第十七話:愛の言葉のシンフォニー

 秋の深まりゆく休日、詩織と陽花は学校近くの小さな公園でデートを楽しんでいた。二人は木漏れ日の差し込む静かなベンチに腰かけ、穏やかな時間を過ごしていた。


 詩織は今日、淡いラベンダー色のワンピースに白のカーディガンを羽織っていた。首元には、陽花からもらった小さな星のペンダントが、秋の陽光を受けてきらきらと輝いている。髪は普段よりも丁寧にカールを加え、優雅な雰囲気を醸し出していた。


 一方の陽花は、ライトブルーのデニムジャケットにホワイトのTシャツ、ベージュのチノパンというカジュアルな装いだ。耳には小さな月のピアスをつけ、普段よりも少し大人っぽい印象を与えていた。


 二人の間に、心地よい沈黙が流れる。そっと手を握り合い、互いの存在を確かめ合うように。


「ねえ、詩織ちゃん」


 陽花が、ふと思いついたように話しかけた。


「なあに?」


 詩織は、優しい眼差しで陽花を見つめる。


「詩織ちゃんのどこが好きか、言ってもいい?」


 陽花の質問に、詩織は少し驚いたような表情を見せる。しかし、すぐに柔らかな微笑みを浮かべた。


「ええ、聞かせて」


 陽花は、少し照れくさそうに言葉を紡ぎ始める。


「詩織ちゃんの、真剣なまなざしが好き。本を読んでいる時とか、勉強している時とか……すごく美しくて、憧れちゃう」


 詩織は、陽花の言葉に頬を赤らめる。


「それから、詩織ちゃんの優しさ。誰に対しても親切で、でも決して媚びることなく……そんな強さと優しさのバランスが素敵だと思う」


 陽花の言葉に、詩織の胸が熱くなる。


「あとね、詩織ちゃんの声が好き。特に、詩を朗読する時の声……まるで、透き通った小川のせせらぎみたいで……」


 詩織は、陽花の素直な言葉に、どんどん顔が熱くなるのを感じた。


「陽花さん……」


 詩織は、感動で声が震える。


「じゃあ、今度は詩織ちゃんの番だよ。僕のどこが好き?」


 陽花が、期待に満ちた瞳で詩織を見つめる。


 詩織は、少し考え込むように目を伏せる。そして、ゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。


「陽花さんの、明るい笑顔が大好き。まるで、曇り空を突き抜けて差し込む陽光のよう。私の心まで明るくしてくれる」


 陽花の瞳が、詩織の言葉に輝きを増す。


「それから、陽花さんの行動力。思い立ったらすぐに行動する……私には真似できないから、それがとても魅力的」


 詩織の言葉に、陽花は照れくさそうに頬を掻く。


「あと、陽花さんの優しさ。誰かが困っていたら、すぐに手を差し伸べる。その無償の愛に、いつも心を打たれるわ」


 陽花は、詩織の言葉に胸が熱くなるのを感じた。


「詩織ちゃん……」


 二人は見つめ合い、そっと微笑む。しかし、その瞬間、陽花の目に少し悪戯っぽい光が宿る。


「ねえ、詩織ちゃん。私の方が詩織ちゃんのこと、もっと愛してるよ」


 陽花の突然の宣言に、詩織は驚いて目を丸くする。


「え? そんなことないわ。私の方が陽花さんのこと、愛しているわ」


 詩織も負けじと言い返す。その様子が、まるで幼い子供たちの言い合いのようで、二人は思わず笑みを浮かべる。


「じゃあ、勝負しよう! お互いの好きなところを言い合って、どっちが多く言えるか」


 陽花が、目を輝かせながら提案する。


「まあ……そんな、子供みたいな……」


 詩織は少し困ったような表情を見せるが、陽花の熱意に押され、結局同意する。


「わかったわ。でも、あまり長くならないようにね」


 そうして、二人の「愛の言葉」の競争が始まった。


「詩織ちゃんの長い髪が好き。朝日に照らされると、まるで黒い絹のよう」


「陽花さんの健康的な肌の色が素敵。まるで、熟した小麦のよう」


「詩織ちゃんの立ち振る舞いが優雅で、まるでお姫様みたい」


「陽花さんの歩く姿が力強くて、まるで若い獅子のようだわ」


 二人は次々と言葉を重ねていく。最初は少し恥ずかしそうだった表情も、徐々に真剣さを増していく。


「詩織ちゃんの指が綺麗。ピアノを弾く時の姿は、まるで妖精のよう」


「陽花さんの筋肉質な腕が素敵。抱きしめられると、すごく安心する」


「詩織ちゃんの唇の形が綺麗。特に、微笑む時……」


「陽花さんの目が輝いている。まるで、宝石のよう」


 言葉を交わすうちに、二人の距離はどんどん近づいていく。顔を見合わせ、相手の目を見つめながら言葉を紡ぐ。その姿は、まるで愛の詩の朗読会のようだった。


「詩織ちゃんの香りが好き。ラベンダーの香りがして、すごく癒される」


「陽花さんの体温が好き。一緒にいると、心まで温かくなる」


「詩織ちゃんの寝顔が天使みたい。一緒に寝る時、ずっと見ていたくなる」


「陽花さんの寝言が可愛い。時々、私の名前を呼んでくれる」


 言葉を重ねるうちに、二人の頬はどんどん赤くなっていく。互いの良いところを言い合うことで、改めて相手への愛情を再確認しているようだった。


「詩織ちゃんの耳の形が可愛い。特に、恥ずかしい時に赤くなるのが……」


「陽花さんの首筋のライン、とても美しい。思わず見とれてしまう」


「詩織ちゃんの鎖骨のくぼみが素敵。いつもそこにキスしたくなる」


「陽花さんの背中の筋肉、触れるとドキドキする」


 言葉はどんどん大胆になっていく。二人とも、互いへの想いを隠すことなく吐露し始めた。


「詩織ちゃんの可愛い胸の膨らみが……」


「ちょ、ちょっと! 陽花さん!」


 詩織が慌てて陽花の口を押さえる。二人の顔が真っ赤になっている。


「ご、ごめん……つい」


 陽花が謝るが、その目には笑みが宿っている。


 二人は顔を見合わせ、そして同時に吹き出した。


「あはは! 私たち、なんてことしてるのかしら」


「うん、本当だね。まるで小学生みたい」


 二人の笑い声が、公園に響き渡る。周りを歩いていた人々も、その様子に微笑ましそうな視線を向ける。


「でも、詩織ちゃん。まだまだ言い足りないよ」


「私もよ。陽花さんの好きなところ、まだたくさんあるわ」


 二人は、また笑い合う。そして、互いの手をぎゅっと握り締める。


「ねえ、詩織ちゃん」


「なあに?」


「僕たち、きっと同じくらい愛し合ってるんだね」


「ええ、そうね」


 詩織は優しく微笑む。陽花も、満面の笑みを浮かべる。


 二人の周りには、秋の柔らかな風が吹いていた。紅葉し始めた木々の葉が、二人の愛を祝福するかのように舞い落ちていた。

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