分の気持ちを包むように、手紙をポケットにしまい、彼女は再び湿原を歩き始めた。


空気は清々しく、鳥のさえずりが静かに響いている。彼女は深呼吸しながら、広がる自然の景色に目を奪われた。


歩きながら、周友は湿原の豊かな生態系に驚く。泥の中から生える植物や、ゆったりと流れる小川に浮かぶ水草は、彼女に自然の力強さと静けさを感じさせた。足元に広がる緑のじゅうたんは、彼女の心を落ち着けると同時に、自分自身の内面を見つめ直すきっかけとなった。


湿原の中心に差し掛かると、周友はふと立ち止まり、小さな湖を見つめた。湖面に映る自分の姿に、彼女はどこか懐かしさと親しみを感じた。自然の中にいることで、周友は自分の中に眠る感情や思いに気づく。これまでの自分が自由に自分らしく生きることを否定していたことを思い出した。


湖のほとりに座り、周友はしばらく静かに自然を観察した。風が水面を撫でる音、草の間を飛び交う昆虫の羽音、すべてが心に響く。彼女は自然の調和と自分の心の不安定さとの対比を感じながら、今の自分に必要なのはもっと自分自身に正直でいることだと思った。学校での孤立感、集団行動が苦手な自分…それらは決して悪いことではなく、自分の一部なんだ、自分もこの世界の一部なんだって気づいた。もしかしたら、自然のように、自分もただ流れに身を任せることが必要なのかもしれない。」

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