第2話 いつも通り
「で、具体的には何をすればいいんだい?」
暫しの時間が経った後、勇葉は言った。その問いは至極当然のものだろう。
「魔王が…いるんですよ。」
魔王。それだけで大体のことは説明付きそうだ。だってこういう異世界では大体魔王に代表される典型的な悪役がいるのだから。
いつも通りだ。
「あー…なるほど。つまりそいつを斬ればいいってことだね。」
「そういうことです。」
獣綾は満面の笑みで答えた。その笑みにある裏は、あまり美しいものではないだろう。
「んで、そいつはどこに?」
「いえ…それが…。」
彼女は喉を詰まらせる。
が、すぐに詰まりは解消されたようだ。
「分からないんです。」
「え?」
彼女の言葉に勇葉は驚く。仕方ないだろう。
これはいつも通りではないから。
果たしてそれが原因なのかは不明だが。
「じゃ、見えない敵を斬る、気配切りしないといけないの?」
「…そうじゃないです。」
勇葉は気配切りをしたことがなさそうだ。それと同時に、何かしらの
「見つけてほしいってことです、こそこそ隠れてる奴を。」
「…それはまた、骨があばらのほうまで折れそうだよ…」
…いったいどういうジョークだ?
まぁ、深い意味はなさそうだ。
「まぁ、できる限りのことはやってみせるよ。」
そういう彼は、頼もしい…のか何なのかよくわからなかったが、転生直後に面倒なことになったみたいだ。けれども幸いなことに、伝刀を鞘に収めた時になぜか懐かしい感じがしたのだけしか、彼の悩みは無かった。幸いかは微妙だが。
勇葉たちは呑気にそこら辺をただ何事にも縛られずに歩き出した。
これがいつも通りにはならないだろう。魔王はすぐに斬られるだろうから。そうなれば、この二人は会わなくなるだろう。差別を止めるためだけについて行っているだけだから。
もし、二人が魔王を斬った後に出会ったなら、それは魔王だけが元凶では無かったということだから。
閑話休題。彼らはどこに向かっているのだろうか?
答えは存在しない。ただそこら辺をただ何事にも縛られずに歩いているだけだから。魔王のことなんて少なくとも勇葉の頭からは抜け落ちているだろう。獣綾は顔が暗いので、ちゃんと頭の中に入っているだろう。
「…うかれすぎじゃないですか、勇葉さん?」
前言撤回。顔が暗い理由は他にあった。
「いや…、君のような美しい人とデートなんてめったにないからさー…」
「なにいってんだこいつ。」
なにいってんだこいつ。
おっと、獣綾と台詞が被ってしまった。これがいつも通りにならないように気をつけないと。
あぁそうそう、魔王のことも覚えておかないと。
この調子じゃすぐに忘れそうだ。危ないな。
【時間経過…】
「疲れたし、なんかどっかに飯屋ない?」
文法が少し怪しくなるくらい、疲れたらしい。まぁ、5時間はうろうろしてたらそりゃあ疲れるわ。
「といわれましても、知らないものは知らないとしか言いようがないですよ。そこら辺の人に聞いてみればいいんじゃないですか?」
「そんなコミュ力あると思う?」
完全にノータイムだ。あと、頑張れ…。
「獣綾がいってくれば?」
「無理。」
蔑まれる立場じゃとてもじゃないけど無理だろう。
「んじゃ帰るか。」
おそらく、木で出来たあそこだろう。あそこに何かあるとは思えないが…。
「寝てれば空腹と疲労はきえる。何時もの事だ。」
彼のいつも通りは、虚しそうだ。
伝説の剣じゃなくても日本刀で十分! 夜桜洋和 @yozakurayouwa
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