第1話 異世界の現実

彼は日本刀とともに、玄関の扉を開けた。そこから目に飛び込んできたのは、正に異世界と言うべき光景だった。

雲一つ無い蒼い空、石レンガで出来た、美しい城下町。…本当に城下町なのかは不明だが。

彼は満を持してその世界へと飛び込んだ。日本刀を握りしめる力を強くして。


彼は外に出た。けれど、やることなんて無かった。

でも、それでも変わらない。そこら辺をただ何事にも縛られずに歩くだけなのだから。


「あの…」


とある少女に話しかけられた。


「どうかしました?」

「いえ、あの…、助けてほしいんですよ。」


彼女は紅色のメッシュの入った水色の髪をショートにし、水色のTシャツに黒のスカートを履き、首にはチョーカーらしきものが付けられている。そして最も彼女を際立たせているのはその髪から生えた獣耳である。そんな彼女をみて、勇葉は言った。


「可愛らしいですね。でも、それは可愛らしさを半減させますよ。」


そう言うとともに、勇葉は彼女のチョーカーらしきものを外した。それと同時に言葉を投げかける。


「お名前は?」


その問いに彼女は答える。


獣綾じゅうや


答え終わると彼女は言葉を発す。


「ってそんなことより、話を聞いてくださいよ!」

「いやぁ、すまない。つい見惚れていた。」


彼は前世で彼女以上の美少女を観たことが無かったので、ある意味仕方の無いのかもしれない。


「それで、話って?」


彼は真面目な雰囲気を出し始めた。それにつられて、獣綾は話し始める。


「はい。我々獣人族は、いま、佳境に立たされています。」


勇葉は獣人族という種族が気になったが、スルーすることにした。


「昔の獣人族という種族は、人と獣の恋によって生まれました。」


説明するらしい。


「そこから人と獣の恋はあまり珍しくなくなっていきました。なので、私のような獣人族は世に多くなっていきました。でも…」


彼女は顔を曇らせた。


「人間たちは次第に私たちのことを恐れ始めました。獣のように人々を襲いかかるのではないかと。」


彼女は表情を変えずに話を続ける。


「そして次第に私たちの扱いはひどくなっていきました。例えば…」

「いや、言わなくて大丈夫だ。想像は容易につく。」


勇葉はチョーカーらしきものを持ちながら言った。


「…分かりました。」


彼女は話を戻す。


「それを見て、獣たちは私達と関わらないようにしたらしいです。大方、私達と関わっていたら被害がこちらまで及ぶと思ったからでしょう。」

「なるほど、話の本筋は見えてきた。」


勇葉は大体分かったようだ。


「大方、その扱いを辞めさせてほしいみたいな感じだよね?」

「はい、その通りです。」


その言葉に勇葉は首を傾げる。


「じゃあ、なんで僕なの?」


その問いにノータイムで答えが返ってくる。


「その日本刀ですよ。」


勇葉はそれを聞いて伝刀をみる。


「その日本刀は、かつて獣人族の長が使ってたんですよ。別に日本刀自体はそんなに珍しくないんですけどね。」


それを聞いて、勇葉は驚く。


「なので、貴方は獣人族と関わりがあるのかなって思ったんですけど…」


彼女は勘違いしていたみたいだ。


「その反応を見るに、どうやら違ったみたいですね…。」


獣綾は落胆する。そんな彼女に掛けられるのは、勇葉の力の籠もった言葉だった。


「大丈夫だよ、だって僕は、醜い現実があったら変えたくなるからね。」


その言葉の意味を獣綾は理解出来ていないようだった。醜い現実が、彼女たちにとっての普通の現実だったから。


「つまりそれは、協力してくれるってことですか?」


彼女は目を輝かせる。


「まぁ、そういうことだね。」


その言葉に獣綾は喜んでいるようだ。今まで味方がいなかったから、初めて出来た味方に喜んでいるようだ。

獣綾は落ち着くと、彼に聞いた。


「お名前は?」


その問いに彼は答える。


勇葉ゆうは


答え終わると彼は言葉を発す。


「さっき聞いたよ、その言葉は」


勇葉は微笑みながら言った。


「たしかに、それもそうですね。」


そして少しの時が経った時お互いは笑い合った。

異世界の醜い現実を、なによりも美しい現実にする為に。こんな下らないことで、笑えるようにする為に。

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