卒業おめでとう。早く結婚しよ


 いろいろ疑問はあったしツッコミどころもあった。

 倒れている間に一方的に話して聞かせられたので当たり前なのだが、じゃあそれに対して先生が改めて細かく教えてくれるかといえば、そんなことはなかった。


 とりあえずその後の会話で「俺、記憶メモーリア魔法使った」と聞いたことから「三人組から件の記憶を見たんですね」と察した。

 つまり先生は全部知った上で、私に過去の話をしていたのだ。


 そして「俺のことかばってくれてありがとな。優等生もやるときゃやるよなー」とぐりぐりと頭を撫で回されて、私の忘却オブリーオもちゃんと成功していたことがわかった。

 三人組は、先生に突っかかることも私に嫌がらせをしてくることもなくなっていた。


 ……しばらくの間だけ。


「一体どういうことですの!?」


 というのも、忘却オブリーオ自体はしっかりと三人組にかかっていたのだが、私の魔力不足が祟りある日を境に効力が切れてしまったらしい。

 その時の三人組の反応といったら、これまでにないほど荒ぶっていた。


「私達に魔法を使うなんて! どういうことか説明してくださる!?」

「ちょっとやり返されたからってそんな怒るなよ。お前ら、俺はともかくもうこいつにちょっかい出さない方が身のためだぞ」

「クズには聞いてませんわ! 口を出してこないでちょうだい!」

「未来のガルシアの嫁だぞ。下手なことしない方がいいぞ〜」

「はぁ!?」


 私を挟んで言い合う先生と三人組に、私は小さく息をつく。明らかに先生が火に油を注いでいるけれど、私はそれを止める気もなかった。


「本当ですの!?」


 睨みつけて隠そうとしない威圧に、私は恐れることなく答えた。


「……そうですね、将来的には」


 私もさらに火に油を注いで、もう引き返せない。

 「はぁ!?」という怒号が飛び、反面で「え、マジ?」という素っ頓狂な声も上がる。

 はじめての肯定に、昇進という名のガルシアの姓をもらってきたらしい先生は、口元を押さえて明らかに喜んだ。


「ニヤニヤとして気持ち悪い! 」


 そんな捨て台詞を吐き捨てた三人組は、以降は私に絡んでくることはなくなった。

 魔法実技の授業で私が魔法を使えるようになったことを知って、一度だけまた「はぁ!?」と言われたのみ。


 学力共に、私は実技の面でも優秀な成績を収めた。



 そんなこんなで平和……先生からのちょっかいさえなければ平和な学院生活を送り、無事に卒業の日を迎えて。


 指輪は何度か外そうとしたけれどその度に先生が飛んできて「俺のこと嫌いなの!?」と騒ぐので、婚約の噂だけはいつまで経っても消えることはなく。


「お前がさっさと頷けば俺だって安心できたんだぞ」

「私、学生ですし。先生は教師ですし」

「そんなの気にするなよ」

「ちゃんとまともな考えをお持ちなのに、クズぶらなくていいですよ」


 そう返せば、先生は居心地悪そうに照れを隠そうとする。人一倍義理堅い先生がなぜこんなにクズぶるのかは知らないけれど、それを見抜かれたことに、先生は嬉しさを感じているらしい。


「お前のそんなとこが好きだよ。結婚しよ」

「気が早いです」

「卒業まで待った。長かった」

「ちゃんと卒業できて良かったです」

「卒業おめでとう。早く結婚しよ」

「……あのぅ、この馬車はどこに向かってるんですか?」


 卒業式終わり、私はすぐに先生に呼び出され馬車に乗せられていた。揺られることかれこれ十数分くらい。

 先生は突拍子もないことをしでかすので、何を考えているんだろうとそわそわしてしまう。


「強要、脅迫、拉致、監禁」

「こら、不穏なワードをつぶやくんじゃない」


 過去に先生にされてきたことなんですけどね……。

 主犯であるはずの先生は、まったく他人事といった様子で焦りさえしなかった。


「お前に会わせたいクソ魔法使いがいるんだよ」

「えっ? ガルシア卿ですか?」

「よくわかったな。以心伝心かな」

「いえ違いますよね。なんでガルシア卿に?」


 私が困惑しているうちに、馬車が止まる。

 先生は先に降りると、紳士らしく私に手を差し出した。


「魔法省の重鎮だなんだって名前だけでかくなってるけど、先に言っとく。アイツ変人だから」

「変人……?」

「会えばわかるよ」

「いえ、だから、なんでガルシア卿に?」


 私の質問には答えず、先生は私の手を引いて立派な屋敷にずかずかと足を踏み入れる。

 使用人達が頭を下げて私達を迎え、慣れない上流の歓待に息を呑んだ。


 案内をしてくれる品のいい中年の執事の後について、通された部屋は客間のようだった。


「連れてきたよ」


 先生が声をかけると、長椅子に座っていた男性が立ち上がった。



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